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撥弦楽器っていいよね①ー古楽にみられるはじく音の魅力

こんにちは。コウジです。

皆さんは、撥弦楽器(はつげんがっき)と聞いてピンとくるでしょうか?ギターや箏、ハープのような弦をはじいて音を出す楽器です。

私と撥弦楽器の最初の出会いは、高校生の頃に「弾けたらモテそうだな~」と思い買って以来漬物石にしていたクラシックギターでした。
ここ数年、自分の中で、ギターをはじめとした撥弦楽器への興味が増しつつあります。今回は自分が思う撥弦楽器の魅力について、鑑賞専門の素人の目線から語りたいと思います。


まずはおすすめの曲

現代イギリスの作曲家、デイヴィット・ブルースの「Death is a Friend of Ours」です。
イスラエルのマンドリン奏者、アヴィ・アヴィタルのアルバムからです。

マンドリン・ハープ・チェンバロ・テオルボ・ギターによる五重奏曲です。
この音色の煌きというか…リズムの生命力というか…素晴らしいです。

「弦楽器」を代表できなかった楽器たち

伝統的な「弦楽器」像

「撥弦楽器」は、弦楽器の下位分類です。弦を主にどのようにして鳴らすのか、という視点での分類です。他には弦を擦って音を出す「擦弦楽器」(ヴァイオリンなど)、叩いて音を出す「打弦楽器」(ピアノなど)があります。

ところで、みなさんが「弦楽器」という言葉に最初に出会ったのはどこでしょうか。小学校の音楽の教科書の巻末に、様々な楽器の図とその分類が書いてあるのを憶えているでしょうか。

実はこの言葉が運用され始めたのは、管弦楽法という音楽理論の一分野からのようです。

これは、簡単に言うとオーケストラの楽器をどのように扱い、どのように組み合わせると上手くいくか?という理論です。つまり、オーケストラ曲やその他器楽曲を書く作曲家のための理論です。

その中で、「木管楽器」「金管楽器」「打楽器」「弦楽器」という伝統的な楽器分類が生まれました。

このうち「弦楽器」に含まれるのは皆さんご存じの通り、ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスですね。

ところで、オーケストラの中で用いられることがあるにも関わらず、「弦楽器」という括りからは外されがちな楽器があります。

それがハープやピアノです。これらはオーケストラの中では使われないことも多いオプションのような扱いであるためかも知れません。

通常、クラシック音楽の分野で「弦楽器」というとヴァイオリン~コントラバスの楽器たちを指します。「弦楽合奏」や「弦楽四重奏」など、「弦楽」としか称していない言葉も、暗にヴァイオリン~コントラバスの意味が込められています。

つまり、伝統的な「弦楽器」像は、実際の弦楽器を網羅するものではなく、オーケストラで常に用いられる擦弦楽器群に限られているという事です。

(↓芥川也寸志「弦楽のためのトリプティーク」)

そのためでしょうか。現代においてギター(特にエレキギター)は、もはや新たな楽器の王様と言っても過言ではないほど人気ですが、これを弦楽器として意識することは少ない気がします。

バロックのオーケストラにおける撥弦楽器

ハープのようにオプションで入る撥弦楽器もありますが、バロック時代以前のオーケストラでは撥弦楽器は珍しいものではありませんでした。

次の動画は、リュリの『アルセスト』の組曲、マレの『アルシオーヌ』の組曲です。
演奏は、ル・コンセルト・デ・ナシオン、指揮はジョルディ・サヴァールです。

ギターとチェンバロの姿が見えるでしょうか。ギター奏者は曲目によってリュート(テオルボ)に持ち替えています。

これらの楽器は「通奏低音」と呼ばれる伴奏楽器たちですが、単に和音を奏でるだけではなく、時に躍動的なリズム感を、時に典雅な流れを醸し出しているのが分かるでしょうか。

↑の演奏はオーケストラのものですが、室内楽や独奏においてもリュートやチェンバロは興隆を極めました。ヘンデルのハープ協奏曲や、ヴィヴァルディのマンドリン協奏曲も有名ですね。

(↓ヴィヴァルディの協奏曲ハ長調。マンドリンやリュートの他、珍しい楽器が見られる。)

オーケストラの音量の増大と、撥弦楽器の音量問題

これらの楽器がオーケストラで常用されなくなったのはいつごろからでしょうか。それは古典派の時代からです。

モーツァルトやベートーヴェンの交響曲でも、初期のころは習慣としてチェンバロによる通奏低音が入っていましたが、その後使われなくなっていきました。

その要因として考えられる1つは音量、でしょうか。古典派の時代は徐々に演奏シーンが貴族だけのものから、市民に開かれたものへと変貌しつつありました。演奏シーンの変化から、オーケストラの編成も大規模化していきます。

その中において、撥弦楽器はどうしても音量を稼ぎにくいという弱点があります。クラシックギターなどを実際に弾いたり聴いたりすると分かるのですが、構造上、ヴァイオリン等と比べて音量を出しにくいのですね(ハープは弦の張力を上手く最大化できたので、音量を上げることに成功しました)。

ギターはその後室内楽の世界では生き残り続け、パガニーニなどが名曲を書いています。その意味ではロドリーゴの『アランフェス協奏曲』はかなり例外的かも知れません。現代において、この曲を演奏する際は大抵ギターにピックアップを仕込むかして音量バランスをとっている気がします。

https://www.youtube.com/watch?v=gWA1mL-2s10


ちなみに、ボッケリーニ(1743~1805)はギター五重奏曲をいくつか書いているのですが、この編成でも音量バランスには苦労するようです。次の動画は,
ギターにピックアップをつけて演奏しているようですが、私はかなり好きです。

ギターが音量を獲得し、大規模な会場で聴衆を沸かせることが出来るようになるまでは、エレキギターの登場まで待たねばなりません。

撥弦楽器の貴族的なイメージ

もう一つ、撥弦楽器が衰退した理由の一つとして、撥弦楽器に貴族的なイメージが根強かったため、音楽シーンが市民化する過程で淘汰されたのでは、という説を唱えてみようと思います。

そもそも撥弦楽器はヴァイオリン属のように、同じパートの人数を揃えて演奏するという習慣が殆どありませんでした。オーケストラに入る場合は通奏低音として、室内楽としては独奏楽器を支える伴奏楽器、もしくは独奏楽器として使われていました。

特に、室内楽の楽器として優秀である点は大きいと思います。例えばバロック時代のフルートは、音量が小さかったため室内楽において人気で、プロイセンのフリードリヒ2世は好んで演奏していたようです。その点オーボエは音量が大きく、野外の軍楽隊の楽器として、ヒエラルキーが低かったようです。

リュートもルネサンスの頃から、知識人や文化人の嗜みとして好まれていたようで、ガリレオ・ガリレイの父親はリュート奏者であり、ガリレイ自身も好んで演奏したそうです。この点は、日本の公家たちが、琵琶や箏を好んで演奏してきたことと共通する気がします。

ハープはフランスの宮廷において特に人気だったようで、そのイメージは、のちにベルリオーズによって利用されました。

ベルリオーズは『幻想交響曲』の第2楽章「舞踏会」にて、ハープを取り入れました。ロマン派初期において、近代管弦楽法の父ベルリオーズはハープを初めて本格的にオーケストラに取り入れました。

チェンバロは、古典派の時代に置いて徐々にピアノに取って代わられました。その理由は、ピアノはチェンバロと比べ大量生産が可能で、調律も狂いにくい、市民に普及させるのに適した楽器だったからでしょう。
ここにおいて、鍵盤楽器の響きも撥弦楽器の音から、打弦楽器の音へと変化し、結果的に撥弦楽器の響きが貴族的な、旧時代的なものとなったのではないでしょうか。

(↓ベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」。古楽器による演奏。)

なお、ギターは古典派以降も、室内楽や大衆音楽の中で、市民にも人気の楽器として生き残り続けます。しかし、楽器が大型化し、より丈夫な弦を使い、複弦から単弦へと変化するなど、バロック時代のそれとは大きな変化を遂げることになります。

それでも撥弦楽器の音は魅力的だ

しかし、やはり撥弦楽器に撥弦楽器にしかない魅力があります。

まず、はじくという動作により、音が瞬間的に立ち上がり、減衰していくという音の形に関することがあるでしょう。
これにより、ある時は打楽器的な爽やかなリズムを、ある時は消えゆく音の雅さを感じることが出来ます。ヴァイオリン属のように音が持続しないことは、声楽的な情感を出すのには不向きという主張もあると思いますが、その分、アクセントやフレージングの繊細さが際立ちます。

また、はじく楽器はその特性上、弦のテンションは比較的弱いです。その結果、ヴァイオリン属のピチカートとは違い、高周波の倍音が強調された、華やかな音になります。これがキラキラした印象をもたらします。

続きは次回

今回はここまでとします。今回は古楽を中心に、ヴァイオリン属とは異なった弦楽器、「撥弦楽器」について語りました。

次回は、近代以降の音楽における撥弦楽器、そして世界の民族音楽にも目を向け、撥弦楽器の魅力について語りたいと思います。

それではまたいつか!

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