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洞窟おじさんを読んで〜生存本能がぶち上がる一冊〜

社会に出ると、むやみに協調性を強いられる。我慢することの美徳、建前、そして世間体を意識した行動を取らざるを得なくなる。
そのどれもがこの洞窟おじさんには必要とされなかった。
なぜなら13歳の時に家出をしてから43年間、洞窟で犬と共に生活をしたり、一人きりで山や川で生活をしてきたからだ。

家出の発端は両親からの虐待だった。愛犬シロと共に足尾銅山に向かい、蛇やネズミ、イノシシを食べて生きることを選んだ。その後、愛犬シロとの別れ、老夫婦との出会い、自殺未遂、山から川へと移住しての生活、窃盗未遂から警察に捕まり、56歳から障害者施設で働きはじめる。

人との交流が怖いものから喜ばしいものへと変わっていく

おじさんは長い間人との交流を避けてきた。最初は家に戻されては困ると見つからないように生き、その後老夫婦に出会い、よくしてもらったが迷惑をかけては申し訳ないということで別れを選ぶ。その後も釣り仲間や女性と交流することはあったが、心底信頼し合う関係はなかった。

本を読み進めていくとおじさんの心境の変化が大きく変わるタイミングがわかる。それは障害者施設で働き始めてからだ。生活の変化と本当に信頼できる人との出会いがおじさんの心境を大きく変えた。

山や川で生活していた時は「とにかく今日を生き切る」ことを考え食糧や寝床の確保を四六時中考えていたが、その心配がなくなれば、他のことを考えるようになる。
おじさんは何を考えるようになったか。
理事長の大切なブルーベリーの木をいかに育てていくか、子供達にサバイバル方法を教えてみたいが何を教えたら良いだろう、施設のみんなに料理を振る舞って日頃の感謝を伝えたい。
そうやって他人を想い行動するようになる。感謝の気持ちを持つことで自分にできることを考えて、実際に行動に移し、周りをハッピーにしていくおじさんに胸がキュンとする。

おじさんの言葉で一つ心に深く残ったものがある。
「おれはさ、寒さ、暑さは慣れているし、腹が減るのは我慢できる。だけども寂しさだけはいつまでもまとわりついてくることを知っている。」
これはおじさんが命の恩人だと思って信頼している施設の女性スタッフが他の施設に移動することになった時に、抱いた感情である。
おじさんはその感情の対処の仕方がわからず、施設を出てまた山に戻ろうとする。
そこまでおじさんが他人に心を開いたのはなぜなのか。

おじさんはなぜこの女性スタッフに心を開いたのか

本から読み取れたことは以下の通りだ。
ダメなことはダメだと躊躇せずに言うこと、おじさんと向き合って話を毎回真剣に聞くこと、色々な経験を共にすること、おじさんの頼みを毎回二つ返事で快く受け入れること。何かあったらすぐに駆けつけること。

どれも容易くできることではない。ライフワークバランスを考えて仕事をしている人にとっては、1週間もやりきることはできないだろう。
この女性スタッフは人と向き合う熱量が大きく、おじさんを支えたいという気持ちが強くあった。そして「迷惑をかけないように」と意識して生きてきたおじさんが買い物に行きたい時にはすぐに女性スタッフに電話してお願いできるようになったのは、ダメなところも含めて自分という存在を、そのまま受け入れてもらえるという安心感があったからではないだろうか。

おじさんの一言で伝わる異次元なワイルドさ


この本の後半に俳優のリリー・フランキーさんとの対談がある。
リリーさんが大学卒業後の極貧生活を振り返り電気も水道もガス代も払えなかったと話した時に、おじさんが返した言葉はこうだ。
「近所で穴を掘って寝る場所はなかったの?」
さらにリリーさんがバブル期にも関わらず500円の定食を喜んで食べていた横で学生が1,000円以上の豪華な定食を食べていて疎外感が凄かったと話すと、おじさんはこう返す。
「定食じゃなくて、カエルやヘビを食べてればよかったのに。」
リリーさんの苦労話に共感しようなんて気持ちはなく、純粋に生き延びるための方法としておじさんが知っていることを元に助言している。
この会話のやり取りだけでも、おじさんの純粋さとワイルドさが伝わると思う。
もしおじさんが自分の友人の一人だとして、悩み事を相談したら、おじさんの返事にきっと悩んでいることがどうでも良くなり、妙に元気がもらえそうだと思う。


人間は生きているだけで偉い。
多額の税金とめんどくさい人間関係とやるべきことに追われ、それでも一生懸命生き続けなければいけない。

だけど、信用されることに喜びを感じたり、夢を持ったり、自分と人のためにできる仕事を懸命にやりたいとあたたかな心で思えるおじさんの姿に、元気づけられ、生きることをもっと楽しんでやろうという気分になった。

読むだけで生存本能がぶち上がるこの一冊を、ぜひみなさんにも読んでもらいたい。


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