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女っ気なしーヴァカンスは終わる

ただただ生き抜くだけの夏が終わりそうだ。
年々夏が苦手になっている。
暑すぎると、極端に感情のコントロールが下手になってしまう。
汗をかきまくったと思ったら身体の芯から冷やされたり、まったく忙しくてついて行けない。

そういえばクーラーを導入したあたりから狂い始めたんだ、と思い当たった。
下の娘が産まれたあと事情があり保育器に長いこと入ってから、ようやく退院したのが夏の盛り。
頼りない新生児を置いておくには危険を感じるくらいに日中の部屋の中は暑かった。
こりゃ無理だ、と人生で初めてクーラーを迎え入れることとなった。
それまでの三十数年、私はクーラー無しで汗をダラダラかいて、それでも夏をきちんと生きていたはずなのに、この数年の体たらくといったら情けない限りである。

そんな情けない体をようやく引きづり、夏が少し手を緩めつつある8月の終わりがけに、ギョーム・ブラック監督の 女っ気なし を見に行った。

夏が暑すぎるせいで前置きが長くなった(何でも夏のせいにすな。)

簡単なストーリーはこんな感じ。

夏の終わり。地元の青年シルヴァンが管理するアパートを、ヴァカンスに来た母娘が訪れる。明るくて奔放な母と少し内気な娘。3人は海水浴や買い物をして仲良く過ごしていたが、やがてヴァカンスの終わりが近づき、、

主人公のシルヴァンは、不器用でパッとしないし、太ってるし禿げてる。でも何だか可愛く見えてきてしまう不思議なヤツ。
自由奔放な母の方に惹かれているけど、奥手でなかなか距離を詰めれない。
でもそれが逆に安心感を生み、信用される。

ヴァカンス特有のふわふわした浮遊感がずっと漂っている。
母娘は束の間、日常を遠くに置いて過ごす。
一年のうちの限られた濃密な時間。
ヴァカンスだから浮き足だっても良いじゃない!という母親と、そんな母に少しの軽蔑や疎ましさを感じているような娘の眼差し。

でもベッドに横になった母に寄り添い抱きしめ、少し戯れ合う2人の画は何だか涙が出てきてしまうくらい美しいワンシーンだった。

ギョーム・ブラックは本当にバランス感覚が素晴らしい監督だな、と思う。
ひとつひとつのシーンの並びに緩急があり、哀愁や優しさ、ユーモアがあり、たまに理解が追いつかない不可思議さまで用意されている。

一本の映画の中に好きなシーンがたくさん存在する幸せ。

色違いのポロシャツを3枚も買ってウキウキしてるシルヴァン。
その中でも攻めた赤のポロシャツを着てクラブに行くシルヴァン。
暗がりでひとりテニスゲームするシルヴァン。
いつもクセ強なTシャツ着てるシルヴァン。

魅力的にどんどん見えてきてしまう不思議な男、シルヴァンを堪能する映画でもある。

ヴァカンスは美しく楽しい、でも終わる。
夜の暗い海をひとり見つめるシルヴァンもそのことは嫌というほど知っている。
夏という短い季節の中だからこそ眩しく光る時の重なり。

ひとりベッドで丸くなるシルヴァンも、バスに揺られて帰っていく母娘も、そこに確かに存在した人たちの残り香をそっと愛でながら、夏は、ヴァカンスは終わっていく。

見終わった後、夏が終わることを待ち望んでいたはずなのに、ほんのり寂しさを感じている自分がいた。たしか昔、汗をたくさんかきながら走り回っていた、ちゃんと夏と友達だった頃の自分の記憶の断片を思い出した。
来年の夏は生き抜くのではなく、ちゃんと夏を生きれたら良いな、、そんなことを思った映画だった。

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