【番外☕】万年草と新生ハオルくん
2024年7月2日。
彼隠れてより2年の月日が過ぎた。
1.
彼の庭より連れて来たギボウシの鉢からこぼれそうな万年草が、一輪だけ黄色い花をつけていた。
2.
彼の子ども時代の親友であったcoucouさんが、彼らと少女の物語をこの日に合わせてアップしてくださる。
これはこのちょうど1年前にcoucouさんが発表された長編を再編成して再掲した部分と、未発表の部分とから成る。
coucouさんと私は、昨年(2023年)の6月に出会った。
2023年7月2日、まだ私がnoteデビューする前に、coucouさんが発表された長編。
それは、彼とマリの物語である「知られざるアーティストの記憶」のプロローグであり、エピローグでもある作品。
coucouさん版ノンフィクションである。
私はこれを読ませていただいたとき、もうここにすべてが書かれていて、私が書く必要はないように感じた。
書き始める前から筆を折っちゃおうかと思った。
書いた人が違うのに、そしてまだ、出会ったばかりのcoucouさんに彼との物語をほとんど話していないのに、全く違う方向から同じ人を見た像がぴたりと一致するという奇跡。
coucouさんが見ていた彼は、幼稚園から中学卒業ぐらいまでの頃。
そして私が見た彼は、最晩年の1年数カ月だけ。
彼の人生の初期と最期を知る者同士の答え合わせのような問答。
二人の解釈は小さなところでは食い違っても大きくは一致する。
それもまた、アーティストである彼の一つの芸術のようだ。
食い違いという「謎」を残すのもまた芸術。
3.
私はこの日、彼とお別れした場所を辿った。
はじめにあのバナナを売る街の八百屋さんに行ってみたが、彼が愛した田辺農園のバナナはもう1年以上も前から入ってこないのだと、無沙汰を咎められるように言われ、時の流れを感じた。
そして、普段はとても足が向かぬ場所へ、2年の月日と向き合うテンションに任せて、行ってみたいと思った。
2年以上ぶりに訪れたS医院。
ご高齢の院長はまだ診察されているのだろうか。
患者さんらしき人が入っていった。なんとも言えない心持ちになった。
受付の女性の視線を感じたけれど、会って話をする気にもなれずに立ち去った。
4.
彼が旅立った病院に行った。
それは、彼の3年前に彼のお母さんが旅立ったのと同じ病院であった。
2年前と全く変わらない。何時間も過ごしたロビー。
近代化に取り残されたような小さな病院。
彼が滞在していたのは何階だったのかもう忘れたけれど、なんとなくその辺りの窓を外から眺める。
彼のご縁で1年後に出会ったcoucouさんの、職場に所縁のあるものがこの病院にすまして鎮座していた。
この日、coucouさんがコメントで私のノンフィクション作品のことを、ジョンレノンとオノヨーコの「イマジン」みたいに二人の共同作品にしてくださいという意味のエールを送ってくださった。
そうしたら、この病院の冠の看板に「イマジン」の文字が書かれていて、また驚く。
「イマジン」は隣接する同系列の介護老人保健施設の名称であった。
もちろん、由来はレノンとヨーコの歌「イマジン」からだった。
シンクロのメッセージは彼からか?
5.
彼のお墓に行った。
彼が亡くなる前、具合が悪くなる直前に、自ら広い敷地に防草シートを敷き詰め、その上を固まる土で覆う整備をした。
それからまだ2年と数カ月しか経たないのに、固まる土の縁から逞しくも雑草が生え、私の来なかった隙に私の背よりも高く太く伸びていた。
山を切り開いた墓地だから、自然に帰ろうとしているのだ。
私が来る間は許さないよ。
私は逞しい草と格闘した。
墓石にはミノムシやショウリョウバッタやテントウムシがいつもやってきては通りすぎる。暮らしているのかもしれない。
この人たちは、時々来る私が追い払うのもおかしいのでそっとしておく。
ひっきりなしに動いていたお墓の主のようなミノムシは、私が備えた彼の大好物のバナナを見つけると軸にかじりついた。
2周年の日だから?ほんとうに食べて見せてくれたのかな?
6.
槐の根元のブラックシートの穴からこんもりと群生する万年草にも、一輪だけ黄色い花がついていた。まるで交信しているよう。
7.
マリが彼のために買い、まるで二人の子どものように可愛がった多肉植物のハオルくんは、彼が臥せるようになってから、葉っぱが変な伸び方をして紫色になり、根腐れを起こして瀕死の状態となった。
壊死した葉を引っ張っても全くびくともしないため、どうしてよいか分からないまま1年以上が経過。
壊死した葉の裏側からも新しい葉が出て来ていた。
彼が旅立って2年の2024年7月2日、改めて壊死した葉を引っ張ってみると、剝がれた。
もう、新しく生きるんだね!
とりとめのない日記をお読みくださりありがとうございました。
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