スオミ・ラングーン
今日も明日も雨が続きそう。
こんなときは、
少し気が早いけれど、夏らしい気分になれるうつわを手に取りたくなります。
料理の仕事で使う器には
個人的な好みを極力おさえているせいもあり、
持っているものもプレーンなタイプが半分以上なのですが、
数は少ないものの、
大好きでたいせつにしているものがいくつかあります。
和食器の方が多いのですが、
これは洋食器。
スオミ・ラングーン。
ドイツの食器ブランド、
ローゼンタールの現代的ラインのひとつです。
伝統的なクラシックラインを大切にする一方で、
現代的なスタジオラインを設け、
自国の特徴を過度に主張することなく
たとえば金と白磁の組み合わせでオペラの魔笛をイメージしたり、
ダリなど斬新なアーティストとのコラボレーションを数多く創り出し、
まるで化学反応を楽しむような自由さを感じます。
ローゼンタールならではの
柔軟で革新的なバリエーションが新鮮です。
スオミとは、フィンランドのこと。
これは北欧風のデザインを狙ったもので、
絵柄のないスオミ・ホワイトは
小石をイメージしたと言う、柔らかな曲線。
パリのポンピドーセンターでも
永久コレクションとして出品されているそう。
ラングーンは元ビルマ、ミャンマーの都市で、
今のヤンゴンのことですね。
アウン・サン・スー・チーさんを長いこと軟禁し続け、クーデターが起きて今もなお政情不安定な国、と言うイメージがあります。
ラングーンというと、
北朝鮮による、全斗換(字、あってるかな?)暗殺未遂のラングーン事件で連想される方もいらっしゃるでしょうか。
スオミ・ホワイトの機能的なフォルムの上に描かれた
なんともはかなげな、
涙でにじんだようにも見える色味の
一輪の胡蝶蘭の花とのミスマッチがなぜか新鮮で、
でも絵の雰囲気は、どこか懐かしいのです。
子供の頃、お菓子の包装紙やパッケージなど、暮らしの中のあちこちで目にし馴染み深かった、
東郷青児さんの画作とどこか通底する気がしています。
作風もタッチも違うのだけれど、
この独特の色合いのせいなのかもしれません。
これが丸皿だったら、こんなに魅力を感じないかもしれませんし
また、スオミ・ホワイトなら、手元にほしいとは思わないし、
北欧風だから好き、ということでもなくて。
不思議ですね。
質感やデザインに、
色や形、さらに絵付けとの相性も含め
さまざまなステキが出会って、
1+1=2以上の新たな個性が生まれ
うつわの魅力は無限に拡がってゆくんでしょう。
きっと、そこにたまらなく惹かれるのだと思います。
夏の備前も好き、
鍋で名高い土楽窯の器も、
朝鮮唐津も
ポルトガルの軟陶も大好き。
九谷青窯の使いやすさも
小石原焼の温かさも
業務用なのに美しいアピルコの器も…。
もう長いこと、
うつわたちのそんな輝きの
とりこになっているようです。
スオミ・ラングーンのこの皿に
メジナという魚のタルタルを盛ってみました。
グレとも言う、青黒い魚。ほんとの旬は寒い頃。
でも身はとても磯の魚らしい味わいがあって、
歯ごたえもおいしい、好きな魚です。
ちょっとオリエンタルなタルタルは、この皿に合いそうかな、と。
料理を選ばない皿だけれど
夏に、とくに活躍してくれる皿ではないかと勝手に解釈して使っています。
たえず革新的な試みを続けるスタジオラインらしく、
残念ながらこのラインはもう廃盤で
在庫を残すのみ、なのですが。
見ていても、使ってもやっぱり好きです。
ひとつもなくならないうちに少しずつ買い足せたら、なんて思っています。
自分の手でうつわを創り上げる才能はないと思うので、
うつわが活きる料理作り、
素材が喜ぶようなうつわ選びに
微力を振り絞りつつ、向き合っていけたら。
からだを大事にしつつ、できれば永くがんばりたいな。