![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/160733836/rectangle_large_type_2_30c31bf2d312e94ad8518ef67b60077f.jpeg?width=1200)
凶器型事故と棺桶型事故?
交通事故の類型についてはいくつかの分類(区分)の仕方がある。そのなかでちょっと気になったのが「凶器型」と「棺桶型」事故。皆さんはご存じですか?ちょっとだけ説明します。
|どんな事故類型なの?
凶器型、棺桶型について、いろいろと調べてみると、明確に定義した文献は直ちには見つからなかったが、いくつかの文献を読む限りにおいては以下のように分類できるだろう。
➤ 「凶器型」事故:車と歩行者・自転車の事故などのように、「歩行者などに対して自動車が加えた殺傷事故」を意味する。
「走る凶器型事故」と表現されることもある。
➤ 「棺桶型」事故:車対車、車の単独事故というように、「自動車の衝突により乗員が死傷する事故」を意味する。
「走る棺桶型事故」と表現されることもある。
|「凶器型」事故について
昭和30年代の後半から、自動車交通の急激な進展により、神風タクシーや通称「砂利ダンプ」などの無謀な運転により歩行者や自転車を巻き込んだ死亡事故が急激に増加した。
また、マイカーも急激に普及してきたことから、速度超過や飲酒運転、脇見運転などによる交通事故も急増した。
この昭和30年代後半から昭和40年代に至る頃には,高度経済成長に伴うモータリゼーションの急激な進展に伴い交通死亡事故も急増し、マスコミ等によって多発する交通死亡事故情勢を「交通戦争」の状態であると表現されるようになった。
また、道路交通の場を利用する歩行者等の交通弱者が関係する事故において自動車側を「車は走る凶器」と比喩され、このような車対歩行者などの事故を「凶器型事故」と呼ばれるようになった。
|「棺桶型」事故ついて
一方、交通事故の形態も、子どもの遊び場対策、歩行者・自転車の事故防止対策、道路交通法の制定による歩行者義務などのルールの明確化等により、歩行者等が関係する事故が減少傾向にある中で、自動車保有台数等の急増、幹線道路整備・延伸などにより昭和40年代には、国道や幹線道路における車同士や車の単独事故による死亡事故等重大事故が増加してきた。
この頃から自動車同士の事故や単独事故で死亡するような重大事故を「棺桶型」事故と称されるようになった。
|文献等の例示
「凶器型」事故、「棺桶型」事故について、明記されている文献等を検索してみると以下のようなものに表記されているので参考にされたい。
なお引用文中のゴシックは筆者が加えたものである。
◎ 国土交通省白書(旧運輸白書)_昭和47年版
交通事故のうち死者を出した死亡事故について類型を人対自動車,自転車対自動車等いわゆる「走る凶器」型の事故と自動車等相互及び自動車単独のいわゆる「走る棺桶」型事故に分け,それらの発生状況を見ると「走る凶器」型の事故が全死亡事故の48.1%,「走る棺桶」型の事故が47.1%とほぼ同比率となつている。
◎ 豊田中央研究所 R&D レビュー Vol. 27 No. 1 ( 1992. 3 )
人体の衝突傷害耐性 -顔面-森本一史
https://www.tytlabs.co.jp/en/japanese/review/rev271pdf/271_015_morimoto.pdf
警察庁が発表する事故の状態別死者数を見ると,過去20年余りの間にさまざまな変化が生じている。とりわけ特徴的であるのは,歩行中の死者が年々
減少しているのに対し,自動車乗車中の死者が着実に増加していることであろう。
このようないわば「棺桶」型の事故は,特に米国で著しく,1986年の全死者数約46,000人のうち73%をも占めている1)。このことは,自動車の安全性
に対する法的規制が厳しい理由のひとつとも言えよう。
◎ 月刊交通(1971年1月号掲載)
分離交通を徹底し歩行者のための生活道路を再現すること(警察庁交通局長 片岡誠)
・・・では誰の安全が一番重要か、私は弱い道路利用者の安全が先ず第一。すなわち歩行者なかんずく幼児・児童・老人の歩行者の安全をなによりも第一に考えるべきと考える、次ぎに自転車、原動機付自転車、自動車の順であろう。
いわゆる「走る棺桶型の事故」より「走る凶器型の事故」が問題である。「走る凶器型の事故」は、絶対数を減らすべきであるし、また減らすことが可能である。しかし「走る棺桶型の事故」は、モータリゼーションの拡大とともに、その絶対数を抑制することは非常に困難であろう。極端な表現をすれば、酔払い運転や無免許運転をして自分で転倒したり、転落して死んで行く者は自殺者と言うべきではなかろうか。
正常な運動能力を持たず、また無謀な運転をする故意犯的な運転者から、運転ルールを守る正常な運転者を保護するのが私達の仕事ではなかろうか。
指導•取締・捜査もこのような「危険な運転者」すなわち違反と事故の常習者に、重点を指向すべきではなかろうか。・・・・・
◎ 自動車用シートベルト 志賀四郎著 安全工学 VoL8No.3(1969)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/8/3/8_181/_pdf/-char/en
・・・・・ちなみに昭和21年から43年までにおこった交通事故は約607万件、これによる死者数は約19万7千人、負傷者数は501方6千人、満州事変、支那事変を通じての死者数が13万5,484人であったことを想起すれぽ,交通戦争という書葉が決して大げさとはいえないではないか、
しかも、最近の事故の傾向として目立つのは「人対車」の事故から「車対車」の事故へと移ってきたことで、たとえば、自動車運転中+同乗中の事故による死亡者は39年1516人+1144人、40年1,523人+1,229人、 41年1,870人 +1,452人、42年 2,108人+1,531人、43年2,427人+1,736人(注:43年中の自動車対自動車の正面衝突は、1,555件、42年に比し133件の増加)とふえていることで、歩行者全体の死者数が依然最上位の40%を占めているとはいえ、自動車はもはや「走る凶器」から「走る棺桶」になりつつあることを如実に示している。・・・・'
◎ 「千葉市史」 第3巻 現代編 / 第九節 市民生活 / 第五項 治安 / 交通事故概況 (千葉市/千葉市地域情報デジタルアーカイブ)
https://adeac.jp/chiba-city/texthtml/d100030/mp300010-100030/ht000278
事故発生原因のうち、車対歩行者や、車対自転車といった凶器型事故は、市町村道に多く発生し、その原因のほとんどは、車の直前直後の横断による飛び出し、ならびに運転者の前方不注意によるものである。また、車対車、車単独といった棺桶型事故は、凶器型事故とは逆に、国道において多く発生し、交差点の徐行違反右折違反、車間距離不保持、酒酔(酒気帯び)運転、最高速度違反、ハンドル等の操作不確実、追い越し方法違反などを主な原因としており、道路が整備され高速化の条件が増せば増すほど、事故の恐ろしさは一層倍加されてきている。
◎ 「愛媛県史」社会経済3 商工(昭和61年3月31日発行)
https://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:2/45/view/5846
モータリゼーションの課題
しかしながら、こうした公共資金による道路整備事業のテンポは、私企業の論理で生産・販売され個人的に保有・利用される自動車のそれにはとうてい追いつかず、表交1―13に見られるような交通量の増大をもたらし、・・
・・(中略)・・・。またこの過程で、交通事故が逐年増加し、昭和四七年のピーク時には死傷者数が一万人を超えるに至った(全国のピークは昭和四五年で愛媛は前述の事情からこの点でもやや時期がズレている)。
交通事故はその後減少傾向を辿ったが、近年また増加のきざしをみせる一方、事故の性質も「凶器型」に対して「棺桶型」(車相互・車単独)が増えるなど変わってきており、注目を要する。
◎ マスコミから見た交通安全史 栗山定幸著 (IATSS Review Vol.20.No.1)
https://www.iatss.or.jp/entry_img/20-1-05.pdf
神風タクシー、砂利ダンプといった対歩行者時代の事故対策ではなく、その後の、今日の日本でも大きな社会問題になってきている車対車、車対物のいわゆる棺桶型事故の時代の中で制作された番組であるという違いはあるが、日本の第一次交通戦争以来のマスコミがこのような姿勢を取り続けていたら…と考える。
日本では、棺桶型事故時代の入り口に欠陥車問題があったが、そのきっかけは国内報道ではなく、今日で言えばさしずめ“外圧”の昭和44年5月12日付「ニューヨーク・タイムズ」紙であり、さらに日本のマスコミの対応は、自動車メーカーを魔女に仕立て上げる社会部的発想と、よい意味でも悪い意味でもそれと対照的な経済部的姿勢のはざまで揺れ動いていたように思われる。
◎ 創造と環境
コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブhttps://chuukyuu.hatenablog.com/entry/20081111/1226341835
安全性への関心
先日(1967年)、新聞を読んでいたら、自動車が原因の日本の交通事故も、「兇器」型から先進国なみの「棺桶」型へ移行しつつある---といった記事が目についた。
「兇器」型というのは、歩行者などに対して自動車が加えた殺傷事故であり、一方の「棺桶」型は、車同士あるいは車だけの事故によって運転者や同乗者が死傷することを意味する。
そして、自動車の普及につれて高速道路が伸び、かつ一般家庭の自動車保有率があがってくと、「棺桶」型事故がふえてくるというのである。
それらの国では車そのものの「安全性」に対する要求が高まってくるともいわれている。
そういえば、最近(1968年)の日本の自動車の広告にも、「安全設計」とか「安全性」とかいった文字がちらほらしはじめている。
|おわりに
今でも自動車は走る凶器と言われていますね。
交通事故について、交通弱者に対する事故を凶器型事故(走る凶器型事故)と表現し、また、自動車同士の事故や単独事故については棺桶型事故(走る棺桶型事故)とはうまく表現したものですね。
交通事故死者が大きく減少した今日では、両者の表現はしなくなったと感じているが、交通安全対策の歴史として知っておくことも大切だと思うので取り上げてみた。