セクシー田中さん/芦原妃名子
「セクシー田中さん」がドラマ化した時
あ、原作が芦原先生だ
と思ったのを覚えている。
芦原妃名子先生の作品は「Bread & Butter」しか読んだことがないが
あの作品が私は大好きで、特別だったのだ。
すごいなぁ、芦原先生の作品ドラマ化したんだ。
読んだことないけど、きっとあの作品も素敵なんだろうな。
そんな風に思った。
放映当時、ドラマはチラッと5分くらい見た。
主人公がベリーダンスを踊る作品、くらいにしか私は認識していなかった。
今年に入り、ドラマが終了した後
脚本家の方が個人インスタに書いたことが話題になっていると知り
その後、芦原先生がブログで経緯を説明していたのを読んだ。
色々あった、ということは伝わった。
芦原先生はあっという間にブログを閉鎖し
Xのツイートも一通り削除し
「攻撃したいわけじゃなくて。ごめんなさい。」とXにそれだけ書き残し、命を絶った。
命を絶った場所は、我が故郷栃木県だった。
私は泣いた。
泣き崩れた。
漫画家として成功する人は一握りで
自身の作品がドラマ化したり、アニメ化するのは名誉なことのはずなのに
こんな悲しい結末になってしまった。
結果論だが、ドラマ化が原因で命を絶つくらいならば
ドラマ化なんかしないでほしかった。
自分の作品を自分の好きなように描いてほしかった。
私は趣味で詞や童話を作っていて
それを他者とコラボすることが昔あった。
その時に嫌な思いをしたり、自分の予想外の展開になり、もう二度と他者とコラボはしたくないと思ったことがある。
自分の作品は我が子だ。自分自身だ。素肌をさらけ出した自分のようなものだ。
趣味の私でさえこうなのだ。
私は自分の創作の趣味を仕事にするのは向いていないと改めて思った。
自分の心をつぎ込んだ作品を商業に落とし込み、仕事として割り切るには一種の才能や強さや諦めが必要だと思う。
とはいえ、かつて私の作品のイメージイラストを描いてくれた方やアニメーションにしてくれた方がいたら
それは想像以上の出来で、コラボが非常に嬉しかった時も確かにあった。
自分の世界が新たに広がるような感覚。
あれは自分一人では無理だった。
他者の手が加わり、アニメ化やドラマ化全てを否定するわけでは決してないが
諸刃の剣なのだと思う。
自分の世界観や大切にしているものを尊重してくれる方ならばいいが
踏みにじられるようなことも時にはある。
仕事は一人ではできない。
自分の思い通りにはいかないことも多々ある。
芦原先生の死をきっかけに
様々な漫画家さんらが声を上げた。
漫画を原作としてドラマ化する場合
やはり相当に厳しい現実があるようだ。
私は漫画が大好きな人なので
漫画家さんが追い詰められる一因になるのならば
ドラマ化はしなくていい。
今回、どうしてこんな悲劇が起きてしまったか
テレビ局や出版社ら関係者が口を紡ぐ限りは
無理に漫画をドラマ化しなくていいと本気で思う。
もともと原作派にとって実写化は賛否両論だった。
今回の件により、今まで以上に実写化は慎重にならざるを得ないだろう。
今回の件をきっかけに、私は「セクシー田中さん」を読むか迷った。
未完と決まっている作品だ。
下手に手を出して読んで、絶妙な展開だったら切なくなるかもしれない。
だけど、芦原先生がそこまで大切にしていた原作だと思うと、どうしても知りたかった。
何を伝えたかったのかを読みたかった。
私は読むことを覚悟した。
「セクシー田中さん」は今7巻まで発売しているのだが
あまりの素晴らしさに私は一気読みした。
二時間半、私は夢中になってページを読み進め、そして最終巻を読み終わった後にまた泣けてきた。
想像以上に良作だ。
ドラマ化の話が来るのも納得の素晴らしさだ。
ここで終わりなのか。
ここで。
あぁ最後まで読みたかったな。
それが素直な感想だった。
「セクシー田中さん」の主人公、朱里はよくいる見た目はモテ系の23歳派遣OLなのだが、夢があったり仕事にやりがいがあるわけではなく、若い内に結婚して養われたいという願望がある。
それは派遣OLの給料があまりもらえないことに加え、好きな人との恋愛が上手くいっていなかったり、父親がリストラされ、給料が大幅に下がったという背景がある。
朗らかで笑顔がかわいい小柄な朱里だが、現実的で冷めている面や面白い一面もある。
そんな朱里の会社にいる田中さんは40歳独身で、今まで彼氏や友達ができたことがないが、仕事はピカイチ。
顔は老け顔だが、身長が高く、長い黒髪が美しい女性である。
朱里は田中さんがベリーダンスをやっていると知り、田中さんの生き方や考え方、ベリーダンスに感化され、田中さんに興味を持つ。
田中さんは田中さんで、朱里と関わったり、ベリーダンスを突きつめていく中で新たな出会いや刺激を見つけ、世界が彩られ、広がっていく。
「セクシー田中さん」ストーリーはこんな感じだ。
田中さんを地味な女性というより、本当にブスに描いている。
背が高い人が必ずしもスタイルがいいとは限らない描き方もリアリティがある。
私は朱里というよりは田中さん寄りの人生だが(年齢も近いし、独身だし、身長高いがスタイル抜群ではないし)
田中さんが不器用なりに真っ直ぐに生きる姿に感化されるのは朱里だけでなく、読者も同じだと思う。
姿勢や見た目の変化だけでなく、丁寧に生きる田中さんの良さに周りが気づいていくシーンは嬉しくなるし
田中さんが自信を持つと、読者も前向きな気持ちになる。
「セクシー田中さん」を読んでベリーダンスをやりたくはならなかったが
ベリーダンスや異国の文化について学べてワクワクしたし
私も何かしらに挑戦したい気持ちになった。
朱里もやりたいことが増えていったり
前向きに頑張り、体型が変わったりと
いい意味で変わってきて魅力が増えた。
そうなのだ。
「セクシー田中さん」の登場人物は関わる人とのやりとりで価値観が変わったり、新たなことに挑戦したい気持ちがわき上がるのだ。
読者も登場人物と同じように、前を向けるのだ。
恋愛のキラキラした面だけではなく
アフターピルの話や性被害の話もあったりとシビアであり
恋愛や結婚を考えさせられる。
三好さん、モテるタイプだよね、うん。
私もモテないから分かるわ…こういう男性って魅力的だよね。
「好きな人にはキレイよりかわいいと言われたい。」と田中さんが言うシーンがあるが
首がもげるほど頷いたわ。
ティントやプランパー、小西はよく知っていたな。
私は読みながらググったよ。
恋愛経験ある男性って、こういった言動で伝わるよね。
前の職場でモテる同僚がアイプチを知っていてビビったことを思い出した。
田中さんの恋が動き出したところで最終巻が終わり
最終的に田中さんがどんな選択をするかが気になった。
まだ読みたかったな。
先を読みたかった。
芦原先生、「セクシー田中さん」をもっと読みたかったよ。
改めて
お悔やみを申し上げます。
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