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逮捕_その2 ~私人逮捕は・・

前回逮捕の種類等についてひも解いたが、今回は現行犯逮捕、特に私人逮捕についてちょとだけフカボリしてみましょうね。


|現行犯逮捕は警察官だけではない

前回の現行犯逮捕の際にも触れたが、現行犯人の場合には警察官や検事などの捜査機関のみならず、一般の国民もこれを行うことができる。
官憲以外の一般国民が現行犯人を取り押さえ逮捕することを「私人逮捕」と呼ばれており、法律上も認められている。
法的根拠は刑事訴訟法だ。

刑事訴訟法第213条
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

つまり、現行犯人の逮捕は、検察官や警察官に限らず何人でも(一般人でも誰でも)逮捕状がなくても行うことができるとされているのである。

これは、現行犯人とは、現に犯行を行っているか、または行い終わったところであるため、逮捕して身柄を確保する必要が高い上に、犯罪と犯人の結びつきが明白であり誤認逮捕のおそれがないためであるといわれている。

イメージ:筆者撮影

|私人逮捕の要件

私人逮捕を行うには、通常以下の2つの条件を満たす必要がある。

① 犯人が現行犯人であること(準現行犯人を含む)(刑事訴訟法212条)
② 法定刑が30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律および経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については2万円)以下の罰金、拘留または科料に当たる罪(=軽微犯罪)の現行犯人については、

 犯人の住居または氏名が明らかでない場合
 犯人が逃亡するおそれがある場合

のいずれかに該当する場合に限って現行犯逮捕が認められることになる(刑事訴訟法第217条)。 
 
<軽微犯罪の例>
過失傷害罪(刑法第209条)、過失建造物等浸害罪、軽犯罪法違反など。

軽微犯罪の現行犯人を私人逮捕することができるのは、
 犯人の住居や氏名が明らかでない場合、または、犯人が逃亡するおそれがある場合
ということになる。

イメージ:筆者撮影

|私人逮捕が認められない例

逮捕に関する規定を曖昧に認識したまま私人逮捕に踏み切れば、その行為自体が違法と認定されるおそれもあるので注意が必要だ。

私人逮捕ができるのはあくまでも現行犯人のみであるので、以下のような場合には違法逮捕になる可能性もあるので要注意。

① 覚せい剤等の薬物事犯
覚せい剤等の違法薬物を所持している疑いがあるとして、これを呼び止めて拘束した場合には、所持しているものが違法な薬物であるという犯罪証明がなされていないので逮捕は違法になる。

覚せい剤の所持は、覚醒剤取締法違反に当たる(同法第14条第1項)。
私人逮捕ができるのは現行犯人である場合に限られることはこれまで記載したとおりであるが、所持しているものが覚せい剤と特定することができないのに、その疑いがあるというだけで呼び止めて拘束した場合は違法となる。

② 指名手配犯を発見した
指名手配犯は、逮捕令状の発布を受けて警察が公開手配などをしており、逮捕状の内容についての犯罪を行っている可能性が極めて高いのだが、私人逮捕の要件である、今まさに罪を犯している、または今犯行が終わったものではない。

したがって、指名手配犯は現行犯性が認められないため、私人逮捕も違法となる。

③ 軽犯罪法違反の犯人であるが身分を明かしている
軽犯罪法違反の法定刑は「拘留または科料」であるため、軽微犯罪に当たる。

軽微犯罪については、前述のとおり、
 犯人の住居もしくは氏名が明らかでない場合
 または犯人が逃亡するおそれがある場合

でなければ私人逮捕が認められないのだ。

犯人が身分を明かしている場合は、住居も氏名も明らかであるし、逃亡のおそれもないと判断され、私人逮捕は違法となる可能性が高い。

イメージ:筆者撮影

(4)逮捕の必要性がない場合
YouTuberが逮捕を強行した多くの事案を振り返ると、逮捕の必要性に欠けてるものもあった。

一般的には、私人が現行犯逮捕するような場合というのは、身柄を拘束すべき窮迫を要をする事案が多いはずだが、YouTuberのアップした動画をみると必ずしもそう感じられないものもある。

むしろ、視聴者のニーズや過激な内容の動画で再生回数を増やすことに主眼を置き広告収入を得ようとするような配信者が多いようにも感じる。

|私人逮捕系Youtuber問題

私人逮捕系のYouTuberや一般人が行った軽微な犯罪であっても、「犯罪者」として身体を拘束したり、交番に突き出したりする「私人逮捕系」も増加している。

しかし、私人逮捕系YouTuberに触発されて、自分も私人逮捕をしようとするのは大変危険なことだ。
行き過ぎた逮捕は、逮捕者自身が犯罪に問われたり、損害賠償責任が生じ賠償金の支払いを命じられることもあるのだ。

|私人逮捕に伴う刑事責任等

過去においても「私人逮捕系」などと称するYouTuberの男が投稿した動画で女性の名誉を傷つけたとして名誉毀損容疑で逮捕されたことがある。

現行犯逮捕の要件を満たさない私人逮捕をした場合には、不当に人を逮捕・監禁したとして「逮捕監禁罪(刑法220条)」に該当する可能性がある。
そのほかにも
〇 盗撮犯人と思われる人の家までつけて行って自宅で私人逮捕した場合に住居侵入罪に該当
〇 不当な逮捕の際に相手にけがを負わせるなどすると「逮捕致死傷罪(同221条)」に該当
〇 現行犯逮捕の要件を満たしていたとしても、逮捕の際に必要で相当な程度を超えて実力行使をしたような場合は「暴行罪(同208条)」や相手がけがをした場合は「傷害罪(同204条)」に該当
〇 行き過ぎた私人逮捕を撮影して「犯罪者」というレッテルをつけて投稿したことで名誉棄損等に該当

などの犯罪行為となって責任を問われる可能性があるので注意が必要だ。

また、仮に私人逮捕が適法だったとしても、名誉毀損等による損害賠償請求を受けることもある。
いずれにしても、私人逮捕は犯罪の証明と現行犯性などの要件を満たさないと違法逮捕になったり動画の投稿したことによる名誉棄損等人権侵害と認定された場合には損害賠償の責任を負うことになる。

|おわりに

私人の現行犯逮捕は、憲法の保障する基本的人権の侵害という人の尊厳にかかわることであり、慎重に対応する必要がある。

まして、逮捕行為の一部始終を動画にとりSNSに投稿する行為は名誉毀損につながりかねず、投稿者(YouTuber)もリスクを負うことになることを認識しておくべきだ。