君は OFFICE CUE を知っているか ~ケーキ~
私が小学生の頃、母がでかくて深い蓋のついたフライパンみたいな鍋を買ってきた。そのフライパンでカステラを焼くというのだ。オーブンレンジがまだ普及していない今から50年以上も前に、家でカステラが焼けるなんて、そりゃすごいことだ。
ワクワクしながら待っていた私と妹のまえに置かれたそれは、カステラという見た目ではなかった。まず丸い。カステラと言えば長方形という概念は捨て去りなさいと言わんばかりに半球型。そりゃそうだ、丸いフライパンで焼いたんだものな。
しかも、ふわふわなところなんてどこにもなく、固くてなまら甘い卵焼き。しかも中心は焼けてなくてどろどろだった。
まずいとは言えなくて、黙々と一切れを食べ続けた私と妹。残したカステラは捨てられた。その後、母がカステラを焼くことはなかった。
そんな思い出を払拭したかったからなのか、母親になった私はよくケーキを焼いた。夫と私と5人の子どもたちの誕生日、バレンタインデー、クリスマス、なんでもない日にも作っていた。
もちろん手作りのものを食べさせたいという思いはあったけど、7人で食べるケーキをイベントの度に買っていたら、それはもう大変な出費というのが一番の理由。
バースデイケーキのイチゴが高くて買えないときはバナナだったり、缶詰のフルーツだったりもした。クリスマスにはガトーショコラやチーズケーキ、バレンタインにはブラウニーを子どもたちと作った。
どんなに忙しくてもケーキだけは作った。
今、我が家のオーブンはめったに稼働しない。年に一度、実家暮らしの三男の誕生日に小さなチョコレートケーキを焼くくらいだ。子どもたちが独り立ちして、バースデイケーキを焼く必要がなくなったということのほかに、作らなくなった理由がもう一つ。
長女がパティシエールになったからだ。
彼女は働きながら夜間の製菓学校に行き、有名パティシエのお店、製菓工場の様なところでも働き、2018年7月に自分のお店をオープンした。
シュークリームとガトーショコラ、チーズケーキ、そして旬のフルーツを使ったケーキが3,4種類と焼き菓子が並んでいるかわいいお店だ。
ラインナップに我が家の定番ケーキを入れてくれている。もちろん私が作っていたものとは比べようがないくらいおいしい。
推し活の度に買って帰えるから、私はもうケーキは作らなくていいのだ。
小さな店舗だが地域に愛され、おかげさまでとても繁盛している。
オープン当初、起動に乗るまで一人で何もかもやっていくということで、少しの間私が手伝いに行っていた。
1ヶ月ほどたったころ、カフェスペースにいらした若い女性のお二人から漏れ聞こえた会話に、思わず振り返った。
「ヤッパリ タクチャンガ イチバンヤサシイヨネ」
タクチャン? たくちゃん? 琢ちゃん?!
それはもしかして、チームナックスの末っ子 音尾琢真のことですか??
そうか そうだった ジャンボリーだ。CUE DOREAM JAM-BOREEだ。北海きたえーるに君たちは行ってきたんだね。なんて羨ましい。
まって、ジャンボリー開催中ってことは、この札幌の空の下に彼らが集結しちゃってるってこと?
ああもう 偶然にもこんなに近くにいられて なんてしあわせ。
頭の中が妄想モードに突入し、仕事にならなかったことが忘れられない。
それまで子育てだとか仕事だとかを言い訳にして、ファンクラブに入会することに二の足を踏んでいた。性格上、入ったが最後全精力を捧げてしまうのは目に見えていたからさ。
入会を決意するのはもう少し後のこと。
したっけ