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ブレグジット賛成派のイギリス人に話を聞いてみた

ちょうど先日イギリスで総選挙が実施されたので、そこからの連想でブレグジットについてイギリス人から聞いた話を書いてみる。

ブレグジットは、この10年弱の間に起こった歴史的な一連の出来事。僕がドイツで生活している間に、ブレグジットが決定され、実行に向けて欧州を挙げて準備が進められ、そして現実に離脱が実行された。

これらは最初から最後まで、文字どおり「歴史」といえる大きな動きだったわけで、僕はドイツにいながらイギリスの動きを見ていたし、実際に何人かのイギリス人から話を聞く機会があった。

今回の記事に書く会話は、2018年冬の当時のこと。ブレグジットが決まった後、実際に離脱に向けてEUとイギリスが交渉を行っていた時期だった。

ブレグジットに至る経緯

まずはEU離脱について語る前段として、そもそもどうしてEUが発足したのかを整理してみる。その設立の背景となる大きな流れについて、僕の理解は以下のとおり。

まず、時は今から100年ほど遡り、20世紀前半。欧州で大半の国同士が対立した結果、二つの世界大戦が起きてしまい、世界中に未曾有の被害と悲劇がもたらされた。

その反省を踏まえて、欧州の多くの人々は、利害や損得勘定はさておいて「みんな団結した方が、結果的に最後はみんな幸せになる」と考えた。つまり「団結することに価値がある」という大義を達成するために、統合が進んでいったと僕は思っている。

その際、統合に制度的な矛盾とかがあることは重々承知のこと。状況の違う多くの主権国家が同じルールを共有したり、同じ通貨を使用するなんて、それなりの無理と弊害があるなんてことは自明だった。けれど、それらの問題は、大義の前には目をつむる小さなことだと考えた。

こうして20世紀後半に、西欧がソ連と対峙する中で団結するという文脈も帯びながら、欧州は一貫して団結の方向へ進み、EUが発足した。

そうやってEUとしてまとまってきた欧州世界。しかし2016年6月のイギリスでの国民投票の結果、イギリスはEUを離脱することになった。

そこまで至るきっかけは色々とあった。たとえば、移民・難民問題。ユーロ危機によるEU各国間の混乱。ナショナリズムの高揚などなど。

僕として大きな原因だと思っているのは、世界の中でアメリカや欧州の経済的な地位が相対的に低下し続けて、「人々の無意識の心の余裕」がなくなってきた点が大きいと思っている。リベラルで寛容な立場を取れるのは、あくまでも人々の心に余裕がある時だけ。自分にとって「痛み」を伴う事態が危惧されると、人は寛容さを失い、パイの奪い合いモードに移行する。これはイギリス人に限ったことではなく、人間の真実だと思う。

いろんな要因があったにせよ、戦後ずっと団結の方向へ歯車が回ってきた流れから、その歯車の勢いが止まって、初めて統合の歴史が逆回転したベクトルの転換だったのかもしれない。

ブレグジットが決まって

さて、そんなブレグジットが決まった後のこと。イギリスがEUとの離脱交渉で大変苦労することになった。イギリスは主に離脱までの時間的な制約から交渉で弱い立場に立たされて、翻弄されていた。そんな状況を考えると、イギリス人、特に社会的地位の高い人たちの多くは、「やっぱり離脱すべきではなかった」と反対の立場にいるだろうと勝手に想像していた。

そんな中、2018年の冬にそれなりに立派な社会的地位にいる60才を少し越えたイギリス人と一緒に仕事をしていて、その機会にかなり長い時間にわたって雑談する機会があったので、EU離脱についてどう思っているのか聞いてみた。

すると、僕にとってはかなり意外な回答。つまり離脱に「大賛成」という答えが返ってきた。


「イギリスはいまブレグジットで大変苦労していますよね。個人的にどのような意見をお持ちか、伺ってもいいでしょうか?」

イギリス人男性
「ええ、まずはEUの基本理念からおさらいしましょうか。欧州の各国が手を結んで、平和と繁栄を手に入れよう、という趣旨ですね。その理念は良いのですが、現実のEUを見てごらんなさい。ドイツがすっかりEUの主人みたいになっているでしょう。どうしてこのような状況になったのか。その理由はハッキリしています」

彼は僕がドイツで働いていることは知っているけれど、あくまで僕は日本人なので、ドイツに対する表現には遠慮がない。

イギリス人男性
「原因は通貨と経済にあります。どのような意味かと言うと、通常の経済体制であれば、ある国の輸出競争力が高くて貿易で儲けていると、その国の通貨価値(=為替レート)が上がりますよね。貨幣のレートはそのような原理で変動します。為替レートが上がると、その国は輸出してもコストに対して売上が目減りする。つまり、輸出競争力が落ちて、輸出が儲からなくなる。すると通貨価値が下がる。そうやって自然に為替レートが調整されていき、輸出競争力が一定レベル内に落ち着いていくのが経済の原則ですよね」

これは高校生の頃に学ぶ内容かな。こうやって、いわゆる「神の見えざる手」が機能して、貨幣価値も国力も落ち着くところへ落ち着いていく。

イギリス人男性
「そのような経済の法則があるにも関わらず、EUは統一通貨のユーロを導入しました。それによって、たとえドイツが輸出でどれだけ儲けても、一方で通貨はユーロ圏全体で評価されるから通貨価値が上がらない。それによってドイツが際限なく輸出で儲けています。つまりEUでいま起こっていることは、そのメカニズムによってドイツが経済的に一人勝ちを続けて、その強い経済を背景にドイツがEUで予算を出すことによって、政治でも抜きんでた発言権を持つようになった」

彼が主張している「ドイツの経済が強い一番大きな理由は、統一通貨ユーロによって輸出競争力が落ちないから」というのは、そのまま僕の持論でもあるので、僕の見方と一致していた。

イギリス人男性
「EUを人間の体に例えると、ドイツが心臓の役割です。まず血液(お金)を体全体(EU全体)へポンプのように送って、それが巡り巡ってまた心臓であるドイツに戻ってくる構図です。そうやって、ドイツがEUを支配下に置くようになりました」

言葉の端々から僕が改めて感じたのは、ドイツがまた欧州で強い力を持つことへの警戒感。過去二回の世界大戦は、いずれもドイツが欧州で力を持ったことによってエスカレートさせた経緯があるから。

ちなみに、この警戒感があるため、日系企業がいくらドイツ市場を重視していたとしても、必ずしも欧州地域の中の本社機能をドイツに置くわけではない。欧州の中であまりドイツに肩入れしすぎると、欧州の他の国が拒否反応を示すので、バランス感覚が求められる欧州での立ち位置がおかしくなってしまう。だから日系企業は、欧州本社をイギリスやベルギーなど必ずしも市場が最大ではない別の国に置いて、バランスを取っているケースもある。

イギリス人男性
「このように、現実のEUというシステムは、意図していたか否かに関わらず、少なくとも現在はドイツが主役になるために存在しています。このシステムは、明らかに何かがおかしい。何かおかしいものからは、身を引いて離れるのが一番です。だからイギリスはEUから離脱するのが正しいと思っています」

興味深かったのが、彼の「おかしいものからは、身を離して距離を取る」というロジック。さすが島国のイギリスらしいなあ、実際にそれがやりやすいから、と思った。ちなみに日本も島国なので、このイギリス人の思考回路と同じものを感じることがある。

話を戻すと、彼の「おかしいものからは、身を離して距離を取る」というスタンスに対して、僕からは「じゃあ、欧州のあるべき姿はどんなものだと思います?」という問い掛けと議論を続けたが、明確な方向性は得られなかった。

・・・こんな感じで、長かった彼との議論は終わった。

整理すると、イギリスのEU離脱が起こった背景は、移民・難民に対する警戒感といったよく取り上げられる問題だけが影響しているわけではなく、あまり大きくは取り上げられないものの、過去から脈々と続いているドイツへの警戒感も底流で影響しているのかも、という気づきが僕には印象的だった。

まとめ

前述のとおり、ブレグジットは「ドイツに対する警戒感」が影響している面もありそうということに気づいた。けれど、必ずしもそのキャッチーな構図で終わりにしない方が良いように思う。

僕が感じるのは、欧州ではそもそも普遍的に、飛び抜けた力を持って覇権を握る国があること自体が喜ばれないのではないだろうか。

欧州では、似たような人口で、似たような国力の国々がひしめき合う。さらに小さな国々もたくさんある。これらの国々は、文化や価値観の点で共通する部分もありつつ、一方でかなり異なる面も持っている。簡単に言えば、多様性を地で行くような地域。

そうやって昔から、欧州の国々は「和して同せず」と「結局バラバラやん」の中間くらいで微妙なバランスを保ってきたと思っている。

これからも欧州では、ドイツだろうがどの国だろうが覇権を握って君臨するような特定の国を生むことなく、みんなで時にけん制しながら、時に協力しながら、対話と妥協を繰り返しながらバランスを探り合って、最後まで明確な勝者も敗者も出さないような地域であり続けることが、みんなにとって幸せなのかも、と思わされた話だった。

そういう意味でブレグジットとは、欧州の人たちなりのバランスの取り方をダイナミックに見せてくれた、ということなのかもしれない。

by 世界の人に聞いてみた

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