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『グレープフルーツ・ジュース』
Listen to the sound of the earth turning.
(地球が回る音を聴きなさい)
今ではこの作品を持っていないアーティストはいないとまでいわれるヨーコ・オノのインストラクション・アート『グレープフルーツ』は、1970年に英語版で発売された。
ビートルズが事実上解散した年とも言われる。これが何を意味するのか。
1971年にリリースされたジョン・レノン『Imagine』の歌詞は、この『グレープフルーツ』によって生まれたことを、ジョン本人も語っている。ジョンの弾き語る白い部屋が、ヨーコ・オノの手で静かに明るくなっていくPVも、ただただ美しい。
日本では初版から約30年後の1998年に改編された作品が『グレープフルーツ・ジュース』として出版された。『グレープフルーツ』とはだいぶ違うが、もちろん時代も違う。檸檬でもなく、蜜柑でもない。『グレープフルーツ』は、もっと前衛的で、もっと孤独だっただろう。
西洋と東洋の狭間に生きて、何を信じればいいのか、誰を信じればいいのか。ヨーコ・オノは、そんな時代の象徴なのかもしれない。
あれから、半世紀が過ぎて。人間は、当たり前だが、本質的には、何も変わっていない。発達した頭脳が学んだ、偽善と欺瞞。自分と違う隣人を怖がり、拡散される大量のコピペ情報に疲弊した人間の、むしろ想像力は退化しているのではないだろうか。
Imagine all the people
Sharing all the world
You may say I'm a dreamer
But I'm not the only one
I hope someday you'll join us
And the world will live as one
『Imagine』より抜粋
ケネス・ブラナー渾身の自伝的映画『ベルファスト(2022年)』が、1969年の北アイルランドの分断を描いている。同じ1969年の日本は、映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実(2020年)』を観るといい。
若者が熱い。想像する勇気、裸になる熱気。ヨーコがジョンと結婚した年で、翌年『グレープフルーツ』は発売され、僕は日本に生まれた。
2/18に92歳になるヨーコ・オノ。どこからの引用だろうか、僕の大好きな一節を、最後に。
It’s better to dance than to march through life.
2025.2