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君を形どる、星型の砂糖菓子。【ショート・ショート】

東海道線の電車でわたしを見かけ、
君は、川崎で乗りかえようとするところで声を掛けてきた。

Tシャツと短パンからスラリと伸びる日に焼けた素肌。
そんなラフな印象とは裏腹に、汚れのない清潔感と誠実な態度の君は、
「あなたに手紙を書いてもいいですか?」と礼儀正しく頭を下げてきた。
わたしは、何故だか断り切れず、手紙のやり取りをすることになった。

「わかった、ありがとう。わたしからも返事を書くようにするね。」
「ありがとうございます。僕、早速手紙を書きます。今夜投函します。」と約束した数日後、君の住む静岡から手紙が届いた。

君からの手紙には、自分は父子家庭だということ、ひとり親でも父親が懸命に育ててくれたこと、だけどそれ以上に母親の居ない淋しさと
やるせない君の気持ちが、手紙のあちらこちらに染みていた。


「僕の足元には、立ち止まらないと見えない小さな世界が広がっていて、
子どもの時には目を凝らすように面白がって眺めていたこの世界を、
僕はいつの間にか忙しさに身を任せ、多くの大人がするように、
ズカズカと、ただ前だけを見て歩いていたんです。自分の足元を振り返りもせず。」

君は、貧しさを言い訳にしたくなかった、
君は、淋しさを言い訳にしたくなかった、

ただただ、がむしゃらに前だけを見て歩いて来た。

「今、僕は子どもにかえりたい。
もう一度子どもの頃の様に、この世界を感じたい。」




人は小さくて、そして儚げ。

わたし達は皆、小さな幸せを一つ一つを積み重ねた金平糖コンペイトウ
甘くて懐かしい星型の砂糖菓子。

あのパステル色した小さな星の一つ一つが、
君を、わたしを、わたし達を形どっている。

君が積み上げた金平糖はどんな色達で出来ているのだろう。
わたしを形どる金平糖は、君から見たら、どんな色に見えるのだろう。

このまま大人になることの不安を感じる君の言葉は、わたしの心も揺らす。

『君に会おう。』

君に会って、不思議さ、美しさ、面白さを一緒に感じられたら、どんなに楽しいことだろう。
高校生の君は、まだ決まらない進路の選択に、悩んで立ち止まる。
だけど、時が来ればきっと希望を胸に、また歩き出すことが出来るから。


わたしは君のことをもっと知りたい。
君もわたしのことをもっと知りたいのかもしれない。


夏の終わりも近づき、少しだけ涼しくなって来た夜。
扇風機が首を振りながらまわっている。
少し疲れた君の心が癒されるような、
甘すぎないけれど、それでいて優しい言葉を丁寧にみつけながら。

蒼くんへの想いを抱いて、わたしは手紙の返事を書きはじめました。









最後までお読みいただきありがとうございました。

一話でも完結出来るように書いておりますが、
連載のつもりで書いてまいりました。
どれも、小説の下書きのような、拙い作品です。
前回から2週間も経ってしまいました(汗)
出来事が繋がるように、前作品と重複する文章が多めです(汗)

こちらは、自作のショートショートをまとめたマガジンです。
覗きに来ていただけると大変嬉しいです。

沢山創作して、noteクリエーターの皆様のような
素敵な作品を書けるように、切磋琢磨していきたいと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。



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