名探偵コナン番外編 ふたりの春は
満月が浮かぶロスアンジェルスの江戸川探偵事務所。
コナンは事務室の机の前でパソコンと向き合っていた。そこには赤井秀一が持ってきたFBI未解決事件ファイルがダウンロードしてあった。夕食後家事を終えた灰原は2階の自分の部屋で眠っている。
キーボードを叩いていると、パソコン画面に人影が映った。驚いて振り向くと、そこには黒いライダースーツを着たベルモットが立っていた。
「ベルモット!」
「いい夜ね。シルバーブレット」
「どうやってセキュリティを抜けたんだ? それに赤井さんはどうした?」
「それは秘密よ。でもライのことなら心配しないで。彼にも言い含めてあるから。何も悪さをしにきたんじゃないのよ」
「じゃあ何の用だよ」
「私ね。ずっとあなたたちを観察してきたけどこんなにキュートで素敵なカップル見たことないわ。意地悪してやろうと思ってたけど毒気を抜かれちゃった」
「は?」
「ずっとこのまま見ていたかったけどそろそろ潮時よね。どんな長い物語にも必ず、エンドロールが流れる時が来るの」
「おまえの言ってること、全然わかんねえよ」
「この世の秘密よ。今までよくシェリーを守り通したわね。さ、御褒美よ。大人に戻るための魔法のキス」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「!」
ベルモットは忍者のように素早く近づくとあっけに取られるコナンの肩を引き寄せ、強引にキスをした。
「んっ……」
ベルモットは口移しでAPTX4869のカプセルをコナンの口に唾液ごと移した。カプセルを飲み込むコナン。
「くっ……ゲホッ、何すんだよ」
「大丈夫。毒じゃないから……大人に戻る魔法をかけたのよ」
「……まさか!……おまえの唾液か!?」
「ご明察。APTX4869にはね。私の唾液アミラーゼ遺伝子と結合して、アポトーシスを抑制しテロメアーゼ活性を高める作用があるの。私の遺伝子にしかない特異な因子」
「マジかよ」
「シェリーにも元の姿に戻って欲しいでしょ」
「あ、ああ」
「だったらあなた、王子さまにならなくちゃ。このカプセルをシェリーに飲ませるの。私からあなたに移した後で」
「はあ? なんでそうなるんだよ」
「だって私がシェリーとキスするところ、見たくないでしょ」
「それはまあそうだけど……」
ベルモットは胸ポケットからもう1錠カプセルを取り出すと口に含んだ。そしてコナンに口づけした。
「ん……」
「……さあシルバーブレット。そのままシェリーの元へ行って口移しでカプセルを飲ませなさい。眠れるお姫様を目覚めさせるの」
3ヶ月後。ベルモットのキスによって大人の姿に戻ったふたりは本格的に探偵業をスタートさせていた。
黒ずくめの組織「ナイトバロン」との戦いが終結し、ふたりがロスに移住してからもうすぐ一年が経とうとしていた。
江戸川コナン18歳灰原哀19歳。そんな春の一日。
コナンは事務所の机の上で熱心にパソコンと向き合っている。灰原が入力した依頼人からの情報を見ながら推理していた。
そこへ白衣を着た灰原がコーヒーカップを持って来て、机の上に置いた。すっかり相棒としての生活が板についたようだ。
「お、サンキュー」
コナンは首を動かさずにパソコン画面と向き合ったままだ。
灰原は悪戯っぽい笑みを浮かべて腕を組んでいる。
「ねえ、江戸川君」
「ん? どうした灰原」
「私ね。あなたに報告しなきゃいけないことがあるの。ちょっと聞いてくれる?」
「改まってなんだよ一体?」
コーヒーを啜りながら灰原に向き合うコナン。
「私、赤ちゃんができたみたいなの」
「はあ!? ゲホッゲホッ」コーヒーを吹き出すコナン。
「……待ってくれ。そんなのありえねえだろ」
「あら、あの夜のこと覚えてないの? 随分ね」
「は?……いやいやオレはおまえとそんなことをした覚えは……」動揺して首を振るコナン。
「なーんて嘘よ。バカね。本気にして」
「てめーっ! 言っていいことと悪いことがあるだろ」
「ふふふ。……もしかしてしてみたかった? そんなこと?」
「は? そりゃまあその……おまえが…… 」
真っ赤になって目が泳ぐコナン。
「すぐ赤くなるのね。からかいがいがあるわ」
楽しそうに笑う灰原。
突然コナンは真剣な表情で立ち上がると灰原に迫った。後ずさる灰原。壁際まで追い詰めて壁ドンするコナン。
「ちょ、ちょっと何よ」
「あんまり男を舐めんなよ」
「え?」
「なあ、いいだろ灰原。おめーがすげー好きなんだよ」
「ダメ……」
強引にキスしようと迫るコナン。赤くなって目を瞑る灰原。
「……?」
「な~んてな。今日はエイプリルフールだろ。途中で気づいたぜ」
「……バカッ」
不機嫌そうにそっぽを向く灰原。
「そんな顔すんなって。おめーがからかうからだろ」微笑むコナン。
「!」
急にコナンの唇にキスする灰原。
「んっ……」
「……男の子でしょ。ちゃんと最後までしなさい」
「お、おう……」
見つめ合うふたり。
「……ねえ、哀って言って」
「はあ?」
「いつも灰原しか言わないじゃない。たまには下の名で呼びなさいよ」
「分かったよ。……哀」
「……バカ///」
「何なんだよ一体」
「……もう一回キスして」
「ああ」
「だけどキスだけよ」
「分かったよ」
再びキスするふたり。
窓辺から春の陽光が射し込んでふたりを明るく包んだ。
ずっと暗い海の底にいた私に、手を差し伸べてくれたあなたは眩しかった。
哀しみしか知らない私に愛することを教えてくれた。
あなたは太陽。だけど私は月にもなれない。
決して満たされることのない私の心。あなたには他に好きな人がいるから……。ずっと片想いのまま終わるはずだった。そう思っていたのに……。
それなのにまさかあなたの洗濯物を畳む日が来るなんてね。あの日の私に教えたらなんて言うかしら?
あなたと初めて出逢った日が遠い昔のことのよう。
もうあなたの夢を見ることもないわね。
今は幸せ過ぎて胸が痛いわ。きっと心が幸せに馴れていないのね。
あなたと公園で見た夕陽。
あなたと食べたアイスの味。
あなたに手を引かれて歩いた浜辺。
あなたと徹夜で推理したこと。
つまらないことでケンカしたり、冗談を言ってからかったり。
そんな些細な時を重ねていけたらいいわね。
これかもずっと……ずっとふたりで……。
※名探偵コナンのパロディです。
※江戸川コナンと工藤新一は別人という設定です。
※ヘッダーは via CD「クウフク (starring VALSHE)」完全限定生産盤/名探偵コナン盤:今夜、あの街から(ビーイング)
をスクリーンショットで引用しました。
※真の狙いが未だに判然としないベルモットの動き にも注目 | Real Sound ...という画像を引用しました。
※名探偵コナン クリアファイル 工藤新一 江戸川コナン 灰原哀...の画像を引用しました。