④/⑤(3) 『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』

④/⑤(3) 中野剛志氏著『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』再読了。

構成は以下の通りです。

①グローバリゼーションの終焉

②二つのインフレーション

③よみがえったスタグフレーション

④インフレの経済学

⑤恒久戦時経済


今回は④の感想を書きます。今回はその3回目です。


④インフレの経済学


今回紹介するのは「現代貨幣理論(MMT)」です。これは、有名なので簡単に説明しますが、大前提として政府は貨幣の創造主体であるため、

「自国通貨建ての国債のデフォルトはありえない」

ことが言えます。そして、税の役割について

・望ましい社会の実現のための手段

・貨幣を国中に行き渡らせる

という役割があると言います。前者は累進税制を強化して格差を縮小したり、景気の調整弁にしたり、望ましいもの例えばクリーンエネルギーの電気使用者には減税したり、逆に望ましくないもの例えばタバコなんかには課税をしたりするなどが挙げられます。後者は、まず通貨に単位を設定し(円、ドル、ボンドなど)、その通貨での納税を命令します。すると、通貨に納税義務の解消手段としての需要が生まれるため、その国の国民がその通貨を受け取るようになる(租税貨幣論)というものです。間違った経済学では、なぜゴールドなどの貴金属と交換ができない紙幣に価値があるのかについて「お金は皆がお金をお金と思うからお金なのだ」という謎理論を展開するのですが、それに比べたら、租税貨幣論のほうが理にかなってますよね。ここまで読んで、政府の財政破綻がありえないなら無限に支出できるのかという疑問が湧きますが、それは違います。あくまで予算制約はなくても他の制約はあります。失業率、金利、物価などの実体経済の動向を見て財政支出を調整する(機能的財政論)というのがこの理論の立場です。となると、財政赤字自体がインフレを招くものではないのも分かると思います。あくまで、実際に存在する供給能力を越える分の財政赤字(財政支出)を生み出すとディマンドプル型のインフレになるわけです。金融緩和でディマンドプル型のインフレにならないのはもう説明はいらないでしょう。さて、このポスト・ケインズ派経済学は逆セーの法則を唱えます。つまり、「需要が供給を生む」ということです。たとえば、ディマンドプル型で景気が良くなっているとき、生産者側は1人あたりの生産量を増やそうとしたり、そもそもの労働者の数を増やしたり、研究開発や設備投資を進めるといったものです。まさに、需要が供給を牽引するわけです。となると、ディマンドプル型のインフレを懸念することはしなくていいわけです。繰り返しますが、需要過多のときには企業が供給能力強化に自然とリソースを割くからです(発展途上国はこれができません)。むしろ、発達した資本主義社会で懸念すべきはデフレとなります。なぜなら、発達した資本主義社会では、高い生産能力を持っているため、常に供給過剰(モノあまり)のリスクがあるからです。となると、これを解消するためには、通貨発行権のある政府が有効需要の創出を継続することが必要となります。また、コストプッシュ型のインフレも同じように政府による財政出動で供給能力を強化するしかありません。


長くなりましたが、主流派経済学とは違いポスト・ケインズ派経済学は予算制約から解き放たれて、実物資源をどう動員していくのかに焦点を当てています。この意味で、現在のコストプッシュ型のインフレへの対処法にポスト・ケインズ派経済学が貢献をなし得そうなのです。


次回は⑤恒久戦時経済について感想を書きます。ここでは、日本がどうするべきかまで書いてあります。お楽しみに。


以上

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