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群馬クレインサンダーズ 辻直人 本音

第34節群馬クレインサンダーズvs秋田ノーザンハピネッツGAME2。群馬はこの試合で72-101と大敗を喫し、チャンピオンシップへの出場の可能性がなくなってしまった。「こんなタイミングで……」と思ったダブドリに対して、インタビューに現れた辻直人は少し俯きながらもチームと自身の現状、そしてこれまでのシーズンを冷静に振り返ってくれた。そこで零れた「本音」。そこにはこのチームが強くなれると信じ、向き合い続けた辻直人の今が詰まっていた。(取材日:4月21日 インタビュー:宮本將廣 写真:本永創太)

やっぱり誰かの自己犠牲が必要だと思う。

宮本 ダブドリとしては開幕前にガイドブックを作らせてもらって、辻選手と並里選手で対談もしていただきました。そのときに、「このチームは強くなれる」という感覚を持って移籍してきた。もうひとつは並里選手と一緒にプレーができる喜びがあると。その言葉をベースに今シーズンは群馬の試合を見させてもらっていたんですが、残念ながら今日の敗戦でチャンピオンシップの可能性がなくなってしまって……。
 あ……なるほど、そうですね。
宮本 前節(第33節)の北海道戦も取材させてもらったんですが、今シーズンの群馬のゲーム、その中での辻選手の表情を見て、「なかなかうまくいってないのかな」と感じることが多かったんですね。言えないこともあると思うけど、そこのリアルを聞けたらなと思っています。僕の感覚ではフィニッシャーとして結果を出さないといけない。プラスしてハンドラーとしてゲームを作っていくこともできる。そもそもこのチームをチャンピオンシップに連れていかなくてはいけない。辻選手はそれができる存在だし、それが求められてここにきたと思っていました。当たり前だけど、色んなものを背負っていたのかなって。振り返ってみてどうですか?
 そうですね。このチームは良いときは良い、悪いときは今日みたいなゲームになるということが明らかになって……。明らかになっている分、修正するところも明確ではあったと思います。でも、なかなか修正することができなかった。そこが良くなれば絶対に強くなれるし、ダメであればずっとこのままだろうなっていう……。実際、終盤の数試合も良くない感じになってしまいましたね。メンバーが揃ってないから仕方がない部分もありますけど、それだけで終わらせてはいけない。誰が欠けても同じようにできることが強いチームの証だと思うし、それができていないってことは、成長できていなかったっていうことでもあるよなって……。今はそう受け止めています。

宮本 シーズン序盤は怪我人もいてなかなか勝てない。勝っても連勝できない。1月ぐらいから連勝して、「ここからいけるんじゃないか」っていう感じからまた怪我人が出てしまったり……。僕もいろいろ思うところはあるけど、よくなってきたときは選手としてもコートで変化を感じていました?
 自分たちの強みをみんながわかってきた感触がありました。その中で、やっぱり誰かの自己犠牲が必要だと思うんですよね。連勝していたときは、誰かがボールを触れなかったり、シュートを打てなかったりしても、みんなで我慢できていたと思います。調子のいい人がチームを引っ張っていってくれていたし、みんなが勝利に貢献した感覚を得られていた。もちろん、その中でもそれぞれ思うことはあっただろうけど、勝ちにつながっていたことも大きかったと思いますね。そういう時間を長く作れなかったのは怪我人が出てしまったことも事実だと思います。メンバーが揃わなくて、自分たちがやりたいバスケットができなくてフラストレーションが溜まっていた。序盤はトレイとベン、終盤はケーレブとマイクが怪我で離脱してしまった。アクシデントのところは仕方ないですけど、怪我人を出さないこともチームとして大事なことだし、改善するべきところがあるんだと思います。本当にいろんな課題が見えた1シーズンでしたね。

宮本 「自己犠牲」というところは、ガイドブックのときも話が出ていました。あとは怪我をしないためのケアやさせないためのコンディションニングの部分に関しても、並里選手が話してくれてすごく印象に残っています。そのあたりはクラブが成長していくために、もっと言うと群馬以外にも必要なところだと取材をしていて感じています。投資するべき場所がそれぞれのクラブにおいて明確になってきたと思うし、Bリーグは選手のタレント性だけで勝ち抜けるリーグではなくなってきたことも事実だと感じたシーズンでもあったんですけど、そのあたりは辻選手も感じたところはありました?
 そうですね。おっしゃる通りで1人の力で試合を勝たせることは、今のBリーグでは絶対に無理だと思います。結果的にその選手が勝たせるっていう試合あると思いますけど、選手だけ、個の力だけでっていうのは難しい。一方で、ファイナルに近づけば近づくほど、個の力が大事になることもまた事実ですけどね。例えば40分で考えたときに、誰かが40点取っていて最終局面で自分にボールが回ってきて、その試合で初めてシュートを打つとか。前半に1本だけシュートを打って、2本目がそういう最終局面でボールが回ってくる状況では、「シュートを決めきれ!」って言われてもなかなか難しい。このチームの話に戻すと、タレントが揃っていることが売りですし、強みでもあるので、その選手たちがガッとひとつになってボールを共有する。勝つために自己犠牲を厭わないプレーができれば、本当の意味で強くなっていける。それはこのチームに来る前から感じていたし、今も感じています。あとは宮本さんがおっしゃったようなケアの部分と練習の流れも大事だと思います。ただそこに関しては、スタッフがシーズンを通して改善してくれていたし、いろんな工夫をしてくれました。もちろんまだ足りないことはあると思うけど、そこはまたこれからにつながって行くのかなって思いますね。

自分自身もそこを越えられなかった。

宮本 辻選手個人に目を向けると、このチームは辻選手がおっしゃったようにタレント性の高い選手が集まっていて、ボールを持って輝く選手がたくさんいる。その中で僕の認識は、辻選手もボールを持って輝く選手でありつつ、周りに……それこそ並里選手を筆頭としたガード陣に活かしてもらうことで自分の良さをより表現できる選手でもある。その出し引きっていうんですかね、このチームの中での答えは見つかりましたか?
 それは本当に最後の最後まで頭を抱えていたというか……(笑)。宿題としてずっと持っていたものですね。調子が良かったらボールが回ってくる。でも、調子がいいからこそもっと自分が起点になりたいっていうときにあまりボールに触れなかったりとかもありました。だからと言ってそれを自分で打開しようとしたら、誰かがボールを触れなくなってしまってチームとしてフラストレーションが溜まってしまう、みたいな。正直、難しいなって思うことが多かったです。
宮本 うーん、確かになー……。
 でも、広島を出てこのチームに来ると決めた。それはこのチームを勝たせたいし、チャンピオンシップに出たい。自分自身も成長したい。そう思ってこのチームに来たけど、今シーズンを振り返ってみると、僕自身もプレーで我慢することが多かったっていうのが事実ではありました。これまでのキャリアを振り返ると、僕自身はハンドラーとしてもシューターとしても結果を残してきたつもりではいたんですけど、このチームに来たときにシューターっていう部分しか知られてなかったりとか。「意外と俺のこと知られてないんやな」って感じたのは、ちょっとショックやったなー(笑)。
辻・宮本 ハハハハハ。
宮本 川崎時代から積み上げて来たものがね。
 そうですね。広島でもハンドラーとしてプレーさせてもらっていたから、「ちょっと意外やな」って思ったり。でも、それが不満とかではなくて仕方ないことでもあると思っているし、そこに移籍の難しさがあると思う。僕はエゴを出してやれるタイプでもなく、むしろちょっと気を使いすぎっていうか……。そういうところに自分自身の課題があったかな。自分自身もそこを越えられなかったってところは感じていますね。

宮本 前節(第33節)の北海道戦は勝つことはできなかったけど、辻選手のシュートはすごく良かった。だからこそ、個人的には今日も「打ってほしいなー」と思いながら見ていて、ウィークサイドで、「あ、ここで辻選手にボールが飛べば……」ってところが何度もありました。相手のディフェンス強度の中で、アタックする選手は難しいドライブを選択してしまって周りが見えていないように感じたし、ペイントを取りにいくにしてもポストヒットであれば、ベンティルとかからパーンってボールが飛んでくるんじゃないかな……とか。みんながドライブから苦しい状況になって、ボールサイドのキックアウトしか見えていないっていうシチュエーションが続いて……絶対にそんな練習はしていないはずなんだけど(笑)。
 ハハハ、そうっすね。でも、このチームの強みはフリーランスで攻められるところでもある。それは間違いないです。ただある程度の約束事じゃないけど、その中で苦しくなったら、逆サイドに振ってこういうアクションをするとか、オートマチックなものがあってもいいのかなとは感じることはありました。ボールが動けば誰でも点が取れるという強み、メンバーが揃っていればリバウンドも強いし、走れる。そういう強みをうまく出せていなかった、出し続けることができなかったっていうのが単純に悔しいかな。

もっと頼ってもらえるようなプレーヤーにならないといけない。。

宮本 自分を使ってもらうという側面では、並里選手と1年やってみて、彼とは心地よくできるなっていうシチュエーションはやっぱり多かったですか?
 それはいっぱいありましたね。彼はコート上で、「次、何やりたい?」っていつも聞いてくれるし、欲しいタイミングでは「打て!」っていうパスをくれる。もちろん逆の立場もあるし、僕に寄って来れば、「やってくれ!」っていうパスからアタックもしてくれる。本当にいい関係性を築けたと思います。
宮本 チームとしては、並里選手がゲームチェンジャーのような形でベンチからスタートすることが基本になったというか。昨シーズンの群馬はディフェンスに課題があったから、コー選手の身体能力を活かしつつ、ディフェンスでトーンセットしてから並里選手が入ってくるっていうパターンができたけど、今日はそれもなかなか表現できず……。そうなると並里選手も自分の強みを出しにくいのかなって。
 はいはい、確かに。ショットブロッカーのケーレブとマイクがいなかったことも、ディフェンス面では難しかったですね。彼らはリバウンドも取ってくれる。でもそこよりも自分自身にもっとできることがあるっていうか、今日も1クォーターの終盤でシュートが入って、2クォーターでもうちょっと起点になるようなオフェンスがやれたら、点差を詰めることができたのかもなって……。そこで点差が離れてしまった。そこは共通認識というか、なんて言うんだろう……。僕がプレーヤーに対してもスタッフに対してもそうだし、もっとこのチームから信頼を得ないといけないのかなって。もっと頼ってもらえるようなプレーヤーにならないといけない。そういう信頼を勝ち取らないといけないなと思いましたね。

宮本 そういう意味では移籍してきた選手の難しさってあるじゃないですか。それを広島でも経験したと思うし、チームによって違いもあると思います。やるべきことをやってきたけど、振り返ってみるともうちょっと何かいいアプローチがあったのかもしれない?
 そうですね。やっぱりポイントガードと違って、2番ポジションはエントリーしてきて、ボールをもらってからプレーに入る場面が多いので、そこでどういうことができるか。どういう流れを作ることができるかっていうのは、僕自身の責任でだと思います。そこはポイントガードのコーとか成、トレイもそうですね。信頼関係というか絶対的なものっていうのかな……。僕自身も、「もっとこうしてくれ!」って強気で言うことができなかったっていう反省があるし、そこにもうちょっとエゴが必要だったのかなって思いますね。
宮本 まだ4試合残ってるから。
 そうですね。2チームともディフェンスチームになるんで、流れが悪くなる時間もあると思う。このチームの集大成としてシュートも決めるし、プレーメイクもしながらチームにいい流れを作りたいですね。残りの試合でこのチームの起点になれるようなプレーをして、このチームに来た意味を証明したいなって思います。

合わせてインタビュー動画も公開中「辻直人/本音」

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