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参加型リサーチで共創するソーシャルイノベーション - LINEヤフーコミュニケーションズ社の事例

福岡大学商学部シチズンサイエンス研究センター センター長の森田です。
私のゼミナールでは、シチズンサイエンスを中心的なテーマとして活動しています。リサーチという行為を多様な人々が担い、好奇心を醸成できる文化創造を目指しています。様々な立場の人々が参加し、新たな価値を創出する活動を通じてなされる知識生産の新しい形を模索しています。

ゼミでは商学部の特性を活かし、ビジネスと密接に関連する参加型リサーチの可能性に注目しています。そこで学生が主体となり、企業に対して取材を行い、日本語と英語で事例を発信する取り組みを始めました。
今回は、LINEヤフーコミュニケーションズにご協力をいただきました。それでは以下が学生による事例レポートです。

はじめに

福岡大学商学部の森田泰暢ゼミナールでは、市民参加型調査を活用する企業の事例について調査をしています。シチズンサイエンスなど市民の参加型調査には、新たな発見や参加者の好奇心の涵養、地域の課題解決に繋がることはもちろん、地域内に新たな社会関係や学習環境を生みだすことにもつながるなど様々な社会的意義があります。しかし市民参加型での調査には、スムーズな参加体験をいかに作るか、継続的にその調査を実施できるかなど課題もあります。それらを解決するヒントは民間の企業による同様の取り組みにあるのではないかと考えています。
また市民参加型調査の事例は、アジアから海外への発信が少ないことも課題とされています。日本語での国内共有に加えて、英語版の記事も作成をし、海外へ発信していきます。意義深い事例を福岡から世界へ共有したいです。

今回はその第一弾として、LINEヤフーコミュニケーションズ様にご協力をいただき、福岡市内で実施されている社会貢献性の高い市民参加型調査の取り組みを紹介いたします。

LINEヤフーコミュニケーションズ株式会社はLINEヤフーが展開するサービスの運営やカスタマーサポート、クリエイティブ、事業企画などを行っています。「WOW」なライフプラットフォームを創り、日常に「!」を届ける。ことをミッションとして掲げ、日々の業務において、「ユーザーが求めているのか」「ユーザーがより便利になるのか」を考えています。

そんな LINEヤフーコミュニケーションズ株式会社は市民による参加型調査を使って企業やコミュニティの課題解決を行っています。その事例を3つご紹介します。

①LINE×福岡市役所「道路公園等通報機能」(2019年)

福岡市LINE公式アカウントの友だちは190万人に上り、防災・ごみ・子育て等、さまざまな情報を得ることができます。便利な機能が口コミで広がり、主に30~40代の主婦が多く利用しています。そのアカウントを活用した「道路公園等通報機能」を紹介します。

【市の課題】道路や公園、公共施設の損傷について、福岡市は電話での通報を市民から受けていたが、電話では正確な損傷場所や損傷の程度が分かりづらいという課題がありました。

【施策】それを解決すべく生まれたのが「道路公園等通報機能」(2019年~)です。市民が道路やガードレール、公園の遊具など街の損傷を福岡市公式アカウントから通報するシステムです。市民は損傷が見られる公共物を発見したら、LINEにその写真を撮影し、位置情報と併せて送信します。市民による損傷の参加型リサーチです。

【結果】月100以上通報が寄せられ、優先順位の高いものから順次修繕できるようになり、自治体の負荷が下がりました。

【効果】このシステムのおかげで、LINEで送られてくる位置情報や写真から、正確な損傷場所や損傷の程度が的確に把握できるようになり、修繕の優先順位を決めやすくなったそうです。「LINEでこんなこともできるんだ!」という、思わず人に言いたくなるWOWな体験を作っています。

②LINE×Fukuoka Smart City Community「防災選」(2022年)

Fukuoka Smart City Community は、市民や企業、自治体、学校など、みんながまちづくりに関わる場や機会をつくるために、日々多くの市民と接する企業が集まる多様なコミュニティです。複雑化するまちのニーズに丁寧に向き合い、課題を解決したり、可能性を広げたりすることを目指して施策の実施を進めています。そのコミュニティを通じて取り組まれた「防災選」について紹介をします。

【社会的な課題】日本は近年地震や台風などの自然災害が増加しており、人々の防災意識が年々高くなっています。様々な場面での防災対策が求められていますが、どのようにアクションに繋げるかは課題であるとされていました。

【施策】それに伴い、市民の参加を促すべく「防災選」(2022年)という取り組みが行われました。市民に「ペット防災」「会話で防災」「グルメ防災」「宝もの防災」「帰るまで防災」「一人暮らし防災」「観光防災」「子ども防災」「家選び防災」の9つの防災テーマを提示し、気になるものを投票してもらいます。駅や空港、SNSなど40以上の媒体で「防災選」を告知し、選ばれたテーマについての防災対策をコミュニティ内の各企業の視点から発信するという内容です。

【結果】投票総数は約11,000票あり、1位はペット防災で1,864票でした(2位は会話で防災、3位は「子ども防災」)。グッデイや東急ハンズなどの企業各社は、ペット防災コーナーを作り、宣伝を実施。また、コミュニティ参加の各社のLINEの公式アカウントからは防災対策の発信に繋げていきました。

【効果】「防災候補」というかたちで課題を紹介することで、市民が防災について考え、話し合い、防災対策をするきっかけを提供しました。また、企業各社の知名度や好感度が上がることにも繋がっています。
この防災選の調査主体はコミュニティで、有識者は助言するという構造です。市民は投票という形で参加し、そのリサーチ結果をコミュニティ自身が分析、考察したうえで実践に繋げた参加型リサーチだと言えます。
福岡の企業は、「地域のためなら」という意識が強いです。ビジネスとして儲からないとしても、よりよい街をつくるために行動する、熱い人が多いそうで、企業同士の繋がりが強くみられ、共同事業を行う事例も多いです。

③LINE×チャリチャリ「おねがいチャリチャリ!“あったらいいなポート”大募集」(2023年)

チャリチャリは福岡で生まれたシェアサイクルサービスです。坂が少なく、街全体がコンパクトである福岡市はチャリチャリのビジネスモデルにマッチしていました。現在は、名古屋市、東京都、熊本市と順調に展開しており、ユーザーと一緒に便利な街の移動をつくっています。そんなチャリチャリの抱える課題を参加型リサーチの形で解決したのが「おねがいチャリチャリ!“あったらいいなポート”大募集」です。

【チャリチャリの課題】顧客満足度を上げるため、福岡市の駐輪ポートを増やす必要がありました。一方で、どの地域のどの場所にポートを作るかを判断するのは非常に困難でした。

【施策】そこで「おねがいチャリチャリ!“あったらいいなポート”大募集」(2023年)が企画されました。シェアサイクルの駐輪ポート新設に、LINEで集めたリクエストを生かすユーザー参加型の取り組みです。 ChariChariのユーザーが、シェアリングサイクルのポートを設置してもらいたい場所の位置情報を送信します。その後、サービスの運営企業へその情報が提供され、ユーザーの設置希望場所のデータが蓄積されるというものです。ユーザーによるポートのリサーチ結果をチャリチャリが活用します。

【結果】約1年間で5,700件のリクエストが届き、それらリクエストの中から27カ所の新規ポートの設置に繋がりました。

【効果】チャリチャリのポート新設の営業効率化が図られ、ユーザーも自分たちのアクションを通じて暮らしやすい地域を作っていきました。参加者へのインセンティブは「自分が便利になる」「チャリチャリのクーポンを得られる」「一定の期間にリクエストしたユーザーに対してサプライズでクーポンが配布される」の3点でした。
適当なリクエストなどのノイズは無視できるレベルで、参加者の動機は自分の生活を便利にするためという純粋なものだそうです。福岡市での先行導入の結果を受け、リクエスト可能エリアを全国に拡大したプロジェクトが2024年4月19日からスタートしています。

おわりに

LINEヤフーコミュニケーションズ株式会社は、市民参加型の取り組みを通じて市民と共に社会課題を解決し、単なるサービス提供を超えて「共創」を実現しています。企業としての知名度や好感度向上を目的とするのではなく、市民の生活を便利で豊かなものにすることを本質に据え、日常に「!」をもたらす体験を生み出しています。取材を通じ、この姿勢が、企業と市民の信頼関係を築き、暮らしに密着した価値を創出し、地域社会全体の発展につながる重要な一歩となっていると強く感じられました。

(事例のポイントをまとめたスライドは↓です。)

以上でレポートを終わります。お読みいただきありがとうございました。

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