友達に教えたいリスクとお金の話(8-3)
第8章では投資による資産形成を阻害しがちな個人の「心」「行動」について考えます。投資を通じて資産を作るうえで、これが一番大事で難しいことなのです。
「暴落して半値になった」「株式投資はゼロサムゲーム」
SNSでは「株式投資はゼロサムゲーム」「投資はギャンブル」「NISAやイデコは政府が仕組んだ陰謀」などという極端な意見を目にします。
もし本当に投資がギャンブルならば、生命保険会社や公的年金といった機関投資家が株式や債券投資を行うはずがありません。機関投資家が株式や債券を基本ポートフォリオの構成資産とするのは、日本だけのことではなく、世界では常識的なことなのです。
株式や債券という伝統的資産は現代資本主義の根幹をなす資金調達の仕組みですから、これらへの投資を「ギャンブル」「陰謀」という人は、資本主義の根幹を信じていないことになります。いまや共産主義国の中国やベトナムさえ、市場経済を取り入れ、企業は株式や債券で資金調達をしているのですが。
ではなぜ投資を陰謀のように感じる人たちがいるのでしょうか。
これまで見てきたように、投資をギャンブルやゼロサムゲームに変えてしまうのは、投資家自身の心の弱さです。「いい株を選んで資産を2倍にしたい」「予測を当てて大儲けしたい」という誘惑に負ければ、あっという間に投資はギャンブルに変わり、ゼロサムゲームとなります。投資に過大な期待をした結果、失望した人はこのように考えるのでしょう。
また、投資陰謀論を唱える人たちの中には「リターンはリスクのご褒美」という大前提が理解できていない人もいるでしょう。「無リスクで儲からないと詐欺だ」という都合のいい思い込みのため、金融商品に「だけ」ゼロリスクを求めてしまうのです。
「だけ」と書いたのは、そもそも人間の生活自体が無意識にとっているリスクの集合体だからです。自動車に乗れば自動車事故の、飛行機に乗れば飛行機事故のリスクが、低くても必ずあります。その代わり速く目的地に着ける「リターン」もあるのです。また日本では世界の巨大地震の7割が起きるため、日本に住み続けること自体が地震のリスクをとっていることになります。
「そんな、馬鹿らしい」と思う方は自身または配偶者の仕事について考えてみましょう。途中で転職をしたとしても、多くの場合は20代で選んだ仕事が一生を決めてしまいます。よかれと思ってした選択の結果、50代になって学生時代の仲間と大きく生涯年収が違ってくる場合もあります。特に、起業した人は大失敗して財産を失うことも、大成功して富裕層の仲間入りをすることもあります。
すべての選択には必ずリスクつまり「不確定要素」があり、リスクとは「損をする」ことだけではなく「益を得る」プラスを生み出すものでもある。それは職業選択や企業に当てはめてみるとよくわかるでしょう。
投資をギャンブルやゼロサムゲームにしないためには、分散投資と長期投資を徹底し、過大な期待を持たず、短期売買や相場の方向性を「当てる」取引を避けることです。(次項に続く)