第2回 発掘調査はブートキャンプ①
展覧会をもっと楽しむ!“古代エジプト文明専門家”河合望先生インタビュー(全5回)
エジプトでの発掘を30年以上続ける河合先生。日本から遠く離れた場所で、調査はどのように進められていくのでしょうか。現地での様子を聞きました。
取材・構成:渡辺鮎美(朝日新聞メディアプロダクション)
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河合 望(かわい のぞむ)先生 プロフィール
金沢大学新学術創成研究機構教授。金沢大学古代文明・文化資源学研究センター副センター長。専門はエジプト学、考古学。30年以上にわたりエジプトでの発掘調査、保存修復プロジェクトに参加。
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――サッカラ調査隊の規模はどのくらいですか。
考古学のチームは私を入れて6人ほど。ミイラを担当するチームは本展のもう一人の監修者である坂上和弘先生らお二人。ほかに修復や建築、動物のミイラを専門とするカイロ・アメリカン大学の先生、保存修復の専門家など、総勢10人ほどのメンバーです。
サッカラ遺跡にて、人骨出土状況の撮影の様子 © North Saqqara Project
人類学者(坂上和弘先生〈手前〉、馬場悠男先生)による人骨の調査 © North Saqqara Project
――現地での毎日の様子も知りたいです。
朝は6時ごろ宿舎を出発、7時に現場での作業を始めます。正午に一度休憩があり、エジプト料理などで軽く昼食をとって、午後の作業です。
掘って終わりではなく、そこからが大変。午後は遺物を接合したり、修復したり。写真を撮って実測して。午後3時、4時ごろまで現場にいます。
宿舎に戻ったら大急ぎでシャワーを浴びて、食事、そしてミーティング。終わったらその日のデータを整理するために深夜までデスクワーク。もうブートキャンプみたいな状態です。
発掘現場の河合先生
――外での作業は暑さ対策も必要ですよね。
日中は40℃以上の炎天下。日なたはじりじりと焼かれる感じです。とはいえ暑いことはわかっていますからね、日陰に行くと結構涼しかったりもしますよ。
現地ではともかく、水分補給で熱中症対策をすることが一番大切。だんだん疲れてきますから。粉末状のスポーツドリンクの素を日本から持って行って、水に溶いて飲んでいます。
現地の人も水を飲みますが、彼らは大きな土の甕(かめ)を持っていますね。冷たさを保つ、クーラーボックスのような土器があります。
――日本でする準備や、必ず持参するものはありますか。
機材などは日本から全て持参するので、そういったものを取りそろえること。記録用の文房具なども、普段使い慣れたものを持って行きます。
自分用には調味料、みそ、しょうゆはたいてい用意します。
――休日の楽しみはありますか。
現地では週休1日で、金曜日がお休みです。
金曜の夜は、みんなで食事を楽しむことが多いです。焼き肉、韓国料理レストランなどに出かけて、そこでビールを飲んで――それが次の仕事の活力にもなっている気がしています。
日中は、休みの日くらいしか博物館や他の遺跡に行く時間がとれないので、そういったところを回っています。半分仕事の延長のようですが……。平日の作業の残りを片付けなくてはいけないことも多いです。
わずかなことですが、朝ゆっくり寝られるのがうれしいですね。日本人だけでなく海外の研究者も加わって、大勢で集団生活を送るわけですから、仲間と互いに干渉せず自由に過ごすことも、精神的なバランスを保つためには必要だと思います。
滞在中、エジプト人の友人から食事に招かれて
――そういった生活が1カ月半から2カ月ほどですか。
なので、日本に帰ってきてからの「リハビリ」が大変です。日本的な社会生活に慣れなくてはならないし、現地でエネルギーを使い果たして、脳みそまで溶けちゃっていますからね(笑)
(第3回につづきます)
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特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」
会期:2021年10月14日(木)~2022年1月12日(水)
会場:国立科学博物館(東京・上野公園)
※会期等は変更になる場合がございます。
※開館時間、休館日、入場料、入場方法等の詳細は公式サイトをご確認ください。