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宝石と愛、そして死の舞台へようこそ 1968年松竹「黒蜥蜴」

1968年に公開された松竹映画「黒蜥蜴」は、江戸川乱歩の原作小説を三島由紀夫が戯曲化し、それを深作欣二監督が映画化した作品です。この映画は、その独特な世界観と美学的アプローチにより、日本映画史に残る傑作の一つとして評価されています。

作品概要

「黒蜥蜴」は、怪盗・黒蜥蜴と名探偵・明智小五郎の対決を軸に展開するサスペンス映画です。カラー、ワイドスクリーンで製作され、上映時間は87分です。


キャスト

  • 黒蜥蜴(緑川夫人):丸山明宏(現・美輪明宏)

  • 明智小五郎:木村功

  • 雨宮潤一:川津祐介

  • 岩瀬早苗・桜山葉子(二役):松岡きっこ


スタッフ

  • 監督:深作欣二

  • 原作戯曲:三島由紀夫

  • 脚本:成沢昌茂、深作欣二

  • 音楽:冨田勲

  • 製作:織田明

  • 撮影:堂脇博


物語の概要

世界的宝石商の岩瀬は、娘の早苗の誘拐と、高価なダイヤモンド「エジプトの星」の強奪を予告する女賊・黒蜥蜴におびえ、探偵の明智小五郎に警護を依頼します。

しかし、黒蜥蜴は巧妙な手段で早苗を誘拐し、ダイヤモンドと引き換えに解放を要求します。

明智は黒蜥蜴の正体を突き止めようと奔走しますが、彼女の美しさと知性に惹かれていきます。

一方、黒蜥蜴も早苗の美しさに魅了され、彼女を自身のコレクションに加えようとします。物語は、美と狂気、正義と犯罪の境界線を曖昧にしながら、登場人物たちの複雑な心理と欲望を描き出していきます。


丸山明宏(現・美輪明宏)の評価

丸山明宏(美輪明宏)の映画『黒蜥蜴』における演技は、非常に高く評価されています。以下にその評価のポイントをまとめます。

  • 妖艶さと美しさ: 丸山明宏の演技は、その妖艶さと美しさが特に注目されています。彼の両性具有的な美しさは、黒蜥蜴というキャラクターに非常にマッチしており、観客を魅了しました。

  • 演技力と歌唱力: 丸山明宏はこの作品でテーマソングも歌っており、その歌唱力も高く評価されています。また、彼の演技力は、黒蜥蜴という複雑なキャラクターを見事に表現しているとされています。

  • 三島由紀夫との関係: 三島由紀夫が戯曲化したこの作品で、丸山明宏の演技は三島自身からも絶賛されており、彼の美貌と演技力が高く評価されています。

  • 映画全体への影響: 丸山明宏の存在感は映画全体に大きな影響を与えており、彼のキャスティングが作品の成功に寄与したと考えられています。特に、彼の妖艶な姿勢や独特の雰囲気が映画の魅力を引き立てています。


個人的に特に印象に残っているのは、女装した美輪明宏さんが男装する場面です。

男装した美輪明宏さんは、複雑な過程を経ているせいか、いいようのない、人工的なきらめきを放つ花のような、一度見たら忘れない、空恐ろしいような美形男性に変身します。
さすがです!!


作品の特徴と考察


視覚的美学

「黒蜥蜴」の最大の特徴は、その視覚的な美しさです。深作欣二監督の演出と堂脇博の撮影により、画面の隅々まで計算された構図と色彩が施されています。

特に、黒蜥蜴の衣装や、彼女が住む屋敷の内装は、退廃的な美しさを醸し出しています。この視覚的な美しさは、単なる装飾ではなく、作品のテーマである「美」と「狂気」の融合を表現する重要な要素となっています。美しいものへの執着が、時として狂気を生み出すという主題が、視覚的にも表現されているのです。

ジェンダーの曖昧さ

黒蜥蜴役を演じる丸山明宏(現・美輪明宏)の起用は、この作品に独特の魅力を与えています。男性でありながら女性を演じる丸山の存在は、ジェンダーの境界線を曖昧にし、観客に「美」の本質について考えさせます。この曖昧さは、作品全体のテーマである「境界線の曖昧さ」(正義と犯罪、美と醜、理性と狂気)と呼応し、作品に重層的な意味を与えています。


三島由紀夫の美学

原作戯曲を手がけた三島由紀夫の美学が、この映画に色濃く反映されています。三島特有の「美」への執着と、それがもたらす破滅的な結末は、黒蜥蜴の人物像に如実に表れています。
また、三島自身が日本青年の生人形役で特別出演していることも注目に値します。これは単なるカメオ出演ではなく、作品のテーマである「生と死」「美と醜」の境界線を体現する象徴的な役割を果たしています。


サスペンスとエロティシズムの融合

「黒蜥蜴」は、サスペンス映画でありながら、強いエロティシズムを内包しています。黒蜥蜴と明智小五郎、黒蜥蜴と早苗の間に漂う性的緊張感は、物語に独特の雰囲気を与えています。このエロティシズムは、単なる官能描写ではなく、登場人物たちの内面的な欲望や葛藤を表現する手段として機能しています。特に、黒蜥蜴の早苗への執着は、同性愛的な要素を含んでおり、当時の日本映画としては大胆な表現となっています。


音楽の効果

冨田勲による音楽は、作品の雰囲気を効果的に演出しています。エレクトロニック・サウンドを取り入れた先進的な音楽は、黒蜥蜴の神秘的かつ前衛的なイメージを強調し、視覚と聴覚の両面から観客を作品世界に引き込みます。


時代背景と評価

1968年という製作年は、日本の高度経済成長期の最中であり、社会が大きく変化していた時期です。この作品は、そうした時代の空気を反映しつつ、伝統的な価値観に挑戦する側面を持っています。特に、ジェンダーの曖昧さや同性愛的要素の描写は、当時の日本社会では斬新なものでした。これは、変化する社会の中で、新たな価値観や表現の可能性を模索する試みとも解釈できます。

「黒蜥蜴」は、公開当時から現在に至るまで、高い評価を受けています。

特に、その視覚的な美しさと、丸山明宏の演技は高く評価されています。一方で、物語の展開が複雑で理解しづらい、あるいは過度に様式化されているという批判も存在します。


あと、個人的には仕方ないことだとは思うのですが、60年近く前の作品ですので、本拠地のセットが結構チープで学園祭のよう。

人間のはく製が、ぐらぐらと動くところもご愛嬌か・・・
でも天知茂版の「江戸川乱歩の美女シリーズ」も結構チープ感は否めなかったので、これは江戸川乱歩作品の味として受け止めました。(笑)

深作欣二監督は三島由紀夫さんの戯曲どおりに撮る狙いがあったようで、先程は学園祭のようなチープ感と言いましたが、良く言えば舞台劇のようで、それでいて派手で、でも華やかな虚構のような・・・

これらの要素も含めて、この作品の独自性を形作っているという見方もあります。


結論

1968年の松竹映画「黒蜥蜴」は、視覚的な美しさ、複雑な物語構造、そして挑戦的なテーマ設定により、日本映画史に残る重要な作品となっています。江戸川乱歩の原作、三島由紀夫の戯曲、深作欣二の演出が融合することで、独自の世界観を持つ作品が生まれました。

この作品は、単なるサスペンス映画を超えて、美学的な探求や社会的な問いかけを含む、多層的な解釈が可能な作品となっています。「美」への執着が生み出す狂気、ジェンダーの曖昧さ、正義と犯罪の境界線など、現代においても重要なテーマを提示しています。

美輪さんはやはり華やかで、でも影があり、妖艶であり、でも恐ろしくて・・。
やはり黒蜥蜴は美輪明宏さんに決まりです!


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