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ゲイ探しの旅 4(全12回)

-黒い手袋の女

さて、いよいよユーロスターでパリへと向かっていると、隣には日本人らしき女性で、夏の盛りにも関わらず、肘まである黒手袋をはめていて、ミステリアス過ぎて見なかったことにしようと思ったのだが、おもむろに『地球の歩き方』を取り出して日本人アピールをし出したので、どうしたものかと思っていると、「すみません、ちょっとお手洗いに行きたいので、前失礼しますね」と、声を掛けられ、戻って来たら最後、パリ到着まで話し続けてしまった。
彼女は手タレ(=手のモデルタレント)で、仕事上灼ける訳にはいかないからと手袋をしていること、片想いしている美容師さんを追い掛けて彼の旅行に随行していること、その美容師さんは別車両に乗っていること、この先の旅の日程などなど、なかなかに謎めく拗らせ系な女性で、そもそも手タレなんて職業の方に会うのも初めてで、何だか面白そうな展開になりそうな予感がしたので、パリ到着後、美容師さんとも合流したのだが、その美容師さんはノンケであるにも関わらず、ゲイに憧れているというこれまた拗らせた男性で、意味不明過ぎると思いながらも、何故か2人のペースに乗せられて、パリで一週間過ごした後、ヴェニス、フィレンツェ、ローマを一週間で巡る旅に同行することになった。再度言うが、美容師に片想いして無理矢理旅に随行する手タレアラサー女子と、ゲイに憧れを持つオネエ言葉で喋るノンケ美容師と、22歳の脛齧りゲイによる珍道中である。

ヴェニスの中心部は、如何にもな観光地で、システム化されたノリとでも言えばいいのか、目に入るようなレストランは、高い上に不味かった。きっと現地住民が行くようなお店は別にあるんだろうけれど、そこには辿り着けず、しかし、ホテルのクオリティだけは高かった。

フィレンツェでは、手タレ女子が意外にもアートに詳しく、ウフィツィ美術館でいろいろと解説してくれたり、オネエ美容師の現地在住の友人が連れて行ってくれたピッツェリアもトスカーナ料理のレストランも最高に美味しくて、初めて兎と鳩を食べた。

その後のローマでは、皆んなでベスパをレンタルして、私がオードリー・ヘプバーン大会が勃発したりして、コロッセオで黄昏たりもして、旅は道連れ世は情けとはよく言ったもんだと心底思った旅だった。

その後、手タレ女子には東京でお世話になることになるのだが、その時はまだその事実について私は知る由もなかった。

*以下記事へと続く

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