10年前のレコード屋事情
ご挨拶だけの投稿っていうのもあれなんで、連投。
時系列的に、レコード屋の会社勤めとしては最後の話になっちゃうんですけど、記憶としては一番新しいところから。
私は11年勤めていたレコード屋を退職したのは、2010年になるんでもう10年前なんですけど、その時のレコード屋事情から回想したいと思います。
10年一昔、とはよく言ったもの。
すでに記憶が曖昧になってきている部分もあるので、調べながら。
かのCISCO RECORDSが廃業したのが2008年の10月末、DANCE MUSIC RECORDことDMRが閉店したのこそ2014年5月末ながら、2011年には事業見直しでレコードやCDの販売を止めていたようなので、2010年時点でも在庫のセールなんかをやっていたんじゃないかな、もう完全にうる覚えですけど。
あと、今も元気に営業しているマンハッタンレコードも、2007年にWEGOに経営統合される前に、業界では「身売り先を探しているらしい」というのも普通に噂として飛び交っていたので、2005年から2010年辺りは本当に業界としては暗かったですね。
そこらの3大ショップからすれば、少し格落ちするにしても、東京・町田のFREAKS RECORDSは2011年2月に、渋谷のHOMEBASSも2008年の1月に、ギネスレコードも2010年6月末に閉店しているので、やっぱりこの辺の時期が、レコード屋業界にとっては大きなターニングポイントになっていて。
で、その直接的な大きな原因となったのがSERATO、SCRATCH LIVEですよね、これは断言して間違いない。
S・E・R・A・T・O
SERATOの登場で、いわゆる「プロモバブル」が弾けちゃった。
これについては、おいおい絶対に記事を書きますけど、プロモで儲けていた店がこの時期、立て続けに店舗の閉店、もしくは廃業に追い込まれていて。
まあ、そもそもプロモバブルの時期に、プロモ盤を海外から安定的にうまく引っ張ってこれなかった店が、その時点で少し競争に負けていた背景もあった気がしますけど。
私が勤めていた店でも、当時プロモを買いに来るDJたち(= 常連)の客足が、みるみる遠のいていくのがハッキリ分かるレベルだったし、それに伴って店舗の売上もガタ落ち。
一時はもの凄く調子が良かったこともあって、そのギャップに身震いしたのを覚えています。
そもそも
ただ、ですよ。私がレコード屋で勤め始めたのが1999年(最初はバイト)で、1994〜6年ぐらいの、いわゆる最初のレコードバブル(?)はバイヤーとして経験していないんですけど。
どんなレコードでも2枚ずつ売れていくのが当時のバブルだったとして、2000年代のプロモバブルは、プロモなら何でも売れる、みたいな感じでしたね。海外から引っ張ってこれさえすれば売れる、みたいな。
まあ、売れ過ぎていたんですね。需要と供給のバランスが明らかにおかしい。こんなの、絶対長く続くはずがないんですけど。
でも、当時は私も20代の若造で、売れるタイトルを引っ張ることだけに一生懸命で、「このバブルはいつか弾ける」「弾けたあと、どうするか」みたいな視点がまったく無くて。
業界全体も、そんな感じだったと言うか。想像力が無かったんですよね。
まあ自分も含め、みんな元々、ただのレコキチですから。
好きな音楽が売れればいい、じゃないですけど、マーケティング的な視点は皆無。
ただただ、良い音楽、売れる音楽を探し、確保することに集中していました。
それから
でも。SERATOの台頭と共にプロモバブルが弾けて、一時はレコード屋の聖地とまで言われた渋谷・宇田川町の閉店ラッシュで、業界は一気に暗転。
1店、2店なら、そこが持っていたパイをどう奪うかって前向きな話にも少しはなるんでしょうけど、3大ショップが明らかに傾き始めると、中古屋も含めて業界全体が暗いムードになって。
関西圏でも、中古屋の店頭で、常連と思われる客と店員がこんなやりとりをしていたのが、エサ箱を漁りながらよく聞こえていました。
常連「最近はどうですか、調子は?売れ行き?」
店員「良いわけないじゃないですか。。」
みたいな。今も頑張っておられますが、当時もっと店舗が多かったDISC J.J.とかキングコングとかね。
どこの店でも、こんな感じ。暗いんですよね、全体が。前がよく見えないぐらい。
私は、同時期に結婚したこともあって。
レコードも音楽も今でも大好きですけど、先行きが不透明なこの業界でこの先も所帯持ちが働くのは無理と考えるようになって、結局退職したんですけど。
いま思い返してもですけど、「自分たちが積み上げてきた知見が、テクノロジーの進歩によって完膚なきまでに蹂躙される感覚」というのは、本当に恐ろしかったですね。
市場がレッドオーシャンで、その中の競争に負けるのとはワケが違う。
積み上げてきたものが、一瞬で無価値になるような感じ。
「あー、自分の11年間の努力が無駄になっちゃった」みたいな。「燃え尽きたぜ…真っ白にな…」みたいな。
なんて言うか、私が勤めていたお店は直前までのプロモバブルではイイ線いってた感覚も持っていたので、レッドオーシャンでの競走には負けていない、という自負も当時はあって余計キツかったのかもしれません、いま考えると。
別にそのキャリアも無駄にはなってないんですけどね。その時に得た知見で、その後ももう少しだけライターの仕事もしてたし、今に繋がっている要素も沢山あると思うし。
でも当時はね。だいぶショックでした。
そんなことで。私に限らず、当時は似たような思いをした業界関係者も多かったんじゃないでしょうかね。
同じように、業界から足を洗った人も多かったはずです。
まあでも、今となればこれはこれで、凄く貴重な体験をさせてもらったと思っています。
CDが出てきた時のテープ業界(?)は、サブスク全盛の今のCD業界(?)は、こういう気持ちだった/なんだろうな、ってリアルに分かりますね。
今日は、こんなところで。