「既知の未知」を求めて―『サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」』(デイヴ・グールソン/NHK出版)
この手の本を手に取る人のほとんどは、昆虫と生態系の問題、昆虫の減少、昆虫と農薬の問題についてかなり知っている。だから、Amazonのレビューの評価でも、低い評価をする人が出てくる。自分は「知っている」と自負する人は読まなくてもいいのかもしれない。
かくいう私も多少のことは知っていた。例えば、昆虫が植物の受粉にとって大きな役割を果たしていること、さらに農薬ネオニコチノイド系の問題などなど。でもちょっと考えて読むことにした。そして読んで正解だったと思っている。
それは、専門家だけあって知識が体系だっていること。人間と昆虫の関係についてである以上、花粉を媒介する存在としてハチに関する叙述が多くなるのは致し方ないが、それでも昆虫全体にまで目配りされている。また、現時点で統計学上の有意の問題も含め、疑問が残る点に関しては自身の考え方と合わない部分でもその点を指摘して誠実だ。また、種子をコーティングした農薬に触れているが、今後種子の自家採種が減り購入が増える可能性が高いことを考えるとその指摘は重要だし、日本のように除草剤に関する制限が甘い国としてはそれに関する部分も興味深い。
また、農業政策や環境政策に関する部分も面白い。詳しく言及されるのはイギリスもしくはEUのものだが、EUが日本よりも厳しい制約を課していてもザル的な部分があること、また農家に対する補助金の部分では、日本よりは農家に対する保護政策が充実しているイギリスやEUの問題点も指摘されている。さらに、地域ごとに行われている様々な農薬使用などに関する制限も参考になった。そして、やはり「食肉」の問題は避けられないと改めて感じた(誤解されると困るので書いておくと、著者は菜食主義者のように肉を食べることを否定していない)。
あと、光害の話も出てくるが、私は過度のライトアップについては苦々しく思っている。
ちなみに、第4部第16章「ある未来の風景」は、マヤ・ルンデ『蜜蜂』の「2098年の中国」に関する部分を思い出した。
本文に出てくるが「未知の未知」だけではなく「既知の未知」はつきないものだ。