見出し画像

司書のへりくつ⑦この波に乗っかれ

先日の某経済系雑誌サイトに掲載されていた、雇用ジャーナリストなる人物の記事。

この記事のポイントは以下の通り。

  • 非正規雇用の8割は女性や学生で大半が主婦。氷河期世代の問題ではなく性別役割分担

  • 非正規雇用の主婦は配偶者控除や家事育児の問題があるので「正規への転換」や「賃金引き上げによる収入増」は望んでおらず、その層には響かない

  • 国が最低賃金の引き上げを毎年着実に行っているので都知事選の焦点にはならない

まあなるほど、それはそうだ。
理屈としては間違ったことは言ってない。確かに非正規雇用の圧倒的大多数は、正規化も賃上げも望んでいない主婦層かもしれない。
就職氷河期の問題なんて、首都圏に住み、そこでの正社員という身分を得られなかったごく少数の大卒中年の恨み言に過ぎないのかもしれない。

だけど実際に、その枠からこぼれ落とされている層は確実に存在する。
同じような内容、時間の仕事ではるかに低い賃金を強いられている非正規雇用者は、たとえ少数派でも存在するのは間違いないのだ。

そう、ここにだってちゃんといる。
非正規雇用者約2100万人のうち、わずか59万人、2.7%に過ぎない45~54歳男性。35~44歳63万人と合わせても5.7%。
そのわずか5.7%の「氷河期世代男性非正規労働者」の中に、自分もいる。

そして、今回いち早く都知事選に名乗りを上げた蓮舫候補は、非正規から正規化への転換をより強く求め、速やかな賃上げを都主導で行おうとしている。ならば話は単純。実現するかしないかはともかく、公約に明確な非正規支援を打ち出している蓮舫候補に託さない理由はない。

少なくとも、今の都知事を見る限り、デベロッパーや広告代理店などに有利な開発をどんどん推し進め、東京を着実にカネのある人々が暮らしやすい街にしようとしていることは間違いない。
生活に困窮し、自分の足元で食料の配給に並ぶ人々に目もくれず、都庁舎をライトアップすることにカネを使う人物に、非正規雇用者の待遇を良くできるとは思えない。

にもかかわらず、国だの主婦層だのともっともらしい材料を持ち出して、非正規雇用への対策を的外れだなんだとあげつらうのは何なのか。
このタイミングでこうした記事を上げるウラには、何があるのかと勘繰らざるを得ない。

コトは「図書館における雇用構造」なのだ

ところでなぜこの記事にこんなに嚙みつくのか。
それは、この記事であげられている非正規雇用者の内訳と事情が、そのまま図書館で働いている人々のそれと符合する、シャレにならない自分ごとの現実を浮き彫りにしているからにほかならないからだ。

  • 図書館業務における従事者の圧倒的多数は女性。その半数は主婦。

  • 主婦層はほとんどがパートで短時間勤務。家事や育児、介護を担わされている

  • 配偶者控除があるため、勤務時間を増やして収入を増やしたがらない人も多い

  • 雇用は非正規公務員、あるいは民間企業のパート、契約社員、アルバイト

  • 時給は都道府県の最低賃金+α

  • 男性は極めて少ない。ただし正規職員の役職者には男性が多い

つまり図書館業界は、前述の記事であげられていた、性別役割分担と時代にそぐわない国の税制、非正規雇用に依存する構造…。
蓮舫候補が「解決しなければいけない問題」と明言した非正規雇用問題の象徴ともいうべき世界といって過言ではない。

だったら、「的外れ」な対策だろうが知ったことじゃない。
選挙、投票行動にあたって、自分の利害を汲んでくれる(と今のうちは言っている)候補を支持して何が悪い。

もちろん運よく当選したとして、蓮舫新知事がこの状況を劇的に改善できるとは思っていない。
非正規を正規にする、なんて簡単に言うけど、そのためには、TRCやらmaruzenやらヴィアックスやらで働いている契約社員を、全員正社員にするよう各社に要請するか、彼女ら彼らをすべて自治体が直接雇用することになる。正直言って不可能だ。

賃金の問題も、配偶者控除の問題も、本来ならば国がやることで、都知事にそこまでの権限はないのかもしれない。
けれども重要なのはそこじゃない。
大事なのは、野党候補、それも社民や共産が相乗りで支援する候補が勝つことが圧力となり、国の政策にも何らかの影響を与えることだ。
「都知事選に国政の問題を持ち込むな」などと訳知り顔で言う人もいるけど、これだけのカネと人口を抱えているんだから、思いっきり持ち込んでもらいたい。
東京の図書館員だけが恩恵を受けるのではなく、東京から波及して全国の図書館員が安定した生計を立てられるような、非正規雇用対策のモデルにつながるような、そんな願いを込めながら、投票所へ行ってこよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?