『ダブドリ Vol.7』インタビュー05 大河正明 & 堀義人
2019年9月28日刊行(現在も発売中)の『ダブドリ Vol.7』(ダブドリ:旧旺史社)より、大河正明氏、堀義人氏のインタビューの冒頭部分を無料公開いたします。インタビュアーはマササ・イトウ氏と編集長 大柴壮平。なお、所属・肩書等は刊行当時のものです。
―― まずはB.LEAGUEの3年間を振り返っていただきたいのですが。
大河 B.LEAGUEは2016年に始まったんだけど、実際は2015年の4月から新しいリーグを立ち上げる作業に入りました。今までのスポーツ界で、計数をちゃんと目標に出してるリーグはなかったので、川淵さんと相談しながら入場者数300万人、収入300億円、1億円プレーヤーを2020年に成し遂げたいなと。「今の倍はお客さん入れたいよね」とか「事業規模はやっぱり3倍ぐらいにしないと」とか。トップダウンで非連続な成長を目標に掲げました。
それで3シーズン目が終わったところで、リーグと協会とクラブの総収入が、300億円を超えたんですよ。最初が100億円ぐらいからスタートしてるので、それは良かった。あとは観客が、当時のNBL、NBDL、bjリーグ、40数チームの換算でいうと277万人となりもう一歩。アリーナの問題もあり上がっていくのが難しい。あとは1億円プレーヤー、富樫選手(千葉ジェッツ)が出た。それから、男子日本代表はアジアでトップの実力を備えたいという目標があったけど、オリンピックとワールドカップに出場できるということから、ロケットスタートじゃないかもしれないけど、それなりのスタートは切れていると思います。
で、4年目。僕の中では、ファーストステージが平成と共に、そしてオリンピックが決まったところで一旦終わっていて、ここからが令和のセカンドステージ。昭和のプロ野球、平成のJリーグに対して、エンターテインメントとテクノロジーを使った、令和のB.LEAGUEをやりたいなと強く思っています。
今、クラブの人たちと議論させてもらってるのが、1年先というよりは、リーグができて5年、10年経ったころ、2026年ぐらいにこういうリーグの構造でありたいなっていうことです。中長期的なスパンで目標を掲げようとしています。3シーズン目に、B1は、水曜日に開催する試合を12試合に増やしました。来シーズンも継続していきます。平日の夜に、仕事帰りに来てもらえるようなプロスポーツになっていかないと、国民的なスポーツとは言えないでしょうからね。今は休日と比べると平日のお客さんは1割ちょっと少ないんですけど、プロ野球とかJリーグは、大体、20~30パーセント下回るのでそれと比べると健闘はしてるんですよ。それで、茨城はどうかなと思ったら、意外と健闘しててですね(笑)。4年目はオリンピックに向けて代表争いが熾烈なB1。そのB1を脅かす、地元に根差しているB2、そんな感じで行けたらと思ってます。
―― 課題はあれど、期待のできる来シーズンになりそうですね。堀さんは振り返ってどうですか。
堀 3年間、経営破綻したチームで、B.LEAGUEに入った会社、恐らくあまりないと思うんですよね。B.LEAGUEの始まる2年以内に破綻したチームがつくばロボッツ、現茨城ロボッツということなので、本当にゼロから、マイナスからのスタートを切ったチームにオーナーとして関わらせてもらって。売上はB.LEAGUE前が7000万円だったのが4億6000万円ということで、7倍近く増えたのと、観客動員数も600人ぐらいだったのが1800人で3倍に伸びた。大河チェアマンもいらっしゃった4月6日の開館記念試合は、新しい5000人が収容できるアダストリアみとアリーナで5000人を超えるB2の観客動員記録を超す人が集まって、非常に盛り上がっています。
一方で、僕らはまだB2なので、これもまたドラマとして面白いと思うんですが、B1に上がるために一生懸命創意工夫をして、スポンサーを集めたりとか、観客動員を増やしたりとか、チームを強くするために努力をしていくってことを、試行錯誤しながら3年間やってきました。来季に向けて、イギリス代表監督経験のあるアンソニー・ガーベロットをヘッドコーチに迎えました。トニーと呼んでますが、トニーは今年NBAを優勝したトロントラプターズのヘッドコーチと同じ時期にイギリス代表のアシスタントコーチだった人。そういう最先端の戦術とグローバルな選手獲得のネットワークと発想を期待しているわけです。恐らく、B.LEAGUEの中で最も、売上、観客動員数ともに伸びたチームだと思いますが、B1に上がるためにチームを強くしようと頑張ってる最中ですね。
―― 茨城のようにすごく伸びているチームもあれば、経営的に苦しんでいるチームもあって、儲からないと良い選手も呼べず強くなれないという悪循環があると思います。チェアマンのこれまでのコメントでは、伸びるチームに伸びてもらうというイメージだと思うのですが、一方で、NBAは戦力均衡の仕組みを入れたりしています。そういった議論もリーグではされているのでしょうか。
大河 B1の日本人だけの報酬は韓国のKBLよりも下なんです。
堀 ああ、そうなんですか。
大河 ただ1億円っていう富樫みたいな選手は、韓国にはいない。僕らとしてはやっぱり一旦は頑張れるところまで頑張っていくっていうのがないといけないと思う。サラリーキャップを入れながら、シュリンクするようなやり方は経営者目線だとやりやすいんだけれど、それを言った瞬間に、「もうバスケットって伸びないんだな」ってなっちゃう。スポンサーはすごく敏感ですよ。全てが千葉ジェッツ、宇都宮ブレックスとはいかないけれども、大企業がバックじゃないところが強いわけじゃないですか。リーグで伸びていくということを一旦はやっていきたいです。
Jリーグがおそらく日本人2400万~2500万円の年俸で、B.LEAGUEは基本年俸で1300万円~1400万円ぐらい。Jリーグぐらいはある程度、見据えたい。一方で、ドラフトなんかは、個人的には、早めに研究すればいいと思ってて。ドラフトをやったからって戦力均衡にはすぐならないですよ。どんな良い外国選手が来るかで戦力って変わりますから。堀さんが仰った通りで、外国選手に対する目利きは、日本のクラブには未だそんなにないから、この差は出てくる。でもそれより、日本人がこれからもっともっと成長していける、それは必要ですよね。
堀 僕はB2でスタートして全体を見て思うことは、B1スタートかB2スタートか、その差が大きかったなと。B2チームの上がっていく難しさって、やっぱりあると思うんです。良い選手を取られてしまったり、財務基盤が弱かったりとか。それは悪いことじゃないんですが、これを乗り越えていくのは、相当な努力が、B2以下のスタートのチームに必要だなと感じています。
二つの投資が必要で、一つがスタッフなどの経営に対する投資と、もう一つがチームに対する投資。チームに対する投資を早くやったチームでも、経営に対する投資をしてなかったことによって、上手くいかなかったり。あるいは、経営に対する投資をしたからといってチームが強くならない場合もある。経営に対する投資をしても売上が上がらなければ、基本的には伸びていかない。結果的に伸びているチーム、伸びていないチームの違いは、思い切って投資をしたか、してないか、そういう賢い形の結果を出したか、出してないかが、大きな違いになる。ベンチャーキャピタルをやってるからよく分かるんですが、やっぱり最初は思い切り投資をしないと伸びないんですよ。投資というのは人件費、つまり良い人材を集めてくるっていうことで、今、茨城ロボッツはスタッフが30人近い。B1でもこれだけスタッフを抱えてるところはなくて、結果的に今季は赤字になると思うんです。3億2000万円から4億6000万円に売上が伸びたのに赤字になるのは、要は投資をしたからなんですよ。特にプロスポーツチームの経営ってリテンション(人材の維持)が他に比べて高くないから、辞めていく前提で採用すると、3、4年、育成に時間かかることもある。例えば4億6000万円の売上を達成した翌年、6億2000万円達成しようと思うと、今から人を抱えておかないと、なかなかこのカーブは生まれない。その投資をしていきながら、チームに対する投資をしていく。その結果、目標売上に到達するのは簡単じゃなくて、スポンサー集めから始まって、観客動員にも投資が必要だし、経営的な部分ができているかどうかも、鍵になってくると思います。
オーナーが思い切り投資をする、それが安心感を生み出して、結果的に良い人材と組織を作っていく。自由競争の中で、切磋琢磨、創意工夫して、経営と努力をしたところが、売上も上がるし、良い選手も獲得できるし、ファンも得られる。僕らからするとフェアな競争をしていて、翌年の戦いが楽しみだし、すごくワクワクしながら経営してますね。
大河 投資を呼び込めるリーグになってきたのは、非常に僕もありがたい。もともと、FIBAにはB1は12チームぐらいしか日本人でお眼鏡にかなうような選手はいないぞって、散々言われたんです。だけど、アリーナをちゃんと整備して、行政がその気になって、18、20チームがやる気になってるのに、12にする理屈はないっていうのが、川淵さんの判断。それで18チームにしたのだから、選手が育っていくのをしばらく待たないといけないと思っています。島根がB1に上がって補強したくても良い日本人は他のクラブが抱えてたり、ロボッツが来年上がっても取るのはなかなか難しい。小林大祐が取れたのは、本当に奇跡に近い形。でもB1のドラフトをやればロボッツは馬場(雄大)選手を指名できる権利を持てるかもしれない。そういうみんなへの機会均等は、早くやった方がいいんじゃないかって。僕の個人の思いとしてですけどね。
堀 今回、小林大祐選手が来てくれて大変嬉しかったわけですが、去年も今年も良い選手を取りたいからといって年俸を高くしてもB2だと来てくれない。でもB1昇格のタイミングで選手を集めても、すぐにチームのケミストリーが生まれるわけじゃない。そんな中で、コーチングスタッフ、外国人選手、日本人の良い選手を取った上で、B1でも戦えそうな日本人をリテンションして戦って、やっとB1に上がると、今度は東地区なんで。
―― (笑)。厳しいですよね。
堀 そこもあるので、賢く、一歩一歩進めていけたらと思ってます(笑)。
大河 中長期的には、やっぱり仰ってた投資。それは人に投資、選手に投資、アリーナに投資していくことも大事です。本当に投資するんだったら、投資した果実を得るためにやっぱり2年、3年かかるけれど、1年ごとに昇降格するルールがある。ここをどうバランスをとるかっていうのは、正に今、議論白熱のところです。また、B1東地区は厳しい一方で、宇都宮や千葉のファンがこぞって茨城に来てくれれば、ああいう応援のスタイルがあるんだとか、あんな選手がいるんだとか、ファンの方の目が肥えてきます。だから、短期的には昇降格あるんだけど、未来志向としては、サッカーと同じことだけやっててもサッカーを抜けないし、プロ野球とは原理原則が違うし、バスケットらしいリーグを、どう模索していけるかが一番の課題です。
堀 その違いって、やっぱりアリーナだと思うんですね。スタジアム型のスポーツと、アリーナの違い。アリーナの場合エンタメ要素がすごく大きいと思ってるんで、その要素をどれだけ上手く生み出せるか、それをネットを使って発信できるかが鍵かなって思ってます。やっとエンタメにも少しは投資できるようになった雰囲気があるし、良いアリーナができたから、十分な投資効果が生み出せる形になった。そして、撮影したものを発信していくメディアを僕らで持とうかっていうことを考えていて、プロスポーツチームからアリーナの中のエンタメを出して、それが波及効果を生み出していくような形ができたらいいなと思ってます。後発ながら積極的にそれを早い段階で実現したいと思います。
大河 でも、本当に変わりましたよ。当時は、つくばカピオ(ロボッツの旧ホームアリーナ。後にサイバーダインアリーナと命名された)で平日だったから300人ぐらいしか入ってなくて、だからこの間のこけら落としは本当に雲泥の差で別世界。「4年でここまで来た」とすごく感じましたね。やっぱり努力すればできる。一方で、bjリーグを悪く言うわけじゃないんだけど、bjリーグは6800万円というサラリーキャップで選手の人件費を低く抑えてた。クラブは2億円稼げば安泰ですという、ある意味、経営の切磋琢磨がないリーグにしてたわけです。秋田とか琉球とか、その中で抜けてたチームは、スッと付いて来れたんだけど、そうじゃないチームは時代の変化に2年間ぐらいは戸惑っていたし、その間に、茨城、山形、広島、東京Z、熊本、全部NBLとかNBDLにいたチームが伸びている。不思議な現象です。熊本は株主が変わられてから、だいぶ変わりました。経営陣にちゃんとした人を入れるようになった。こういうことが、プロスポーツとしての一丁目一番地なんだけど、意外とできてなくて、そういう意味では期待はありますね。
昇降格の話では、秋田は降格したときに、頑張って選手を抱えたから、すぐ戻れたし、なんとか残留もできたんだけど、島根とか西宮を見てると、なかなか難しいですよね。実は堀さんが仰った、指導者に金をかけないチームがあるんです。良い指導者を持ってくるというのも、日本人選手の能力に限界がある中で、一つの大きな要素だと思います。秋田のペップは辞任しましたけど、あのヘッドコーチがいなかったら、去年、秋田は落ちていたかもしれない。彼の本当に激しいディフェンスの戦術が、残留できた大きな要素だと思いますよね。
堀 昨季は、残念ながらチームは不本意な結果で終わってしまったんです。川淵さんに「オーナーは戦術と選手教育に関して口出しするな」って言われたんで、全部任せっ放しだったんだけど。今季は反省を踏まえて、なぜ負けるのかって考え始めて、徹底的に勉強しました。戦術から始めて、自分の中で仮説を持って、それをいろんな人にぶつけて一番良い問題点と解決策を出してくれたのが、トニーなんです。今年の1月頃に書かれたレポートに、ロボッツはプレーオフに行けないでしょうって予告されてて。
大河 へえ、そうなんですか。
堀 そう。書いてあった理由が僕の考え方とぴったり合ってて、こうすればいいってことも明確に書いてあって、それに賭けてみようかっていうのが今回。なので、僕自身が初めて頭の中に戦術とか選手とかを理解しようとして臨むシーズンだから、また面白くて。
大河 ヘッドコーチを選ぶのはいいと思いますよ。ヘッドコーチの戦術に口出しするとヘッドコーチも迷っちゃうし。
堀 川淵さんに言われたのは「ヘッドコーチと選手の採用は、口出ししていいけど、戦術と選手の起用には、口出ししちゃいけない」「その代わりできることは、監督とコーチをクビにすること」。
大河 それ、辛い仕事ですけどね。僕がやったのは、例えば協会では東野(智弥)というプレーヤーとしては無名だった人間を技術委員長にして、ヘッドコーチ選びをさせた。東野を持ってきたところまでが僕の仕事で、その先は彼の仕事。
堀 そうですね。うちはヘッドコーチが外国人だから、コーチングスタッフもそれ以外のスタッフもスキルトレーナーもバイリンガルなんですよ。こういう体制にするためにお金を投資しようねって話をしていて、そうすると海外から外国籍の人材を呼びやすくなってくるので。日本人は、活躍するとどうしても年俸が高くなるけど、海外の良い選手の方が年俸的に安く獲得できる可能性が高い。一方で、その選手が日本に合うかどうか分からなくて、これが賭けなんだけど(笑)。要は試行錯誤しながら、何が成功するか分からない中で、経験して効かなければ修正していくっていうことをやりながら、力を蓄えてる最中ですね。
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この後も、競技レギュレーションや興行をする上でのアリーナの課題、メディア、そして選手・コーチの育成についてもお話しいただきました。続きは本書をご覧ください。
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