Plant-Baseプロジェクト~ベジタリアン、ヴィーガンと多様性①
プラントベース=菜食中心の生活をする理由は様々に分かれています。健康、環境、動物倫理、宗教、文化、経済など、「vegetarian」、「vegan」という言葉がまだ存在しなかった何千年も前から、世界中の様々な地域でそれぞれに異なる理由で実践されてきました[1]。
古代にはギリシアの数学者ピタゴラスのほか、インドの仏教の創始者ブッダやジャイナ教の創始者マハーヴィーラが肉を避ける菜食の生活を広めました。日本でも、6世紀の仏教伝来や7世紀の律令制による稲作の国策化により、明治に入るまで人々は菜食中心の生活を送ってきました[2]。また台湾や中国では古くから、仏教など宗教上の理由で動物性食を避ける人々がいて、現在は素食やオリエンタルベジタリアンという名で広まっています[3]。
[図1]手塚治虫の漫画『ブッダ』
このように、地域ごと、時代ごとに菜食の実践の在り方はとても多様で、一つの明確な定義を与えるのは困難です。なのでまずはその範囲を絞ってみて、「vegetarian」、「vegan」の言葉の成り立ちから見てみると、次のように説明することができます。
「西洋の」ベジタリアン、ヴィーガン
ヴィーガンの始まりは、1944年にイギリスで設立されたヴィーガン協会(The Vegan Society)にさかのぼれます。これは同じくイギリスで 1847 年に生まれたベジタリアン協会(The Vegetarian Society)から派生した団体で、「vegan」は「vegetarian」から文字をいくつか抜き取ってできた言葉です。
ではまず、ベジタリアンがどういうものなのかを見ていきましょう。
良く知られているとおり、ベジタリアンは動物(牛、鶏、豚、魚、…)の肉を避ける人のことを指します。※1
このことから「vegetarian」の vege は「vegetable」=野菜の vege だ、というイメージがあるかもしれません。実はベジタリアン協会の設立者たちは、この言葉がラテン語の「vegetus」に由来するものだと表明していました。「vegetus」は活き活きとしてエネルギッシュな様子を意味する言葉で、単に野菜を食べるというだけでない広い意義を持ったものがベジタリアンなのだ、と主張していたんです[4]。
上述のように、当時のベジタリアンは食肉を避ける人を指し、グループの中でも多くの人は牛乳や卵を食べていました。そこで、これらを含めた動物由来のものを全て避けるという考えのもと、新しくヴィーガン協会が作られました。英国ヴィーガン協会の HP によるとヴィーガニズム(=ヴィーガンの実践内容)は「現実的で可能な限り、食物や衣服の生産などに伴う、あらゆる種類の動物への搾取と虐待を避けようと心掛ける生き方」
と定義されています[5]。
[図2]英国ヴィーガン協会の認証マーク
ベジタリアンが食べない動物の肉だけでなく、卵、乳製品、蜂蜜といった動物由来のものを全て食べないほか、衣服の革や毛皮、動物実験が行われた化粧品や洗剤、動物園、水族館や動物が見世物になるサーカスなど、原則として動物の利用が伴うものは避けます。ただし、自分が重い病気にかかった際に医薬品や治療(ほとんどの国で動物実験がされています)を受けないことについては、ほとんどの人にとって「現実的で可能」ではなく、協会も勧めていないようです。
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プラントベースの多様性
以上の説明は、あくまでもイギリスの菜食やそれに影響を受けた西洋の人々を中心とした見方であるという批判がなされています。このPlant-Baseプロジェクトでは、プラントベースを一つの枠組みでとらえず、複数の定義が可能なものとして見てゆきたいと思います。
(続く)
<注>
※1 英国ベジタリアン協会の定義(https://vegsoc.org/info-hub/definition/)では、ベジタリアンは貝、甲殻類、昆虫も食べません。現在、ベジタリアンの細かい分類として以下のようなものがあります。
・ポーヨーベジタリアン:哺乳類の肉を避ける
・ペスコベジタリアン:哺乳類、鳥の肉を避ける
(魚・乳・卵を食べる人と、魚は食べるが乳・卵は避ける人がいる)
・ラクトオボベジタリアン:ベジタリアン協会の定義通りのもの
(欧米では、ベジタリアンと言えばふつうラクトオボベジタリアンを指す)
・ラクトベジタリアン:哺乳類、鳥、魚の肉、卵を避ける
<参考>
[1]Hertweck, Tom(2021)“Vegetarian and vegan histories”. The Routledge Handbook of Vegan Studies, edited by Laura Wright, Taylor & Francis Group, pp. 27–38.
[2]生田武志(2019)『いのちへの礼儀―国家・資本・家族の変容と動物たち』筑摩書房
[3]庄司いずみ(2015)『作る人のためのベジタリアン・パーフェクト・ブック』講談社
[4]ザラスカ, マルタ(2017)『人類はなぜ肉食をやめられないのか』小野木明恵訳 インターシフト
[5]“Definition of veganism". The Vegan Society