出会えた奇跡に感謝する「アイネクライネナハトムジーク」
ドリパスでひさしぶりに
「アイネクライネナハトムジーク」の映画を観た。
自分が旅をしたせいか
舞台の仙台がとても身近に感じた。
ペデストリアンデッキで街頭アンケートに立つスーツ姿の春馬くんがそこに立っていたような
画面の中の仙台の街並みが懐かしい。
仙台駅や画角からはみ出ている道まで思い出すから
実際に体験したことってすごいなと思ってしまう。
佐藤(三浦春馬さん)は、マーケティング調査会社で
仕事をしている普通のビジネスマンだ。
この映画の原作者の伊坂幸太郎さんも
映画を撮った今泉力哉監督も実際に仙台で暮らしておられるそうだからこの街の良さはとてもよくご存じなのだろう。
駅あたりは都会でビルが立ち並んでいるが、ちょっと離れると地方都市が色濃い仙台が鮮やかに画面の中で撮られている。とても暮らし良さそうな街だった。
映画の役名も佐藤と藤間だけ苗字しかないのって意図してつけられているのだろう。
春馬くんも理解して普遍な普通のひとだと言う理解でいいんですよね?
と衣装合わせの時に監督さんと意思の確認をしたと言うからとても普通を意識して演じているように思う。春馬くんはオーラを隠しきれないで普通を演じていてもやっぱりカッコいい。
監督さんもカッコ良すぎると言ってらしたようですけど。笑。
土浦を訪ねた時も東京で縁の方達と少し話せた時も、皆さんが声を揃えて「春馬くんは普通の人ですよ」と言っていらしたように、
きっと佐藤のように普段の春馬くんも自然体なんだろうと思う。
もちろん映画の中では意識して普通の佐藤を演じていた。
佐藤は、先輩同僚の藤間(原田泰三さん)が奥さんに出て行かれたショックでオフィスでハードディスクを勢いで倒したところも話の流れを知っているせいで
春馬くんがアイスコーヒーを片手にどんなリアクションをするのか注視してしまった。
本当にその瞬間、アイスコーヒーを持ちながら飛び上がっていた。すごい絶妙のタイミング。
ハードディスクにコーヒーをこぼしたせいで街頭アンケートを命じられた佐藤のまえに就活中の紗希(多部未華子さん)が通りかかり、アンケートに答えてくれる。
たくさんの人に声をかけても素通りされている佐藤は自分から頼んだくせに(アンケートを)「いいですよ」と答えてもらっていても思わず「いいんですか?」と逆にたずねてしまう。
このふたりの掛け合いがこの映画の中のふたりの関係を象徴しているように、互いを大事に思っているのにどこかボタンがかけ違ってしまうのは、
こんな佐藤のとぼけたところのせいなんだろうなと思う。
原作では10年のときを挟んだオムニバスで
いろんな人たちが登場してそこでも
ギターで街頭演奏している斎藤さんだけが
かならず関わってるという内容だった記憶があるので、映画の中でもその折々にペデストリアンデッキに立つギターを持つ斎藤さんは、かならず話しの折々に登場してくる。
映画の中の人たちは仙台の街で暮らす
本当に普通の人たちの日常だ。
佐藤の同級生の小田(矢本悠馬さん)は、大学の同級生だけれど、どこか掴みきれない個性的な人で、
付き合っていた大学同窓マドンナのゆみが、
妊娠したことを知るとすっぱりと大学をやめて
居酒屋で働きながら結婚することにする。
いいかげんそうに見える小田は、「子供が出来たことでゆみと俺は子供のお陰で太い絆が出来たんだよ」と佐藤に告げる誠実なんだかいいかげんなんだかわからない謎なキャラクターだ。
その妊娠した子供が美緒ちゃんとして生まれ、
お父さんそっくりに友達の佐藤を
「お 佐藤じゃん」
と呼び捨てにする可愛いキャラクターだが、佐藤も「お 美緒じゃん」と呼んで可愛がっている。
原作の中で10年の流れが描かれているように
この映画の中でも登場人物の10年後の世界が描かれている。
美緒(恒松祐里さん)は、高校生になってお父さん子だったのに、しっかり思春期のオヤジ大嫌いな女子高生になったし、
佐藤と紗希はいつからなのか同棲して一緒に暮らしている。
ふたりの結婚は、まだなようでやっと佐藤も結婚を意識しはじめて紗希を高級なホテルの上階の夜景が見えるレストランに誘い、プロポーズを画策するも、
どこかとぼけた佐藤は、場を読み違えてプロポーズを自宅前駐車場で繰り広げてしまい、大切な求婚なのに、紗季に自分の気持ちを上手く伝えられない。
紗希と出会う前の佐藤は出会いがないと小田にこぼし、彼から「そんな都合よく目の前に、お前好みの妙齢な女性が出てくると思っていることが間違いで、新しい出会いに期待するよりも、今ある関係に感謝出来ることが大事だろ」と言われたりしている。
何気に小田はこの映画の中でいいかげんなようで
正しいことを言うキャラクターなのだ。
この映画は特別なドラマティックな展開などはない、春馬くん曰くパンチラインがない映画なのだけれど、
自分の持っている幸せにどれだけたくさん気付けるかを伝えてくれる映画なんだと思う。
自分の住んでいる街の良さや
学生生活や家族との絆、人と出会えたことへの喜びや感謝。全ては偶然に起きているようで
そのひとつひとつは、実は大切な出会いや奇跡の連続なのだと思う。
それは今自分が過ごしている日常も
そうなんだと教えてくれる。
そして小田の言うようにそれに自分が気づけるか。
それを伝えてくれる映画だと思う。
家を出た紗希の乗るバスを走って追いかけ続けた
佐藤は錦公園で追いかける彼に気がついた紗希と
出逢えるけれど、公園に夜桜が咲いていることで、
撮影は春だったんだなと気がついた。
私が訪ねた時にも満開の桜が迎えてくれたっけと
歩いている道が桜ふぶきだったことを思い出した。
ふたりの住むマンションに仕事から帰ってきた佐藤は
部屋の灯りに気がつく。
紗希に、はにかんだ「ただいま」「おかえり」と声をかける。
ふたりで夕食をとりながら
紗希の言う「いいですよ」を「なにが?」と返す、
いつものとぼけた佐藤。
「結婚いいですよ」という紗希に「いいんですか?」
とあらためて聞いてしまう佐藤。
「ダメですか?」と答える紗希の笑顔が綻ぶ。
幸せそうなふたりの会話はどこか
生まれ変わった拓人と恵にも思えて
涙がこぼれ落ちてきた。
春馬くんの今世は完璧な役者として生まれて来たけど、来世では「佐藤」みたいなどこか優しい
とぼけたひとで生まれ変わって、平凡な人生を
送り、紗希みたいなひとと出会って結婚して欲しい。そんな想いで「アイネクライネナハトムジーク」を観てしまった。