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野口大介 本音

現実とは時に残酷なものだ。どんな強い想いを持っていたとしても、思ったように進まない時がある。野口大介は大きな身体を屈ませながら、エレベーターを降りてきた。2024-25シーズン、このビッグマンはコートにいない。彼は今何をして、何を想っているのか。そこで溢れた本音。野口大介の今に迫る。(取材、撮影:宮本將廣 撮影協力:株式会社サン広告社)

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それがBリーグクラブとの最後のやりとりでした。

宮本 Bリーグは、そのクラブのシーズンが終わって1週間後までに、来シーズンも契約するかどうかのオファーを出さないといけません。野口さんは、昨シーズン終了後に長崎さんとの契約が終わったということですよね。
野口 そうですね。その時点でエージェントに話をして、色々とチームをあたってもらいました。ただ、最初の方は「今週は何もないね」みたいな。年齢、ポジション、金額的にもすぐにオファーがないとは思っていたので、「もうちょっと待ってみようか」となったんです。昨シーズンの長崎はチャンピオンシップに行けなかったので、「チャンピオンシップ後にメインの選手たちの動きが固まってからだね」という話になって、「わかりました」というところから、何週間か過ぎて……。「どこも返答がないね」となったのが、7月下旬でした。そこから、「B2でもちょっと探してみようか」となって……。
宮本 じゃあ、野口さんの希望はB1だったんですか?
野口 欲を言えばですけどね。でも、実際問題ロスターを見ていくと、B1は現実的ではないという感じでした。それに家族が北海道にいるから二重生活になります。リアルなことを言えば、家計的にも大丈夫な年俸でプレーしたいという希望はあったんですけど、どこもなくて……。
宮本 ファン・ブースターの方はあまり考えないかもしれないですけど、家族がいる選手であれば、単身赴任になる場合がある。生活費もそうだし、家賃とか交通費とかも含めるとお金は結構かかるし、やっぱりそこは大事じゃないですか。
野口 そうですね。幸い妻が働いているので、世帯としての収入はあります。ただ生活水準が結構上がっちゃっていたので、そこから一気に落とすことが難しくなっていました。そういうところも見直さないとダメだよな……とか。いろんなことを考えたというか……考えてしまいましたね。それでも、「まだあるんじゃないかな」って話していたら、9月だったかな。1件話が出てきたんです。でもそれはポジション関係なく探しているって。それってどうなるかわからないじゃないですか。
宮本 そうですね。怪我人だったのか理由はわからないけど、とりあえず人を探しているとかだったんですかね。
野口 どうなんですかね。ただそうなるとどういう扱いになるのか、起用方法とかもわからなかったのでやめたんです。その後も1件あったんですけど、それもダメで……。それがBリーグクラブとの最後のやりとりでした。そこからは本当に何もないっていう感じですね。

「大ちゃん痩せた?」って言われて……。

宮本 練習とかコンディション管理はどうされているんですか?
野口 練習場所と言える場所はないですね。ただコンディションを保たないといけないので、いろんなクラブチームにお邪魔しています。それも夜だったり週末にバスケをやっている感じです。これまで、オフシーズンに札幌へ帰ってきたときのトレーニングは札幌市内のジムと契約していたんです。10年ぐらい通っていたんですかね。でも、今年は契約金を払えないので、続けることができませんでした。今は高校の同級生がやっている整骨院の一室にトレーニングルームがあるので、そこを借りてトレーニングをやらせてもらっています。
宮本 東海大四高校(現東海大札幌高校)の縦横の繋がりは、今の生活の大きな支えになっているんですね。
野口 そうですね。本当に支えてもらってなんとかやれています。北海道の3x3チームのFuz HOKKAIDOで高校同期の菅原洋介がプレーしているので、練習に参加させてもらったり、そこのメンバーがやっているILLというクラブチームで牧全(レバンガ北海道スキルコーチ兼通訳)がプレーしていたりするんですけど、そういうところにお邪魔させていただいています。あとは洋介の繋がりで江別市のローカル大会に参加させてもらったりとか。
宮本 江別のローカル大会に野口さんと菅原さんがいるとか反則ですけどね(笑)。
野口 ハハハ。昔、その大会に並里成(ファイティングイーグルス名古屋)が参加したらしいです。洋介の滋賀時代のチームメイトだったから、オフに来て参加したって。
宮本 さすが江別ですね(笑)。やっぱり北海道のバスケどころ江別はレベルが高い!
野口 そうですよね(笑)。ミニバス、中学、高校もレベルが高いし、江別ワイルドボアーズ(クラブチーム)も強いですしね。
宮本 でも、そうやって練習や試合ができても、コンディションを維持するのは大変だと思います。おそらく自分のコンディションが上がっているとは言えないですよね?
野口 確実に下がってますね。
宮本 僕はこれまでも所属なしの選手と活動をしたり、取材をさせてもらったりしてきました。その中で感じたことが気持ち的にまだいけると思っていても、身体がちょっとずつ落ちていっちゃうと、一緒に気持ちが落ちていっちゃうところがある。逆もそうです。身体が仕上がっていても、気持ち的に落ちてしまって、コントロールが難しいとか。
野口 そうですね……。Bリーグクラブとの契約を目指していると言いつつも、正直なところ不安はかなりあります。1週間に2、3回、練習や試合ができればいい方なんですけど、それですらちょっと身体がしんどいなって感じたりとか。この程度の練習で……っていうときがあります。やっぱりもうちょっとトレーニングをして筋力を上げていかないとなって思うんですけど、実際は家のことや生活もあるので、それを増やすことが難しいときもある。昨シーズンまでは、毎日のようにバスケットをして、トレーニングをやっていたんですけどね……。先日、関野(剛平/レバンガ北海道)と食事をしたんですけど、「大ちゃん痩せた?」って言われて……。実際、少し痩せたんですよ。太るよりはマシだと思いますけど、僕のポジションで痩せるっていうのは同時にパワーも落ちてしまう。関野に言われて、すごく嫌な言葉だなって感じたんです。でも、それが実情でもあるので……。
宮本 実際太ったとしても、契約が決まって動き出せば絞れるじゃないですか。増やすのって想像以上に大変ですよね?
野口 めちゃくちゃ大変ですね。それこそ、僕はシーズンに入ると痩せてしまうタイプで、そこが悩みだったんです。体重はそんなに落ちていないですけど、筋力とかが落ちているんだと思うので、正直焦っていますね。

今までの環境の有り難みは痛いほど感じていますね。

宮本 結果論なので、今振り返るとっていう話になりますけど、野口さんが在籍していた頃のレバンガ北海道は、そこまで環境がいいクラブではなかったと思うんですね。今と違って練習場所も借りていたじゃないですか。今はカミニシヴィレッジに全て用意されていて、素晴らしい環境になりました。それこそ、関野選手は近年パフォーマンスがすごく良くなったと思うんです。それは彼の努力と環境の力もあると思うんです。
野口 間違いないですね。
宮本 野口さんの場合は、まだ練習環境が整っていなかった北海道から、体育館がいつでも使えて、トレーニングルームもあるSR渋谷、そして長崎に行きました。僕も長崎の練習場で野口さんにお会いしましたけど、トレーニング器具もすごかったし、それこそS&CやATも素晴らしい方だとおっしゃっていたじゃないですか。それらがあって自身の身体やコンディションが良くなっていったところは間違いなくあったと思います。いくら色んな人が協力してくれていると言っても、そこからの落差は……。
野口 そこは半端じゃないですね(笑)。
宮本 そうですよね。ケアとかもそうだろうし、それこそ夜に体育館を借りて練習をするなら、終わってからできることはアイシングとか、ストレッチぐらいしかない。自分の知識がどれだけアップデートされても、その器具や人がいないとできないこともありますよね。
野口 そこは本当に困りました。それこそSR渋谷から長崎に移籍したあたりから、自分の身体と向き合う時間が増えたんです。足首の使い方や膝の向き、身体のバランスとかに自分自身も興味が出てきた。ウォームアップもアフターケアも念入りにやるようになったおかげで今の環境になっても、「何をしたらいいんだろう……」とはならないんです。それでもやっぱりイレギュラーって起きるじゃないですか。「あれ、なんか普段とは違うところに痛みがあるぞ」とか。そういうときは困りますよね。
宮本 気軽に相談できる相手がいないし、今までとは違うところに痛みやハリが出てくるみたいな。
野口 そうそう(笑)。今までだったらトレーナーさんに言って、「ちょっと見てみるか」って言ってもらえたんですけど、誰もに相談できずに全てを自分でやらないといけない。だからこそ、今までの環境の有り難みは痛いほど感じていますね。

誰かから見ると無様な姿かもしれないですけど、それで笑われてもいい。

宮本 思い描いていた今シーズンとは、明らかに違う方向に行っていると思うんです。僕なんかが想像する以上に考えることもあるし、逆にサポートしていただける方々がたくさんいることを知った部分もあると思います。最終的には3月の選手登録の締め切りまでに契約ができれば、2~3ヶ月ぐらいはBリーガーとしてコートに立つことができる。ただ、それが叶わなかったという未来もあり得るわけじゃないですか。それによって歩み方が変わると思うんですけど……。
野口 そうですね。仮に3月までにオファーが来て、契約できたとしたらそこでしっかりと結果を残したい。僕はまだ現役にこだわりたいですし、その次のシーズンも、「野口はできる」とBリーグ界に示していきたいです。オファーがなかった場合、それはもう受け入れて来シーズンの契約に向けて動き出すしかないと思っています。結局、僕はまだBリーグにこだわりたいなっていう気持ちがある。それに改めて気付かされました。
宮本 じゃあ今シーズンがどうあれ、来シーズン以降もBリーガーとして活動ができるようなトライをしていきたいというのが野口さんの考えですか?
野口 そうですね。
宮本 それは桜井良太さん(レバンガ北海道GM)の引退ゲームとか、長崎での経験とか。まだ頑張りたいっていう気持ちになった一番のきっかけはどこだったんですか?
野口 どこっていうのはないんですよね。正直に言えば、バスケにしがみつくしかないっていうのもあります。このまま終わってもおそらくずっとモヤモヤしたままだと思うんです。そもそも僕の美学というか、考えとして引退したくないんですよ。だから、引退宣言はしない。最近だとシーズン前に、「引退します」と言って、1シーズンを過ごしたり、所属チームがなくなったから引退するじゃないですか。僕はBリーグにはずっとトライしていきたいんです。先日、Bリーグの方とも話したんですけど、引退宣言をしない限りはずっと自由交渉リストに載り続けるらしいんですね。2年で名前はなくなるけど、一応リストには入っているらしいんです。僕はずっと現役にこだわっていきたいと思っていますし、Bリーグに戻れなかったとしても、どこかでバスケットを続けていこうと思っています。そういう意味で、僕にとっての引退はないと考えているので、引退宣言もしないと決めているんです。
宮本 どのタイミングからそういう気持ちになったんですか?
野口 折茂さん(レバンガ北海道代表取締役社長)と良太くんの引退試合に参加してからですかね。僕自身はあんな素晴らしい引退試合をできる選手だと思っていないし、そういう話をいただけたとしてもしたくない。折茂さんと良太くんはそうあるべき存在というか。僕は昔からちょっと軸がずれているんですよね(笑)。破天荒ではないですけど、ちょっとへそ曲がりなところがあって、王道を行きたくはないっていう考えがあるんです。
宮本 引退という感覚が野口さんにないということは、「引退ゲームをやりましょう」と言われても、それを受けないってことですよね?
野口 そうですね。「僕はやらないです」って言いますし、セレモニーとかもしないというのが今の考えですね。
宮本 生涯現役っていうのが自分の中の美学……。
野口 そうですね。そういう選手っていないじゃないですか。だから、そういう選手がいてもいいんじゃないかと思っているんです。引退はしないし、Bリーグでプレーすることにこだわり続けていきたい。それは誰かから見ると無様な姿かもしれないですけど、それで笑われてもいい。僕はずっとBリーグに挑戦し続けていたいんです。

いずれレバンガ北海道には23番を返そうと思っています。

宮本 そういう意味では、今まさにそうかもしれませんが、キャリアの中で出場している大会が江別市の大会だったとしても、そこからまたBリーグに戻るチャンスを探り続ける?
野口 そうですね。言っている自分もちょっと面白いなと思うし、おかしいなとは思っています。でも、それぐらいの気持ちは現役選手としてバスケに携わっていくために必要だと思うし、持ち続けたいなと思っています。
宮本 ちょっと僕が聞くのは失礼だと思うんですけど、それはやっぱり竜弥さん(佐藤竜弥/2015-16シーズンに病気と闘いながらレバンガ北海道の1日限定選手として契約した。2016年5月に亡くなった野口大介の東海第四高校の先輩)の存在も大きかったりするんですか? 竜弥さんは教員でしたけど、それこそずっとバスケに関わりたいと思ったからこそ、その仕事を選んだと思うんです。そんな方が道半ばで亡くなってしまった。そこでバスケキャリアも終わらざるを得なかったことは、やっぱり野口さんにとってはかなり大きいというか……。
野口 大きいですね。竜弥さんだったり、良太くんみたいにまだ続けたいけど身体がボロボロだとか……。そういう人たちが近くにいて、どんどんBリーグやバスケを辞めていく。もちろんそこは本人の決断ですけど、「ああ、まだできたのにな」って思うこともあるんです。それを思うと、できる自分がやらないわけにはいかないなって。その気持ちがどんどん大きくなっていって、今の気持ちに繋がったのかなって思います。それこそ竜弥さんの背番号23番に関しては(野口大介は2016-17シーズンから佐藤竜弥の23番を引き継いで戦い続けている)、いずれレバンガ北海道に返還して、折茂さん、良太くん、竜弥さんという形で永久欠番にしてほしいっていうのが僕の想いです。だから、いずれレバンガ北海道には23番を返そうと思っています。それがいつになるのかはちょっとわからないですけど、いつかお借りしていたレバンガ北海道の23番、佐藤竜弥の23番を返還するために、あのユニフォームを着て、北海きたえ~るのコートに立ちたいなっていう気持ちはすごく強いですし、実力でその舞台に立てる自分であり続けたいなと思っています。

野口大介
大塚商会からキャリアをスタートし、地元レバンガ北海道の中心選手として活躍。その後はサンロッカーズ渋谷、長崎ヴェルカでプレーをし、2023-24シーズンに契約満了となった。現在は地元の北海道でトレーニングを積みながら、Bリーグ復帰を目指している。

撮影協力:株式会社サン広告社

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