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素晴らしき世界を鑑賞して

殺人罪で13年の刑期を終え、出所して来たのは、時代の変化に対応できず、何事にもすぐにキレてしまう三上なる男。しかし、見た目は荒くれ者でも、彼は他人の不幸を見逃せない実直で正義感に溢れる人物であった。だから、身元引受人の弁護士夫婦や、TVプロデューサーの指示で三上の出所後の動向を撮影しようとする小説家志望の青年や、三上を万引き犯と勘違いしたことをきっかけに親しくなるスーパーマーケットの店長等、周囲の人々を自然に巻き込み、そして、魅了していく。やがて、気付くのは、なぜ、三上のような人間が犯罪を犯し、人生の時間を奪われ、社会復帰に苦労しなければならないのか?という疑問だった。それは同時に、今の日本社会を構築している我々への問いかけだ。果たしてここは、すばらしい世界なのか。

浦島太郎状態の三上からすれば、現代は生きにくいことこの上なかっただろう。そのうえで、一度はヤクザの組に世話になることも考えたが、そこもおとりつぶしになる瞬間を目の当たりにしてしまう。
最終的にまっとうな世界で生きることを考え、生活保護からも抜け出した三上だったが、介護施設でのいじめを目の当たりにし、いじめられた青年の持っていたコスモス(花言葉は秩序)を受け取り、自室にて果てる。最後にコスモスの花をかいだ時の三上はなにを思ったのだろうかと、ふと私は想像したのだが、無法者だった三上もまた何を思い、何を感じたのだろう。三上がコスモスの花言葉を知っていたのかは知らない。でも傷つけられている人間を痛めつける妄想をいだきながら、それを行使できず、胸の痛みを覚えたのは、秩序を知ったからだろう。

素晴らしき世界? この世界は本当に素晴らしい世界なのか?


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