そこに謎があるから―アニメ『小市民シリーズ』2話雑感―
うちの妹はココアを飲むときに、少量のお湯にココアパウダーを溶かしてペースト状にした後、冷蔵庫から取り出した冷えた牛乳をなみなみ注ぎ、レンジでチンして飲む習慣がある。結構、昔からやっているっぽくて、私は妹の習慣を何ら気にしていなかった。
何なら今もあまり気にしていないのだが、そのひと手間をかける理由は明白なのだろう。
ようするに、それが妹にとっての「おいしいココアの作り方」だからだ。
『小市民シリーズ』2話で堂島健吾が披瀝した「おいしいココアの作り方」は、最初からカップに少量のホットミルクを入れてココアパウダーをかき混ぜたり、その後に注ぐのもホットミルクだったり、砂糖を適量加えたりと、工夫の仕方が異なるが、そこは地域差みたいなものだろう(適当)
健吾のそんなひと工夫に一旦は感心しつつも、彼の家に招かれていた主人公・小鳩常悟朗は、健吾の姉の知里の疑問に巻き込まれる形で、相方の小佐内ゆきを交えて、どうやって健吾が「おいしいココア」を淹れたのか、推理することになる。
健吾、常悟朗、ゆきの3人分のココアを淹れるのに普通に考えたら「必要なもの」が使われていない。
なにゆえ?
どうやって淹れたのだ?
ハウダニットの日常版である。
まあ、謎の核心部分はネタバレになるので置いておいて。
後は1話と同様に雑感をざっと列挙してみる。
・小佐内さんの変装姿も変装解除後も安定して可愛い
・小鳩くんの、少し間が抜けてしまったようなトイレ拝借提案(「あー。トイレ、借りるね」)がなんか可愛い
・知里さんの中の人が安済知佳さん。声のイメージも合ってるし、錦木千束(『リコリス・リコイル』の登場キャラクター=中の人が同じ)がお姉ちゃんとか健吾が羨ましいんですけど!
・健吾が「ずぼら」だと印象づけるシーンが原作以上に細かく差し挟まれている。部屋の戸を閉めたが、閉め切れずに少し隙間が空いていても気にしない、とか、ケーキのフィルムを外さず食べる、とか(丁寧にフィルムを剥がし、折り畳んでケーキの脇に添える小佐内さんとは対照的だ。余談だが、ケーキのチョコクリームが口裂け女の口紅並みに健吾の口周りにベットリ付いてたのは流石に笑ってしまった)。
・器やシンクが濡れている、あるいは濡れていないことが謎解きの焦点となる中、推理パートで唐突にイメージとして現れた「治水施設」の背景。小鳩くんと小佐内さんが連れ立って健吾の家に入る前にも、その手の施設と「川」が登場している。「液体」のココアにまつわる話に絡めてくる、流体の入れ物(ダムや川の土手などなど)たち。一か所の部屋の中での動きのない推理だけに、背景で変化をつけて退屈させない工夫はありがたい。
・謎解き後のオチとして、「おいしいココアの作り方」自体が、まんま商品パッケージの裏に載っていた作り方の受け売りだった点も面白い
まあ、ざっとこんなもので留めておく。
今回の話の要諦としては、小鳩くんが不承不承と自分に言い聞かせながらも、ウッキウキで小さな日常の謎解きに勤しんでしまうこと。
あたりさわりのない「小市民」になるために、わざわざ小佐内さんと「互恵関係」を結んで「もう知恵働きはしない」と心に決めていた彼が、案外にアッサリと、知恵働きをしてしまう。
まるで登山趣味のヒトビトが「なぜ山に登るのか」と訊かれたら、「そこに山があるから」と有名すぎる名言にかこつけて、あたかも自然の成り行きのように自己肯定して、山に登ってしまうように。
「そこに謎があるから」、「知恵働き」が得意な小鳩常悟朗は、謎解きに勤しまざるを選択しえない。
まるで宿命、あるいは習性のように。
そして、「小市民」を目指して「互恵関係」を結んでいながら、そんな小鳩くんを見て、「わたし、気にしないよ」と言ってのける小佐内さん。
原作ではそう言ってのけた後の小佐内さんの目つきを「まるで(僕を)観察するようだ」と小鳩くんは思う。
まんま、小佐内さんは観察していたのかもしれない。
相変わらずの習性を発揮する小鳩くんを、あたかも性質が単純な昆虫でも見るかのように。
いや、流石にひねくれた見方をし過ぎかな。
今回の話は、小鳩くんが今後も謎解きに勤しんでしまうのだろうなあ……という予兆と、主要人物で何かと小鳩くんの助けにもなる健吾の人となりを伝えてくれるコンパクトなエピソードだった。
次回以降も期待!
追記:姉の前でケーキのフィルムに付いたチョコクリームを嘗めとる健吾。私も高校生ぐらいまでならやってたなぁ……。にしても、いい距離感の姉弟でほっこりする。
(了)