メタバースが人をつなぐ、次のCX実践の場になるか?― ウェビナーレポート
2023年4月に開催したCX CREATIVE DAYSでは、計4日間にわたってCXクリエイティブの実践事例をお届けしました。
「メタバースが人をつなぐ、次のCX実践の場になるか?」と題したセッションには、 TDKのバーチャルショールーム「TDK Techno Experience」を手がけた電通デジタル BIRD部門の喜々津良と、大和証券グループの創業120周年記念の社内イベント「THE NEXT JOURNEY」を手がけた電通 CXクリエーティブ・センターの諏訪徹が登壇。各事例をもとに、マーケティング実践の場としてメタバースを活用する秘訣を紹介しました。
本記事は、CX Creative Studio note編集部がセッションの内容をまとめたものです。
電通のメタバースの取り組み
dentsu Japanでは、VRやメタバースの専門家を集めたXRチームを設置し、さまざまな取り組みを行ってきました。コンテンツをつくるだけではなく、事業構想からマーケティングソリューション開発、UIUX開発、運用、PDCAまでワンストップで総合的に提供しているのが特徴です。
数ある取り組みの中から、TDKと大和証券グループが取り組んだメタバース事例を紹介します。
TDK:バーチャルショールーム「TDK Techno Experience」
喜々津:歴史あるグローバル大手電子部品メーカーのTDK様ではバーチャルショールーム「TDK Techno Experience(TTE)」を制作しました。
クリエイティブを作るにあたり、クライアントからのリクエストは下記の4点です。
「ニューノーマルなコミュニケーションを実現する世界を作りたい」
「TDKの技術力の幅広さを世界に発信したい」
「TDKのビジョンや文化、その歴史を発信したい」
「グローバルに魅力を発信したい」
その上でまず行ったのは、バーチャルショールームの役割を明確にすること。バーチャルショールームは、オンラインのウェブサイトとオフラインである会場の間に位置する存在です。クライアントと話し合い、バーチャルショールームの役割を『訪れた方々にTDKという企業を正しく理解していただき、コミュニケーションを深くするためのもの』と定義しました。
そして決まったコンセプトが「訪れた人々のビジョンが、共に明日を思い描く」です。インタラクティブなコミュニケーションを通して、来場者と共に楽しめる空間を目指しました。
アテンド型のインタラクティブツアーを行ったのも、この事例の特徴です。TDKのスタッフが来場者をアテンドすることで、国内外にいるゲストとリアルタイムで体験を共有することができました。
プラットフォームについては、常設適性およびアクセス性を重視し、WebVRを選択。ヘッドマウントディスプレイのVR空間と比べて見た目のクオリティやシステムの制限がありますが、WebVRを使うことで、専用の機器を持っていない方もアクセスしやすく操作が簡単で、企業との顧客接点増加や長期運用に向いているからです。
コミュニケーションを活発化させるための仕掛けも多数用意。
具体的には、「未来へのビジョンや取り組みを知るVision Zone」、「技術や製品を知るTechnology Zone」、「TDKで働く人を知るPeople Zone 」という3つのゾーンを制作しました。その中で、導入ムービーや象徴となるツリー、ローディング中には話のネタになるような豆知識を配信したほか、360度ドームシアターといったストリーミングも設置。「秘密の会議室スペース」など、「これはなんだ?」とワクワクできるような演出にもこだわりました。
大和証券グループ:創業120周年記念の社内イベント「THE NEXT JOURNEY」
諏訪:大和証券グループ様では、同グループが2022年に創業120周年を迎えたことによる記念事業として、社員とその家族に向けた1週間のメタバースイベント「THE NEXT JOURNEY」を開催しました。
目的は「120周年以降の未来へ向けたビジョンや戦略について共有すること」「メタバース空間での交流やコミュニケーションを楽しみ、より会社を好きになってもらうこと」の2つ。
メタバース空間でのコミュニケーションを設計するにあたり、注力していたのは「行きたいか?(参加欲求)」「帰りたくないか?(継続欲求)」の2つを刺激する、コミュニケーションストーリーを描くことです。
メタバース空間ならではのコンセプト設計をすることで、自ずと体験ストーリーが湧いてくるはず。「THE NEXT JOURNEY」では、コンセプトを「社員・家族みんなで月面旅行に行こう!」に設定しました。
コンセプトをもとに「月面の重力でジャンプしてみたい」「月面ならではのアクティビティーを体験してみたい」といった体験ストーリーを組み立て、機能を設計しました。
ここからは、「THE NEXT JOURNEY」で実装した機能をいくつか紹介します。
・アクション/エモート
アバターが月面でジャンプする「1/6 重力ジャンプ」や、名刺交換を月面で体験できる「名刺交換エモート」といったエモート機能を実装。メタバースならではの体験を追求できるように工夫しました。
・アチーブメント/プロフィール/月面ミッション
VRワールドの中を自然と周遊したくなるように、スタンプラリーも用意しました。ミッションを達成すると、VRワールド内での役職がレベルアップしていくといった仕掛けです。
・コンテンツ/月面シアター
見ていて楽しいだけでなく、参加すると“思わず喋りたくなる”映像コンテンツも制作。全員参加型の「月面マルバツクイズ」や「月面エクササイズ」、お笑いライブなどを用意しました。
・交流エリア/月面酒場
交流エリアと題して、対話を促す月面酒場も設置。コロナ禍で飲み会を控えるようになっていた時期だったこともあり、部員や仕事仲間同士で同じ空間で楽しめるような場をつくりました。飲み会で話題に困った時のためにお題BOXを用意したほか、乾杯や椅子に座って対話できるように設計したのもポイントです。
月面酒場では、1時間以上にわたってVRワールド内での飲み会を楽しんだ社員が出てくるなど「帰りたくなくなるような体験」を創出することができました。
しかし、良かったことだけではありません。「ユーザー間のデジタルリテラシーの違い」「コンセプト設計の違い」といった課題も判明しました。前者については、参加者のデジタルリテラシーのレベルを揃えられるようなVRワールド内の体験設計がポイントです。後者はイベントの開催期間によって、コンセプト設計を変える必要があるということ。今回の事例では、関係者から「期間限定ではなく、ずっとあっても良いイベントだった」という嬉しい声もありました。しかし、長期的なイベントにするのであれば、旅行というコンセプトは適していません。
つまり、イベントの開催期間に合わせて、コンセプトを設計することが重要だということ。このイベントを通して、今後に活かせるポジティブな課題に気がつけたと同時に、メタバースにはイントラネットワークとして社内のコミュニケーションを促す効果があると実感できました。
ウェビナーを終えて:メタバースの未来とは?
セッション終了後、電通CXクリエーティブ・センター 瀬戸康隆と、スピーカーの喜々津良と諏訪徹の3名で、セッション内容を踏まえたディスカッションが行われました。
瀬戸:メタバースの未来について、どのように考えていますか。
喜々津:私は、大きく3つ考えています。1つは「データ活用の場としてのメタバース」。というのも、データ活用とメタバースは非常に親和性が高いのです。継続的にデジタルで取れるデータを活用してアップデートするだけでなく、今までウェブサイトだけだと取れなかったようなデータが取れるようになることで、顧客像がより明確になるのではないでしょうか。
瀬戸:なるほど。残りの2つについてもお話いただけますか。
喜々津:2つ目は「メタバースアセットのマルチ展開」です。1度作ったプラットフォームや3Dのオブジェクトを各SNSに投稿するようになると考えられます。3つ目は「AIによる変革」。AIによって誰しもが簡単にメタバースをつくれるようになる日も近いのではないかと考えています。
瀬戸:諏訪さんはいかがですか。
諏訪:「THE NEXT JOURNEY」は期間限定のイベントでしたが、長期的に実施することがあれば、データを活用して社員のレベルアップを促進し続けることができるのではないかと思いました。また、チャットのAI機能が発達していることを考えると、AIで会話のきっかけが生まれ、社員同士の活発なコミュニケーションが活発化するでしょう。メタバースという空間で、リアルよりも活発なコミュニケーションが生まれる可能性もあるのではないでしょうか。
瀬戸:メタバースがどのように発展していくのか、また、それによってCX設計にどのような拡がりが生まれるのか、今後が楽しみですね。喜々津さん、瀬戸さん、ありがとうございました。
CX Creative Studioでは、今後もさまざまな新しいメタバースCX体験をつくっていきたいと考えております。ご興味があれば、ぜひご相談ください。
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プロフィール
BIRD部門・クリエイティブストラテジスト
ITコンサル・制作会社にてプロデューサー兼クリエイティブディレクターとして従事したのち、電通デジタル入社。電通デジタルXR組織“XRLAB”リーダー。先端技術に関連した業務を中心に従事。
カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター所属 コミュニケーションデザイナー/クリエーティブディレクター
BP職、マーケティング職を経て、クリエイティブ職に。スウェーデン・North Kingdom で働いた後に、帰国しCXCCに所属。 商品&サービス開発からブランディングコミュニケーションまで幅広く対応し、「ひとつの領域にとどまらない強いストーリー開発を!」をモットーに仕事をする。
※所属・役職は取材当時のものです。