君は OFFICE CUE を知っているか ~ 唯一無二の愛のカタチ~
短い期間だけど、水道メーターの検針員をやっていたことがある。
水道のメーターというのは一軒に一つ、必ずついている。たとえ空き家であっても建物が建っている限りメーターはあって、漏水などの故障はないか確認しなければならない。一軒一軒、水道量と料金のお知らせを投函する。
一日で二万歩くらい歩く。
メーターが玄関近くにあるならすぐに投函できるが、家の裏側にあるときは面倒だ。家と家の間を、壁にへばりつきながら進む。夏はクモの巣、冬は屋根からの雪、足元の氷が行く手を阻む。
これから家を建てようとしている皆さん、水道はもちろん電気ガスなどのメーターは、なるべく玄関に近いところに設置していただけると、検針員は助かります。
初秋の頃、黙々と作業をこなし歩いていた日のこと。
新築のおしゃれなマンションの一室にお知らせを投函しようとしたら、
20代前半くらいのかわいい女性がでてきた。
彼女は、私に全く気づかず
「じゃあね またね」
と、部屋の中に向かってちょっとあざとく手を振っていた。
ドアの陰に立っていた私に驚いた彼女の声で、その部屋の住人らしき爽やか系の男性が出てきた。
お知らせを手渡すと、受け取ったそれを一瞥もせず彼は、彼女の顔を覗き込むようにして
「大丈夫?」
「またね、またおいでね」 と、まるで懇願するかのように言っていた。
彼女はちょっと恥ずかしそうに
「うん、うん、またね」
って。
この世界には君たち二人しかいないのかい?
それとも、視野がものすごっ狭くなっちゃったんだべか?
透明人間の気持ちがよく分かった数秒間。
この恋が実りますようにと願いながら、マンションの階段を上った。
同じ日、昭和の匂いがする二軒長屋の検針の時。
そこの表札は二つとも男性の名前、まったく違う他人の表記なのに郵便受けは一つで、そこに二枚のお知らせを投函することになっていた。
いつものようにお知らせを入れようとしたときに、急に玄関から私と同年代くらいの男性が出ていらした。
落ち着いた濃いえんじ色のシャツに、きちんと折り目のついたパンツ。髪をきれいに整えていて、手にはラップをかけたお皿を持っていた。
いい感じのお店のカウンターの向こうにいる、無口なバーテンダーみたいだった。
驚いて一歩引いた私にその方は
「あら?水道?ありがと。ご苦労様。」
おぉっと
ものすごっネイティブな女性語。いわゆるオネエ言葉。
こんな間近できいたのは、すすきののスナックで「けむりちゃんママ」に会ったとき以来だ。
動揺を抑えて、お知らせを渡して次の家に向かう私の背後で
「しょうちゃん、チラシ寿司もってきたわよ」
と、あの方の声がした。
LGBTQという言葉を、日本人はほぼ誰も知らなかった頃から、隠れるようにして育んできたのかもしれない愛がそこにあった。(妄想気味?)
二つの愛のカタチを垣間見て、なんだか心がほんわかした。
そして、その時、不意に脳裏に浮かんできたこと。
シノさんは元気にしているだろうか。
成瀬と仲良くやっているだろうか。
それは、私が崇め奉る ドラマ
ナックスのハンサム担当シゲちゃんがでるからって観始めたそのドラマが、私の生き方を変えた。
初回から 戸次重幸 演ずる 四宮要 に、ドはまりする。
そこから、
シゲってこんな切ない顔したっけ?
こんなにきれいな顔してたっけ?
と なり、
洋ちゃん目当てで取りためてた「おにぎりあたためますか」を観返す。
「ハナタレナックス」を観返す。
そして彼が 自分が好きなことはみんな好きだと信じてる46歳(当時)。何でも一番にやるけど大抵残念なことになる46歳。みかけはおっさん、中身は中学生いや小学生。就学前かもしれん46歳児。
でも なんだかカッコ良い。
いや すごく かわいい。
いつでも洋ちゃんの隣にいたのに、なして気づかなかったんだ。
あれ?あれ?
やばい やばい
これはまっしぐらだ。
まるでずっと仲良しだった幼馴染が 球技大会のバレーボールでビシバシ
スパイクを決めてるのを、たまたま見かけて、
「あれ?あいつってあんなにカッコ良かったっけ?」
なんて思っちゃって、なまら意識し始めるひと昔前の少女マンガじゃないか。
まて まてって。そっちに行くんでないっ自分。
やばいやばいってぇぇぇ
はい
沼に両足。
ファンクラブ入会決定。
ということで、戸次重幸にいきなりズボっとはまり、未だ底が見えていないまま現在に至っている。
しかも、それだけでは飽き足らず、OFFICE CUE の全てを推しまくることになっていく話は また今度。
したっけ
追記
どこかの国のステレオタイプな首相秘書官にも、愛する人はいるのだろうか。守りたい人はいるのだろうか。
ひとりひとり、それぞれの愛のカタチがあることを、そしてそれは唯一無二の愛であることを、素直に受け入れられる人に私はなりたい。
日本の未来が おっさんずラブ in the sky のような優しい世界になるように願ってやまない。