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ビロードの掟 第19夜
【中編小説】
このお話は、全部で43話ある中の二十番目の物語です。
◆前回の物語
第四章 在りし日の思い出(4)
次の週の日曜日、再び優奈と会った。
当初は先週と同じお店の予定だったが、急遽場所を変更したいと彼女が連絡してきた。指定した場所へ赴くと、おしゃれなカフェではなく、どこか裏寂れた昭和の匂い漂う喫茶店だった。カウンターの向こう側にはマスターと思わず呼びたくなるような男性が、ゆっくりとサイフォンでコーヒーを淹れている。
「すいません、相田さん。お忙しいのにまたお時間いただくことになって。それから急なお店変更についても失礼しました」
「いえ、僕は全然大丈夫です。それにしても優奈さん、こういうお店好きなんですか?」
「ええ、そうなんです。意外ですか?」
「え、まあ、そうですね。少し」
かつて優里と訪れた店の雰囲気を、凛太郎はその時頭の中に思い描いていた。
「優里はどちらかというと、この間相田さんが待ち合わせ場所に選んでくださったようなおしゃれなお店が好きでしたもんね」
クスリと優奈が笑った。その表情を見て、改めて彼女と優里は双子なんだなと思ってしまう。
「まあ──そうですね。僕らの学校がある場所は近くにレトロな喫茶店がたくさんあることで有名だったんですけど、彼女と付き合っている時は一度たりともそうしたお店には行ったことがなくて」
「なるほど」
「ただ当たり前ですけど、一緒に生活していたからといって何もかも似通うなんてこと、ないですからね。以前読んだ何かの雑誌で双子は顔だけではなくて趣味や嗜好がそっくりになるなんてこと言ってましたけど、あれはなかなか信憑性が薄そうです」
店員がやってきて注文を聞いてきた。優奈と凛太郎はアイスコーヒーを注文した。
優奈はどこか考える素振りを見せた。何やらいつかの記憶に想いを馳せている、そんな感じの表情である。
「実際のところを言うと、好みに関していえば昔はとても似ていたんですよ。姉もどちらかというと懐かしさ漂うものが好きでした。祖母の家の近くに駄菓子屋さんがあって、二人してお菓子やビー玉、紙風船を買いに行った覚えがあります。でも、なんですかね、高校あたりから優里は次第にそうしたものを好まなくなった」
凛太郎は優里が女子高生だった時のことを頭に描こうとした。彼女は不思議と人を惹きつけるものがあったから、高校時代もそれなりに友人に囲まれて育ったことだろう。
「──何かきっかけがあったんですか?」
凛太郎が質問すると、ふっと優奈が肩の力を抜いたことがわかった。彼女は右肘をテーブルに立てかけ、そして拳を軽く顎の下に添えた。
「今となっては正直理由はよくわかりません。それと元々彼女はそれまで天真爛漫という雰囲気の人だったんですけど、同じくらいにどこかあまり自分を表に出さない、一歩引いたような立ち振る舞いをするようになりました。私の勝手な予想ですけど、たぶん周囲の人たちに自分を合わせるようになったのかなと思います」
みんなで一緒に夜の遊園地へ行った時のことを凛太郎は思い出していた。あの時の優里は、凛太郎の頭の中にある印象とだいぶ異なっていた。優里と付き合っていた時、彼女はどちらかというと物静かな印象だった。あの日は優奈の言葉通り、天真爛漫という言葉がぴったりくるくらいどこかはしゃいだ様子だった。もしかしたらあの姿が、彼女の本当の姿なのだろうか?
「それで、あの、相田さん。また姉との思い出について聞かせていただけますか?」
「ええ、そうですね。ちょっと時系列がバラバラで申し訳ないのですが──」
<第20夜へ続く>
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