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未完小説の世界。読書記録⑥飛ぶ男
今日は阿部公房生誕100年です。すべりこみセーフ。
『砂の女』で驚愕し『壁』で大ハマりした僕。
100年記念で文庫化された『飛ぶ男』を手に取りました。フロッピーディスクから発掘された阿部公房の遺作。
『飛ぶ男』は別のバージョンもあります。
それは、未完小説の『飛ぶ男』を阿部真知さんが加筆改稿したもの。
今回文庫化された本作は、未完のドロドロしさをそのまま残した作品です。
よくぞ出版してくれた!!
原理的に読み終わらない未完小説を読み終えたとき、何かのはざまに落とされたような、中空に浮かんでいるような気持ちになる。
太宰治の『グッド・バイ』もそうだったし、ハイデガーの『存在と時間』もそう。
突然放り出されたような、急に足元が消えたような。液状化というか、空状化した浮遊感をおぼえる。
僕はそれがたまらなく好きだ。
無限の可能性を秘めた岐路にただ立たされる。
真っ白なあみだくじを自由に遊んでいい気持ち。
この感覚は、単にオープン・エンドの小説では味わえない。作者もこちら側にいるという点で特別なのだ。
これから何が巻き起こるのか。興奮の最上級でそのまま放り出され、そして決して解決されえない空白を与えられるぜいたくさを噛み締めよ!
書きかけの宝の地図に想いを馳せようではないか。
ふと隣を見ると、おなじ中空で阿部公房が額に皺を寄せている。