サンマと利用者
大衆魚のはずのサンマを食べなくなったのは
何年前からだろうか。
祖母が生きていた頃は
毎年秋になるとよく焼いてくれたし
よく食べていた。
大根おろしに醤油をたらし
あの白い身を箸で取り
口に入れて噛みしめるたびに
白米が欲しくなる芳醇な香りと見事な味が襲ってくる。
だが
近年は値上がりし
なかなか食べるのは困難になった。
令和になった今は高級魚だ。
いつしか私は毎年サンマを食べなくなった。
「サンマ!サンマ!」
だから私は
利用者Aさんがスーパーで大振りなサンマを選び、食べたがった時
新鮮な気持ちで見つめた。
私の施設は毎週スーパーにお昼を買いに行く。
予算は600円だ。
サンマ1尾を買うと、他のおかずを買うのに響くが
それでもAさんはサンマを買いたがり
迷わずに買った。
Aさんはそれはもう、それはもうおいしそうに食べ
頭どころかシッポまで
ポリポリポリポリ食べ
最後には骨さえ食べていた。カルシウムだろうか。
私は人生で
ここまでキレイにサンマを食べ尽くす人を見たことがなかった。
同僚の話によると
他施設にやはり骨まで食べる人がいたらしいので
中にはいるのかもしれない。
あまりに利用者がおいしそうに食べるから
私も久々にサンマを食べたくなり
仕事帰りにサンマを買いにスーパーに行った。
だけど値段を見ると高くて
やっぱり私はAさんのように思い切り買えないなぁと思った。
おいしいものをおいしく食べる。
それは幸せなことだ。
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