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菜食と環境①陸の産業

 2006 年、FAO(国連食糧農業機関)は『家畜の長い影』という報告書で、畜産業は温暖化、大気汚染、水質汚濁の大きな要因であることを示しました[1]。BBCによると、世界の温室効果ガス総排出量のうち26%が食物に由来していて、食品のなかでも特に肉、魚、乳製品などの動物性食品が58%(総排出量の約15%)を占めるとされています[2]。

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 [図1]FAOの報告書『家畜の長い影Livestock's Long Shadow』

 現在、UNEP(国連環境計画)は「世界で最も急を要する問題」として食肉量の削減を目指しているほか[3]、多くの国際機関が世界中で食肉を減らすよう呼び掛けています

 なぜ、畜産が温暖化や環境汚染につながるのでしょうか?どうして、食肉を減らすことが求められているのでしょうか?

 それは、家畜動物に大豆やトウモロコシといった飼料を与えて、その家畜を人が食べるという食料生産の在り方(=迂回生産)がとても効率の悪いものだからです。動物は呼吸、移動、排泄など体の成長以外にも大きなエネルギーを費やすので、人が植物を直接食べるよりもはるかに多くの植物と、それを育てるための土地と水が必要になります。そして呼吸や排泄に由来する物質が温暖化や汚染を引き起こします。

 例えば、牛乳1L には水 880L が必要になります。また、ハンバーガー 1 個を作るためには 1700L の水を費やしますが、同量のパンには 180L の水で済みます[4]。
 さらに、牛が出すメタンガスや家畜の排泄物から発生する亜酸化窒素などにより、畜産は温室効果ガスの主要な排出源になっていると言われています[2]。一部の排泄物は河川へ流出し、流域を汚染し、海へたどりつくと酸欠海域を生み出します[5]。

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[図2]アマゾンの森林火災

 加えて、家畜の餌になる大豆の畑や放牧地のために、大規模な森林破壊が引き起こされています。世界全体では、毎秒 6000 平方メートルの熱帯雨林が破壊されていると言われています[6]。ブラジルのアマゾン消失が国際的な問題となっていますが、その大半が畜産を原因としています[7]。
 現在国内で用いられてる飼料は75%が輸入品で、トウモロコシの 50%はブラジルから輸入されているため[8]、日本もまたアマゾン消失の原因を作ってしまっているのかもしれません。

 2018 年に科学雑誌「Science」に掲載されたオックスフォード大の研究によると、世界中の食品産業に費やされる農地の 83%、淡水の 33%が畜産業に使われています。そして温暖化、大気汚染、水質汚濁の 6 割近くは畜産によって引き起こされています。一方、畜産が供給するカロリーは全ての食料供給のうちの 18%、供給タンパク質は 37%に過ぎません[9]。

 耕作可能な土地や使える淡水には限りがあります。すでに地球上の陸地の 3 分の 1 以上が農業に利用されていて、4 分の 1 は表土喪失、微生物現象、栄養素枯渇などにより劣化しています。加えて、淡水の水源の多くは枯渇しつつあります[10]。

 飼料に使われる農薬、家畜動物に投与される抗生物質、ホルモン剤などにより畜産業は水質を汚染します。アメリカでは、土壌浸食の 55%が畜産、37%が農薬によると言われています[11]。さらに、家畜が地面を押し固めて水が染み込まなくなり、淡水資源の浄化が妨げられています。

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[図2]ザラスカ『人類はなぜ肉食をやめられないのか』

 こうしたなか、2050 年までに世界の人口は 93 億にまで達し、いまの肉の消費量が続けば世界中で土地と水が足りなくなるだろう、と言われています[12]。

<参考>

[1] "Livestock's Long Shadow: environmental issues and options". FAO. Rome. 2006
[2] "Plant-based diet can fight climate change- UN". BBC. 2019
[3] "Tackling the world’s most urgent problem: meat". FAO. 2018/9
[4] "The Water Content of Things: How much water does it take to grow a hamburger?". USGS Water Science School.
[5] "What Causes Ocean“Dead Zones”?". Scientific American. 2012/9
[6] ホーソーン, マーク(2019)『ビーガンという生き方』井上太一訳 緑風出版 第四章
[7] Margulis, Sergio ( 2004 ) "Causes of Deforestation of the Brazilian Amazon". World Bank Working Paper No. 22.
[8] 「飼料をめぐる情勢」農林水産省 2020/9
[9] J. Poore and T. Nemecek(2018)Reducing food’s environmental impacts through producers and consumers. Science 360, 987–992.
[10] "SOLAW: Managing Systems at Risk". FAO. Rome. 2013
[11] アタリ, ジャック(2020)『食の歴史―人類はこれまで何を食べてきたのか』林昌宏訳 プレジデント社 pp253-254
[12] ザラスカ, マルタ(2017)『人類はなぜ肉食をやめられないのか』小野木明恵訳 インターシフト 第十二章

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