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脚本|『モンスターカフェ』

<紹介文>
物語の序盤を読んだChatGPTの感想の一部を掲載します。
序盤の感想なのでモンスターのことに触れてませんが、本編のつづきにも興味を持っていただけたら嬉しいです。
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「モンスターカフェ」は、物語が秋葉原の小さなお店で展開される作品です。主人公の千尋は、お店の経営に悩む父親と共に暮らしています。千尋は大学に進学したいと思っており、そのためにお金が必要です。千尋はメイド喫茶でアルバイトをしながら勉強に励んでいます。
ーー中略。
この作品は、家族の絆や夢に向かって頑張る姿を描いています。千尋の父親は健康上の問題で苦しんでおり、それに対する千尋の思いやりとサポートが感じられます。また、千尋が自分の夢に向かって努力する姿勢も素晴らしいです。
物語の舞台となる秋葉原やメイド喫茶の描写も興味深く、特にメイド喫茶でのダンスシーンや客との交流が活気に満ちている様子が伝わってきます。
全体として、「モンスターカフェ」は家族の絆や夢の追求をテーマに、明るく元気な雰囲気で展開される作品です。千尋の成長や彼女の周りの人々との交流を通じて、読者は勇気と希望を感じることができるでしょう。
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ーーChatGPT





ここから本編がはじまります

『モンスターカフェ』

読み切りドラマシナリオ

作:元樹伸


■登場人物
 小島千尋 執事喫茶の経営者
 道草撫子 執事喫茶の執事
 皆月潤男 遊園地の従業員
堀越栄一郎 遊園地の園長
 阿漕黒太 阿漕産業の社長
 小島右京 千尋の父
  アスラ 遊園地の従業員
 フランク 遊園地の従業員
 灰三喜男 阿漕産業の社員
  島優子 阿漕産業の社員
井上よもぎ 執事喫茶の執事
テレビのレポーター


◇Aパート

illustrated by Image Creator

○華丸やしき・全景
   タイトル『1995年』。
   昭和の香りがする小さな遊園地。客でにぎわっている。

○同・コーヒーカップ・中
   コーヒーカップに乗っている小島千尋(8才)と右京(48才)。
右京「千尋は回るのが好きか?」
千尋「大好き!」
   楽しそうにカップをグルグルと回す千尋。
   小島はビビッてカップの縁にしがみつく。

○同・モンスターハウス・概観
   古臭い洋風のお化け屋敷。客が待ち遠しそうに並んでいる。

○同・前
   近くのベンチでぐったりしている小島。
   モンスターハウスの壁には、満月に吠える狼男の姿が描かれている。
   そんな怪物の絵を見て顔をしかめる千尋。
右京「千尋は怖いの嫌いか」
千尋「怖くないよ。あんなの子ども騙しだもん」
右京「そうかそうか」
   微笑む小島。
千尋「何が可笑しいの? いいから行こうよ」
   と右京の腕を掴んでメリーゴーランドを指さす。
右京「頼むから一休みさせてくれよ」
千尋「じゃあアイス食べたい」
右京「わかった。アイス食べたらお友達に挨拶しに行こう」
千尋「お父さんの?」
右京「うん、親友なんだ」
   コーヒーカップのアトラクションを見つめる右京。

○同・事務所内
   マッドサイエンティスト姿の堀越栄一郎(60才)が姿を現す。
   怯えて右京の後ろに隠れる千尋。
堀越「おお、来てたんか」
右京「ご無沙汰してます」
堀越「千尋ちゃん、大きくなったなぁ」
千尋「あなたなんか知りませんけど……」
堀越「前に会った時は、まだ這い這いしてたからなぁ」
右京「千尋、この遊園地の園長さんだよ」
堀越「マッドサイエンティストであ~る」
   と千尋を威嚇する。
千尋「こ、怖くなんかないんだから!」
堀越「(右京に)モンスターハウスには行ったのか?」
右京「いいや。千尋が苦手でな」
千尋「怖いんじゃないよ? ただ興味がないだけ!」
   笑う小島と堀越。ムッとする千尋。

○同・モンスターハウス前
   しゃがみこんでいる千尋。
千尋「やっぱりお父さんが一人で行ってきなよ!」
右京「堀越さんがお前をみんなに紹介したいんだってさ」
千尋「(怯えて)みんなって?」
右京「(からかって)やっぱり怖いか?」
千尋「怖くないもん!」
   立ち上がって一人で列にならぼうとする千尋。

○同・中
   右京の後ろに隠れながら半べそ状態の千尋。
千尋「やっぱりつまんない。帰ろうよ!」
潤男「ガオー!」
   奥から出てきて千尋たちを脅かす狼男姿の潤男(18才)。
千尋「もうヤダ! 帰る~!」
   そこに駆けつけるアスラ(23才)とフランク(34才)。
   アスラは吸血鬼、フランクは人造人間の姿をしている。
フランク「潤男。小島さんのお嬢さんは脅かすなって言われただろう」
潤男「は? 脅かすのが俺達の仕事だろうが!」
アスラ「千尋ちゃん、怖くないですよ~」
   いないいないばぁをするアスラの口から牙が光る。
   それを見て泣き出す千尋。
アスラ「私のせい? これって全部、私のせいよね?」
潤男「アホくさ。今から休憩に入りまーす」
   と立ち去る潤男。
千尋「もう来ない! 一生来ない~!」
アスラ「ああどうしましょう、私のせいで!」
   オロオロするアスラ。泣き続ける千尋。

●タイトルテロップ『モンスターカフェ』

○秋葉原・全景
   タイトル『2003年』。

○小島部品店・全景
   路地にある小さなお店。細かい部品ばかりが並んでいる。
   店の前を素通りする通行人たち。みんな携帯電話に夢中。
   帰ってくる高校生の千尋(16才)。

○同・居間・中
   右京(56才)、阿漕黒太(54才)、灰三喜男(28才)がいる。
右京「いくら言われても、店は譲らん」
   帰ってくる制服姿の千尋。灰と目が合う。
灰「お帰り。君もお父さんを説得してくれないかな?」
右京「娘は関係ないだろ」
灰「でも来年受験でしょ。大学、お金いるでしょ?」
右京「何で知ってるんだ?」
灰「見ればわかる。(千尋に)高校三年生だろ?」
千尋「はい……」
右京「お前らには関係ない。帰れ」
   葉巻を床に吐き捨てる阿漕。
阿漕「まあ、また来ますわ」
灰「(千尋に)受験、頑張ってね」
   出ていく灰と阿漕。
   舌打ちして床の葉巻をもみ消す右京。
右京「本当にしつこい連中だ」
千尋「どうするの?」
右京「何がだ?」
千尋「私、やっぱり大学に行きたいんだけど」
右京「だからお金のことは心配するなと何度言えば……」
   千尋は右京の言葉をさえぎって、
千尋「今どき機械の部品だけじゃ無理なんだよ。山田さん家だって部品屋やめて、ゲームソフト売ってんじゃん」
右京「千尋、わかったような口を利くな」
千尋「父さん、時代は待ってくれないよ?」
右京「うるさい!」
   家の中に消える右京。仏壇には母親の遺影。
千尋「母さんもそう思うよね?」
   と手を合わせる。

○同・外(夜)
   出てくる千尋。灰が待っている。
灰「やあ千尋ちゃん」
千尋「お呼び立てしてすみません」
灰「千尋ちゃんのためならいつだって駆けつけますよ。でも本当に説得できんの?」
千尋「説得できれば、あの金額で買ってくれるんですよね」
灰「これにサインすればね」
   と灰は千尋に不動産売却の契約書をちらつかせる。

○同・中(夜)
   契約書を破る右京。
千尋「何すんのよ!」
右京「自分のしている事がかわってるのか!」
千尋「こんな店、もう時代遅れなんだから!」
   破った契約書を千尋に投げつける右京。
右京「ふざけるな!」
千尋「お父さんのバカ!」
右京「この店はな、母さんと二人で……うっ!」
   胸をおさえて倒れる右京。

○秋葉原・メイド喫茶・中
   メイドとして舞台立っている千尋。
   沢山の客が千尋に声援を送っている。
   客に混じって声援を送っているメイド姿の道草撫子(15才)。
撫子「先輩カワイイ~! 最高~!」
客「ねぇ撫子ちゃん。さっき注文したメイプルパフェ、まだかな?」
撫子「うるさい。お前も先輩を応援しろ!」
客「はい……」
   千尋は客に愛想を振りまいて踊り続ける。

○同・事務所内
   メイド姿で受験勉強している千尋。そこに撫子が来る。
撫子「先輩、カレー食べに行きません?」
千尋「ゴメン。そろそろ病院に行かなきゃ」
撫子「お勉強ですか?」
千尋「来年受験だから」
   突然、千尋の手を握る撫子。
千尋「え……なに?」
撫子「手伝える事があったら、何でも言って下さいね!」
千尋「ありがと。じゃあまずはお客様に対する態度を改めようね」
撫子「はい! でもとりあえずは応援のダンス!」
   踊り出す撫子。苦笑してから、ため息をつく千尋。

○大学病院・病室・中(夕)
   点滴を受けている右京。看護師に一礼する千尋。
右京「またコスプレのバイトか」
千尋「まあね。店番よりもお金になるから」
右京「……あの店は売る事にしたよ」
千尋「(驚いて)本気?」
右京「ああ。この体じゃどうにもならん」
   看護師を押しのけて入ってくる灰。右京に契約書を突きつける。
灰「小島さん。こちら確認をお願いします」
   契約書を手に取って目を通す千尋。
千尋「何これ?」
灰「契約書だよ」
千尋「じゃなくて金額のことです」
灰「お父さんがその金額でオッケーしたんだ」
千尋「でも話が違うじゃないですか」
灰「人を嘘吐き呼ばわりする気かい?」
千尋「だってそうでしょ?」
   千尋から契約書を奪う灰。
灰「大人の世界じゃ、この紙切れとサインがなきゃ約束は成立しないんだ」
   バカ笑いして出て行く灰。
千尋「お父さん。本当にあんな金額で売っちゃう気なの?」
   千尋に通帳を渡す小島。
右京「だがこれで借金は返せる。あとはお前自身のために使え」
千尋「何言ってんの? 入院費だってまだかかるし……」
右京「くれぐれも……葬式は質素にな」
千尋「バカ言ってないで、今は身体の事だけ考えなよ」
右京「千尋、ごめんな……」
   目を閉じる小島。
千尋「お父さん?」
   心電図が急変する。
看護師「先生、来てください!」
   看護師が慌てて廊下に出て行く。
千尋「お父さん!?」
   千尋の手から通帳が落ちる。

○火葬場・中
   喪服姿で歯を食いしばる千尋。
   堀越(68才)もいる。
堀越「こんな年寄りだが、できる限り力になるから」
千尋「……ありがとうございます」
堀越「これから、どうする?」
千尋「受験して、大学に進みます」
   通帳を握り締める千尋。

◇Bパート

illustrated by Image Creator

○華丸やしき・全景
   タイトル『2007年』。
   以前と比べて閑散とした園内。客は殆ど見当たらない。

○同・事務所・外
   堀越(73才)と阿漕(59才)、灰(33才)が出てくる。
阿漕「それじゃ、よろしくどうぞ」
   堀越の肩に手を置く灰。
灰「ここはアキバ顔負けのメイドバーに変身しますよ」
   バカ笑いして立ち去る灰と阿漕。すぐに塩を撒く堀越。
   潤男が堀越に駆け寄ってくる。
   狼男姿じゃない潤男はかなりの美少年である。
潤男「売っちまう気か?」
堀越「何だよ、いきなり」
潤男「みんな言ってんぞ。アンタが遊園地を手放す気だって」
堀越「まだ決めたワケじゃない」
潤男「俺もみんなも反対だからな」
堀越「ならどうする? 見ろ、この有様を!」
   そこには客のいない遊園地。
潤男「モンスターハウスがなくなったら俺達、どうすりゃいいんだよ?」
堀越「ワシが何とかするさ」
潤男「他に俺達の居場所なんかない」
堀越「わかってくれ、このままじゃ潰れるだけだ」
潤男「知るか!」
   走り去る潤男。堀越は塩を床に叩きつける。

○秋葉原・全景

○同・電気屋・前
   テレビ画面に『女子大生カリスマ経営者を直撃』とテロップが出て紹介される千尋(21才)。
潤男「見つけたぜ……」
テレビ画面を見つめる潤男が、丸めた雑誌を握り締める。

○執事喫茶カノン・入口前
   ドアに『本日、臨時休業』の貼り紙。

○同・廊下
   撫子(19才)と執事役の女の子達が、店の奥を覗いている。

○同・オーナールーム・中
   テレビ局のクルーが来ている。千尋とレポーターもいる。
テレビレポーター「たった一年でこちらの執事喫茶を秋葉原の名物にした経営手腕。とても現役の女子大生とは思えません。成功の秘訣は何だと思いますか?」
千尋「思い立ったらすぐ行動。時代は待ってくれませんから」
   とカメラ目線で満面の笑みを向ける。

○同・廊下
   千尋の様子を見ている撫子たち。
撫子「出た。千尋先輩の決め台詞!」
   と叫んで他のスタッフに「シーッ」と注意される。

○同・オーナールーム・中
   レポーターと千尋。
テレビレポーター「最近秋葉原に進出してきたメイドバーでは、お酒なども置いていて人気があるみたいですが、それについてはどう思われますか?」
   眉間にシワを寄せる千尋。しかしすぐに作り笑顔になって、
千尋「あんなの眼中にないですね!」
テレビレポーター「強気ですね。さすがカリスマ女子大生ってカンジです。それでは最後に、未来の経営者を目指す若者たちにひと言お願いします」
   カメラに向かって指を差す千尋。
千尋「レッツビギン! 時代は待ってくれないから!」
   千尋と一緒のポーズをとるレポーター。
テレビレポーター「では引き続き、カノンの人気ナンバーワン執事、撫子さんをご紹介しましょう」
   カメラにピースしながら出てくる撫子。

○同・入口前
   潤男が中に入っていく。

○同・店内
   千尋と執事の女の子たちがカメラマンに写真を撮られている。
   そこに来る潤男。
潤男「頼もう!」
   唖然とする一同。
千尋「お客様すみません、今日はお休みを……」
   千尋を見るなり抱きしめる潤男。
   女の子達から黄色い悲鳴。
撫子「おいこら、やめろ変態!」
   千尋から潤男を引き剥がす撫子。
千尋「ちょ、ちょっと何なんですか!」
潤男「ホントに大きくなったな!」
千尋「だ、誰です?」
潤男「忘れたのか? 俺だよ俺!」
千尋「詐欺?」
潤男「そうじゃない。あんたに頼みがあってきたんだ」
   持っている雑誌を広げる潤男。そこには『カリスマ経営者 小島千尋』の記事が掲載されている。

○同・オーナー室・中
   千尋と潤男がいる。しぶしぶ潤男にお茶を出す撫子。
千尋「狼男?」
潤男「そりゃ覚えてないか。十年以上も前だもんな。ガオー!」
千尋「たしかに昔、あのお化け屋敷に入った事はあるけど」
潤男「それより、頼まれてくれるか」
千尋「はい?」
潤男「言ったろ? このままじゃ華丸やしきは潰れちまう」
千尋「急にそんな事いわれても」
潤男「カリスマ経営者なんだろ?」
千尋「堀越さんにはすごくお世話になりました。でもお力になれるか……」
潤男「この恩知らず!」
千尋「それに十年前ってあなた、まだ小学生くらいですよね? それで狼男の役をしていたって、ちょっとオカシクないですか?」
潤男「小学生じゃねぇよ! 俺たちはだな……まあいいや、とにかく」
   撫子がふたたびドアから顔を出す。
撫子「あの、またお客様ですけど」
千尋「というワケなので、お帰り下さい」
潤男「クソ、このままじゃ阿漕の野郎に遊園地が乗っ取られちまう」
千尋「阿漕?」
潤男「阿漕産業。ムカつく連中だよ」
千尋「……ムカつくどころじゃないわよ」
   そこに入ってくる堀越。
堀越「(潤男に)お前、やっぱりココに」
千尋「堀越さん?」
堀越「お嬢さん、悪かったね。すぐ連れて帰りますから。行くぞ」
潤男「へッ、言われなくても」
   一人で出て行く潤男。

○同・廊下
   出てきた潤男と対峙する撫子。
潤男「何で男の格好してんだ?」
撫子「あんただってお化けしてんでしょ?」
   舌打ちして立ち去る潤男。
   潤男の背中に舌を出す撫子。

○同・オーナー室・中
   千尋と堀越がいる。
千尋「おひさしぶりです。父の時は色々とお世話になりました」
堀越「こんな無様な再会はしたくなかった」
千尋「経営が苦しいんですか?」
堀越「心配ないよ」
千尋「あの……」
堀越「ん?」
千尋「阿漕産業が絡んでるんですか?」
堀越「君は気にせんでいい。じゃ元気で」
   立ち去る堀越。
   入れ違いで入ってくる撫子。
撫子「何だったんです? 今の人たち」
千尋「阿漕の犠牲者よ」
   窓から外を見下ろす千尋。
   トボトボと歩く堀越の姿が見える。

○華丸やしき・園内
   千尋と撫子がやってくる。
撫子「ここ、本当に都内ですか?」
千尋「昔と全然かわってないわね」
   と千尋は少しうれしそう。
撫子「あの、デートをするならもっと楽しい場所が……」
   言い終わる前に歩き出す千尋。

○同・事務所内
   阿漕、灰、堀越がいる。
   テーブルには契約書がある。
阿漕「堀越さん。今サイン頂ければ、決して悪い話じゃないと思いますよ」
堀越「それはわかってる……」
阿漕「失礼ながら、決断するなら今かと」
灰「だってこのままじゃ借金返せないでしょ?」
堀越「調べたのか?」
灰「この前は売るって言ったでしょ?」
堀越「しかし、皆の賛同が得られないと」
灰「口約束でも約束でしょ? 今さらごねられてもねぇ」
千尋の声「あんたが言うな」
   勢いよくドアが開いて千尋が入って来る。
千尋「大人の世界じゃサインがなきゃ、約束した事にはならないんですよね?」
阿漕「誰だ?」
灰「これはこれは……(耳うちで)例の女子大生経営者です」
   聞いてニヤリとする阿漕。
阿漕「一度お会いしたかったんですよ。実はウチも秋葉原に店舗を展開してましてね」
千尋「あの下品なバーですか?」
   笑う阿漕。
阿漕「テレビ、拝見しましたよ」
千尋「(阿漕を無視して)堀越さん、この遊園地を売る必要なんかありません」
阿漕・灰・堀越「?」
千尋「私は一人の資産家として、華丸やしきに投資させて頂きます」
灰「あ?」
   契約書を掴んで破る千尋。
千尋「こんなはした金で買えるほどここは安くないわ」
灰「おいおい、いったいどういうツモリだ?」
   千尋に詰め寄る灰を制して立ち上がる阿漕。
阿漕「何故、こんな潰れかけの遊園地を?」
千尋「そっちが覚えてなくても、私はあんたを一瞬たりとも忘れた事がない」
阿漕「昔、ウチの店で働いてたとか?」
千尋「その店がある場所にはね……五年前までウチの部品屋があったのよ!」
   と千尋は阿漕を睨みつける。
灰「……そうか。あんたはあの部品屋の娘か!」
   阿漕に耳打ちする灰。
阿漕「なるほど……わかりました」
   葉巻を床に落として踏みにじる阿漕。
阿漕「これはつまり、宣戦布告だな」
   千尋から敗れた契約書を受け取り、ライターで火をつける阿漕。
阿漕「面白い。受けて立ちますよ」
   そのまま出て行く阿漕と灰。
   膝から砕けて壁に寄りかかる千尋。
千尋「ヒザがガクガクしてる……」
堀越「お嬢ちゃん、なんて事を……」
千尋「堀越さん。恩返しさせて下さい」
堀越「しかしウチの借金はかなり膨大で……」
   笑顔で親指を立てる千尋。
千尋「大丈夫です。だって私、カリスマ経営者ですから!」
   灰皿の上で燃え尽きる契約書。そこに来る撫子。
撫子「先輩、園内を見てきました」
   頷く千尋。
千尋「で、どうだった?」
撫子「全てのアトラクションが昭和の名残りってカンジですね。それはそれで味だと思うけど、掴みがないっていうか……」
堀越「ヤケに遠慮がないが、この人は誰だい?」
千尋「彼女は私の右腕です」
撫子「そして超人気執事です。ヨロ!」
千尋「堀越さん、厳しい言い方ですが……ここは今のまま経営を続けている限り、近い将来には潰れてしまいます。だから再建が必要だと思います」
堀越「まあ、たしかに……」
撫子「あとね。一つだけ入ってみないとわかんないのがあって」
千尋「何?」
撫子「じゃあ先輩も是非ご一緒に。現場視察へ、レッツビギン!」
   張り切る撫子にとりあえずついていく千尋。

○同・モンスターハウス前
   千尋を引っ張ってくる撫子。
撫子「ここです、ココ!」
   唖然とする千尋。
千尋「一人で見てきなよ。私はここで待ってるから」
撫子「こういうのは、カップルの方が楽しいに決まってんじゃないですか!」
千尋「まぁ……彼氏とのデートならね」
   とシラを切る千尋。
撫子「フ~ン。怖いんだ?」
千尋「こ、怖くなんかないもん!」
撫子「千尋先輩の弱点、はっけ~ん!」
千尋「怖くないって言ってんでしょ! ほら、さっさと行くわよ!」
   ズカズカと中に入っていく千尋。

○同・中
   暗闇の中、順路を進む千尋と撫子。千尋は撫子の後ろに隠れている。
   暗闇に満月のライトが光っている。
   奥にいる狼姿の潤男が千尋に気づく。
潤男「何しにきやがった!」
   千尋たちに襲いかかる潤男。
悲鳴を上げる千尋。逃げようとして躓いて倒れる。
撫子「フ~ン。結構リアルじゃん」
   一方の撫子は冷静。微動だにしない。
潤男「ガオーー!」
   そのまま千尋に馬乗りになって千尋の顔にかじりつく潤男。
千尋「イヤ~」
撫子「てめえ! いい加減にしろ!」
   潤男に蹴りを入れる撫子。横に吹っ飛ぶ潤男。
潤男「ひでえな!」
撫子「それはコッチの台詞よ!」
   と千尋を抱き起こす撫子。
潤男「ったく、あま噛みだっての」
   駆けつけるアスラ。
アスラ「すみません、本当にすみません!」
   その後ろからはフランク。
フランク「潤男、すぐに謝るんだ」
潤男「何でだよ! コイツはなぁ!」
フランク「謝れ!」
潤男「(舌打ちして)……悪かったよ」
撫子「魂こもってねぇんだよ」
潤男「あぁ?」
アスラ「私が代わりに謝ります。本当にごめんなさい」
撫子「フン。ここも子ども騙しね」
潤男「何だと?」
フランク「潤男!」
   撫子の袖を引っ張る千尋。
千尋「怖いよ~。早く出ようよ~」
撫子「先輩……カワイイ」
   千尋を抱きしめる撫子。

○同・事務所内
   憔悴した千尋、堀越、撫子、フランク、アスラがいる。
   フランクとアスラはジャージ姿。
潤男「本当に悪かったって。助けてくれるって知らなかったんだ」
   お茶を啜って深呼吸する千尋。
堀越「でも君のかわってない所が見られて、ちょっとホッとしたよ」
   ブラインドを下ろすフランク。恐縮する地味な眼鏡っ子のアスラ。
撫子「何で閉めんの?」
アスラ「すみません。私、肌が弱くて」
   撫子、仏頂面で座っている潤男にむかって、
撫子「お面つけない方が女の子にウケるんじゃない?」
潤男「あれはお面じゃねぇ」
撫子「なら何よ?」
潤男「関係ねぇだろ?」
千尋「あの……ところで他のスタッフは?」
堀越「みんな辞めてもらった」
撫子「じゃあ何でお化けばっか残ってんの?」
   と潤男を睨む撫子。舌を出す潤男。
堀越「集まって貰ったのは他でもない。お嬢さんに本当の事を知ってもらうためだ」
アスラ「それって……」
堀越「彼女には大金を投資して貰うことになった。それにお嬢さんは……信用できる」
潤男「(撫子をさして)この女は違うぞ」
千尋「撫子は信用できます」
   潤男に舌を出す撫子。潤男も負けじと応戦する。
   蛍光灯が消えて丸ライトが点灯する。丸い明かりを見た潤男がうめき出し、ライトに照らし出された彼のシルエットが狼男に変貌していく。
撫子「ヤバ……」
堀越「見てのとおり、潤男は本物の狼男じゃ」
   今度はフランクが厚い鉄板を腕の力で曲げている。
撫子「ヤバ……パート2」
堀越「そしてフランクは、ワシが造り出した人造人間じゃ」
撫子「あの、先輩のお知り合いって……」
   すでに気絶している千尋。

   × × ×

   電気がついている室内。人間に戻っている潤男。
   千尋の額に濡れタオルをのせるアスラ。
アスラ「怖がらせてしまってホントにすみませんでした」
潤男「だからさ、それがオレらの仕事だろ?」 
千尋「でもこれは大きな売りになるわ」
   ガバッと起き上がる千尋。
千尋「遊園地再建の打開策が見えました!」
撫子「さすが先輩、立ち直りはやっ」
堀越「で、その打開策とは?」
千尋「お客さんを呼び込むのに、看板となるアトラクションを新しく作ります。その名もモンスターカフェ! これは大人気、間違いなしですよ!」
   深く頷いている撫子。とにかく拍手するアスラ。
   顔を見合わせる堀越とフランク。眉をひそめている潤男。

○秋葉原・歩行者天国
   執事の女の子達が広告チラシを配っている。
   広告には『華丸やしきにモンスターカフェ登場!』と書いてある。

○華丸やしき・全景
   花火が上がっている。
   新装開店している華丸やしき。客も次々と入場している。

○同・モンスターハウス・前
   モンスターハウスは休館中。

○同・モンスタカフェ・前
   ダークながらオシャレなカフェ。
   すぐ横には、遊具のコーヒーカップ。
   続々と客が来店している。
千尋「コーヒーカップの横にカフェ。これよね!」
   満足そうな千尋の横を横切る美女、島優子(32才)。
   横目で千尋を見て「フンッ」と鼻を鳴らす。

○同・中
   客でいっぱいの店内。優子の姿もある。
   アスラ、フランク、潤男がウエイター姿で接客している。
   メニューには『血の池ジュース』などの怪しげな名前が並んでいる。

○同・カウンター内
   得意顔の千尋に声をかける撫子。
撫子「アキバで宣材配ったの正解でしたね」
千尋「後はマスコミが勝手に盛り上げてくれる。阿漕のバーなんかクソくらえよ」
   そこに来る潤男。
潤男「おい、何で俺だけ人間の格好なんだ」
撫子「(けんか腰で)その方が女の子にウケるからだよ!」
千尋「それに満月がなきゃ変身してられないでしょ」
   そこにアスラとフランクが来る。
フランク「そろそろ時間です」
千尋「メインイベントの始まりよ」
アスラ「き、緊張します……」
撫子「ほら、お望みの変身タイムよ。頑張ってね」
潤男「けっ!」
   フランクにヒョイと抱えられ、連れて行かれる潤男。

○同・ステージ
   客が注目する中、妖艶なバンパイアの衣装で登場するアスラ。
   歓声があがり、客の視線にもじもじするアスラ。
アスラ「そ、そんなに見ないで下さい……」
   男性客の目を釘付けにした後、逃げるように舞台脇に去るアスラ。
千尋「そういえば彼女もモンスター……なのよね?」
   続いてフランクが潤男を乗せた大きい板を持ち上げて登場する。
   仏頂面の潤男、ジッとしている。
   舞台袖で「やれ! やれ!」と声をかけている千尋。
潤男「くそ……」
   ダラダラと板の上でバック転や逆立ちを始める潤男。
   女性達から歓声があがる。
   ホッと胸をなでおろす千尋。
優子「ふふ、美味しそう……」
   と舌なめずりする優子。
   ライトが消えて、満月のライトを浴びた潤男が狼男に変身する。
   大歓声の中、ショーは終了する。
   舞台袖で満面の笑みを浮かべる千尋。

○同・控え室・中
   ダラダラと戻ってくる潤男、アスラ、フランク。
千尋「お疲れ~。よかったよ~」
アスラ「(泣きながら)泣きたいです……」
フランク「俺、ホントに板持ち上げてるだけでいいんですか?」
潤男「これじゃあ、完全にピエロじゃねぇか!」
千尋「何が気に入らないのよ」
潤男「何もかもだ! こんなのモンスターハウスじゃねぇ!」
千尋「はぁ?」
潤男「俺はモンスターハウスが好きなんだ! 俺たちは客を怖がらせるのが仕事だろ? それが誇りだったんだ!」
千尋「時代は絶えず変わっているのよ。変化についていけない者から脱落する、それが現実でしょ?」
潤男「みんなはこれでいいのかよ?」
   フランクの様子を見るアスラ。
フランク「でも贅沢は言えないかと……」
アスラ「すごく恥ずかしいけど、今は仕方ないです……」
潤男「何だよ、みんなまで」
千尋「なら阿漕に買収されてもいいの?」
アスラ「イヤです」
フランク「潤男、今はガマンだ」
潤男「俺は納得いかねぇ」
千尋「投資したんだから、ちゃんと機能してもらわなきゃ困るわ」
少年「機能って何だよ? 俺たちゃ機械じゃねぇ!」
千尋「そういう意味で言ったんじゃない。ただ私はあなた達を阿漕から守ろうと!」
潤男「お前もあいつらとかわんねぇ。こんなことなら、買収されていた方がかえってスッキリしたかもな」
千尋「ちょっと、それが恩人に対する言葉?」
潤男「何が恩人だ。復讐したかっただけだろ? 要は敵討ちじゃねぇか!」
   舌打ちして出て行く潤男。
千尋「職場で舌打ちすんな!」
アスラ「ごめんなさい、ごめんなさい……」
フランク「急に環境が変わって動揺してるんです。勘弁してやってください」
アスラ「それにこの衣装気に入りました。布が少ないけどすごく可愛いと思うし」
   と大胆な衣装を指さす。
千尋「ごめん、それはたしかにやり過ぎた。すぐに発注し直しますから」
   憮然として部屋を出て行く千尋。
アスラ「あ、あの、そういう意味で言ったんじゃ……」
   しょぼんとするフランクとアスラ。

◇Cパート

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○秋葉原・部品街
   路地をぶらついている千尋と撫子。
千尋「今日で何人目?」
撫子「もう六人目です」
千尋「何で辞めちゃったんだろ?」
撫子「みんな理由を教えてくれないんです」
   店の部品を吟味している千尋。
千尋「最近は品揃え悪いよね」
撫子「そうなんですか?」
   と商品の部品を適当につまみあげる。

○秋葉原・カノン・通用口(夜)
   店から出てくる井上よもぎ(16才)。
よもぎ「お疲れさまでした~」
   そこに来る優子。
優子「井上よもぎさん?」
よもぎ「なに?」
優子「ウチの店で働かない?」
よもぎ「突然なんですか?」
優子「ギャラは三倍出すわ」
よもぎ「結構です。私、ここ好きだし」
優子「じゃあこれでも?」
   一枚の写真を見せる優子。唖然とするよもぎ。

○秋葉原・高級車の中
   運転しているのは優子。助手席には灰。後部座席には阿漕がいる。
阿漕「進捗は?」
優子「すでに店の半数は吸収しました」
灰「誰でも叩けば、ホコリの一つは出る」
優子「今日は大物を釣りに行きます」
灰「いけるだろうな?」
優子「ホコリは出ませんでしたが投資しますので」
阿漕「何だかんだ言っても世の中、金だな」
灰「小娘がウチに楯突こうなんて十万年早いんだ」
   と葉巻をぷかぷかさせる。

○執事喫茶カノン・店内
   客と一緒に写真に写る執事の撫子。
   脇には客待ちの列が出来ている。
   客として撫子を見つめている優子。

○喫茶店・中
   優子と仏頂面の撫子がいる。
   封筒を出す優子。
優子「契約金よ」
   封筒を開く撫子。中には札束が入っている。
優子「ギャラは今の十倍出すわ」
   笑みがこぼれる撫子。
撫子「スゴイ……」
   満面の笑みを浮かべる優子。
優子「どう?」
   封筒をテーブルに投げる撫子。
撫子「オカゲで謎が解けました」
優子「?」
   水を優子にぶっ掛ける撫子。
撫子「これが返答。満足?」
   そのまま立ち去る撫子。
優子「クソガキが!」
   鬼の形相の優子。

○執事喫茶カノン・更衣室内
   よもぎが身支度している。
撫子「ねえ、何でやめんの?」
よもぎ「撫子さんには関係ないです」
撫子「金でしょ?」
よもぎ「千尋さんによろしく伝えて下さい」
撫子「やだピョン」
   トボトボと出て行くよもぎ。

○メイドバーWティッシュ・概観(夜)
   元々は千尋の父親の店があった場所。
   今は派手で下品なメイドバーになっている。
   入口の前に千尋と撫子がいる。
撫子「先輩のお店があった場所ですね」
千尋「(寂し気に)お父さんのお店があった場所よ」
撫子「あの……やめときますか?」
千尋「みんなが気になる。行かなきゃ」
撫子「金に目がくらんで辞めた連中ですよ? もうどうでもいいじゃないですか」
千尋「撫子、みんな仲間だよ」
   店に入っていく千尋。
撫子「もう! でもそんな先輩が好き」
   後を追う撫子。

○同・店内(夜)
   仮面をしたメイドが店員をしている。
   床は鏡張り。スカートの丈はかなり短い。
   いたる所で女の子を撮影している客。
   壁には『写真撮影自由』と書いてある。
   入ってくる千尋と撫子。
千尋「みんなこんな場所で働いてるの?」
撫子「お金の魔力ですね」
千尋「阿漕の外道が……」
   泥酔客が鏡の床を使って千尋のスカートの中を撮影する。
千尋「な……何してんのよ!」
   その直後に撫子が「てめぇ!」と言って客の股間を蹴る。
   客が悲鳴を上げて、優子がやってくる。
泥酔客「この店は……どうなっているん……だ」
優子「申し訳ございません、お客さま! お詫びに特別ルームにご案内しますので」
泥酔客「あ……そ? 悪いね」
   水着姿の店員に奥の個室へと連れていかれる泥酔客。満足そう。
優子「千尋、敵城視察とは見上げた根性ね」
千尋「っていうか、あなた誰?」
   突然、奥で悲鳴があがる。千尋たちが見ると、客の一人がよもぎの仮面を剥ぎ取って写真を撮っている。
   他の客たちも次々と撮り始めて、しゃがんで泣き出すよもぎ。
千尋「よもぎちゃん!」
   身をていして、よもぎをかばう千尋。
よもぎ「もう帰りたいよ~」
千尋「彼女を返してもらいます」
優子「このお店を選んだのは彼女よ?」
   そこに仮面をつけたメイドの女の子達が集まってくる。
仮面メイドA「よもぎを帰してあげて」
仮面メイドB「お願いします」
千尋「あなたたち……」
   客たちがざわざわし始める。憮然とする優子。
優子「ふんっ。今日のギャラはみんなカットよ!」
   頷く仮面メイドたち。よもぎに肩を貸す千尋。

○ファミレス・中(夜)
   千尋とよもぎがいる。
よもぎ「みんな弱みを握られてます」
   と写真を出して千尋たちに見せる。
よもぎ「これを両親に見せるって脅されて」
   写真を見る千尋。
よもぎ「元彼が売ったんだと思います」
千尋「そいつと別れて正解よ」
よもぎ「でも私……その写真ばらまかれてもいいからカノンに戻りたい」
千尋「阿漕……あの外道め……」
   と写真を破り捨てる。

○華丸やしき・事務所内(朝)
   千尋が入ってくる。
千尋「どうしたの?」
堀越「潤男がいなくなったんだ」
フランク「昨日、だいぶ機嫌悪かったから」
アスラ「もう戻ってこないかも……」
千尋「三十分で開園よ。準備して」
アスラ「でも潤男は?」
千尋「今日は出番なしで。でも私が連れ戻します。誰か心当たりないの?」
アスラ「嫌な事があるとよく二丁目のビルに。あの子高いとこ好きだから」
千尋「行ってみる」
   事務所を出ていく千尋。

○同・モンスターハウス前(朝)
   事務所から出てくる千尋。
   ちょうどどの前で親子連れが話している。
子ども「モンスターハウス入りたい!」
父親「でも、やってないみたいだよ」
子ども「ヤダ! 入る!」
   泣いてダダをこねる子ども。
千尋「何よ、私のせいだっての?」
   ひとりごちながら走り出す千尋。

○二丁目第三ビル・屋上
   街を見下ろしている潤男。
潤男「こんななっちまったのも、元々はあいつのせいだ」
   太陽に向かって吠える潤男。

○同・前
   千尋がおでこの汗をぬぐっている。
千尋「くそ、こんなことで半日も潰しちゃったじゃない」
   そのとき、潤男の鳴き声が聞こえる。
   建物を見上げる千尋。
千尋「今の声、もしかして……」
   と建物の中に入っていく。

○同・屋上
   息を切らし、屋上に出てくる千尋。
   しかし誰もいない。
千尋「もういや……私が何したってのよ。お化け屋敷なんて怖いだけじゃん……」
   と屋上を見下ろして街を見回す。

○阿漕産業ビル・受付(夕)
   潤男がいる。
受付嬢「阿漕は夕方まで戻りませんが」
潤男「待つよ」
受付嬢「しかし、お約束がございませんと」
潤男「そんなのあるか」
   警備員が近づいてきて警戒する潤男。
   そこに来る優子。
優子「あら、何か用?」
潤男「あんた、阿漕の仲間か?」
優子「ええ、そうよ」
   と警備員を手で追い払う優子。

○同・会議室・中(夕)
   入ってくる優子と潤男。
   後ろ手でカギを閉める優子。
潤男「こんなトコに阿漕がいるのか?」
   上着を脱ぎ出す優子。
潤男「何してんだ?」
優子「社長はすぐ戻るわ。それまでお姉さんがイイコト教えてあげる」
   優子に抱きつかれる潤男。その腕をすり抜け、机に飛び乗って優子を威嚇する。
潤男「どういうつもりだ?」
優子「私に食べられたくないの?」
潤男「それはこっちの台詞だ」
優子「いいわよん」
潤男「あ……でも、今はおなか空いてないから」
優子「面白い子」
潤男「怖いお姉さんだな」
   とドアの方に逃げる。

○同・廊下(夕)
   会議室から飛び出してくる潤男。
   前を通りかかった阿漕とぶつかる。
潤男「阿漕!」
阿漕「何だ、お前は」
   遅れて会議室から出てくる陽子。
陽子「社長……あの、華丸やしきの方です」
   そそくさと立ち去る陽子。

○華丸やしき・園内(夕)
   千尋と堀越が合流する。閉園の音楽が流れている。
千尋「まだ見つからなくて。閉園したら撫子たちにも手伝ってもらいます」
堀越「フランク達にも協力させよう」
千尋「園内に戻ってきてるかも……」
   賑わっている園内を見渡す千尋と堀越。
堀越「君のおかげで客が戻ってきたよ」
千尋「でも子どもを泣かせました」
堀越「え?」
千尋「いえ……何でも」
堀越「そうだ、お嬢ちゃん。あれに乗りませんか?」
   とコーヒーカップを差す。

○同・コーヒーカップ内(夕)
   コーヒーカップ乗っている千尋と堀越。
千尋「懐かしいな」
   とカップをクルクル回し始める。
堀越「お……おお……」
   遠心力に臆する堀越。
千尋「あ……すみません。つい……」
堀越「お父さんが言ってたよ。千尋ちゃんはカップで回るのが好きだったって」
千尋「このカップも、だいぶ古いですよね」
堀越「でもここの遊具の部品はね。遊園地の創設以来、一度も壊れた事がないんだ」
千尋「スゴイですね」
堀越「その部品を作ったのがお父さんだ」
千尋「え?」
堀越「私と君のお父さんは元々、企業のエンジニアだった。ここの遊具は、その頃二人で一緒に作ったものだ」
千尋「お二人はずっと親友だったんですよね」
   コーヒーカップが止まる。
堀越「小島の仕事は本当にすばらしかった」
千尋「でも私はそんな父を……時代遅れだとののしりました」
堀越「仕方がないよ。君の言うとおり、時代は待ってくれないんだ」
千尋「違うんです……待てなかったのは、私の方なんです」
堀越「お嬢ちゃん?」
   千尋に涙が浮かぶ。
千尋「父が死んだのは私のせい。父さんは私を許してくれない。今だって私、みんなから思い出の遊園地をとりあげようとしてる……」
堀越「千尋ちゃん、それは違うよ」
千尋「……え?」
堀越「君は阿漕たちから華丸やしきを守ってくれたんだ。とても感謝しているよ」
千尋「……」
堀越「それに君はいつだって、ヤツの誇りだった」
千尋「そうかな……」
   千尋にハンカチを差し出す堀越。
堀越「親友のワシが言うんだ。間違いなしであ~るよ」
   顔を上げる千尋。
千尋「もう少し落ち着いたら、モンスターハウスを再開させましょう」
堀越「でも、モンスターカフェは?」
千尋「もちろん続けます。みんなに協力してもらえば、両立できると思うんです」
堀越「そしたら、あいつらも喜ぶよ」
千尋「ただ一つだけ条件があります」
堀越「何だい?」
千尋「私はもう二度と入りません、とっても怖いですから」
   笑う千尋と堀越。
   向こうからアスラとフランクが来る。
千尋「潤男くんを探さなきゃ」
   立ち上がる千尋。

〇街の空(夜)
   月は雲に隠れている。

○同・応接室・中(夜)
   潤男、阿漕がいる。
阿漕「モンカフェの人気者が、ウチなんかに何の用かな?」
潤男「お前のせいでモンスターハウスがなくなっちまったんだ。責任をとれよ」
   笑う阿漕。
潤男「何がおかしい」
阿漕「そういうのを何ていうか知ってるか? 八つ当たりって言うんだ」
潤男「何だと?」
   その時、阿漕の後ろにある窓の外の雲が晴れて満月の光が差し込む。
潤男「し、しまった……うう!」
   うなり声を上げて狼男に変身する潤男。阿漕に飛びかかる。
阿漕「ヘンな手品使いやがって! こんなぬいぐるみの仮面など!」
   狼潤男の毛皮を掴んで引っ張るが取れない。
阿漕「な、何だこりゃ!?」
   椅子から転げ落ちる阿漕。
阿漕「誰か! 誰か来てくれ!」
   そこに入ってくる灰。
灰「社長!?」
   雲で満月が隠れる。人間に戻る潤男。
   警備員がきて潤男を取り押さえる。
潤男「放せ!」
阿漕「灰、あのジジィに連絡しろ」
灰「は?」
阿漕「取引材料が出来たってな」
   と阿漕は慌てて窓のブラインドをおろす。

○秋葉原の街(夜)
   鳴った携帯電話に出る千尋。
千尋「えっ? 潤男くんが見つかったの?」
   と話しながら、そこに来たタクシーを捕まえる。

○港(夜)
   曇っていて月は見えない。

○同・倉庫・中(夜)
   阿漕、灰、潤男がいる。潤男は縄で拘束されている。
   そこに来る千尋と堀越。千尋の手には一通の大きな封筒。
千尋「潤男を返して」
阿漕「遊園地の権利書と引き換えだ」
千尋「そんな要求、のめるわけないでしょ?」
灰「ならコイツを警察に引き渡すまでだ。化け物の姿のままでな」
千尋「卑怯者」
潤男「博士、すまない……」

〇同・倉庫・物陰(夜)
   後ろに隠れているアスラとフランク。
アスラ「許せません……」
フランク「アスラ、落ち着いて」
   と言いながら倉庫の巨大な木箱を持ち上げる。

〇同・倉庫・中(夜)
   対峙する千尋たちと阿漕たち。
灰「さあ権利書をよこせ」
千尋「潤男が先よ」
灰「権利書を確認してからだ」
   封筒から権利書を出して見せる千尋。
   阿漕が近づいてくると、撫子が満月のスポットライトを焚く。
千尋「潤男、逃げて!」
   満月を見て狼に変身した潤男が、縄をちぎって灰から逃げ出す。
阿漕「くそっ!」
   そこに木箱が飛んできて阿漕に命中。
   向こうでは次の木箱を持ち上げようとしているフランクがいる。
   木箱の下でのびている阿漕。
   逃げる千尋を押し倒す灰。
灰「ふざけやがって。俺様に恥かかせるなよ」
   灰が千尋にナイフを向けた瞬間にフラッシュが焚かれる。そこにはカメラを持った撫子がいる。
撫子「暴行罪の証拠写真、ゲット」
千尋「あなた達の負けよ」
灰「このアマ!」
   ナイフを振り上げた灰に潤男が踊りかかって組み伏せる。
   灰に牙をむく潤男。灰はびびってナイフを落とす。
   パトカーのサイレンが聞こえてきて、そこに堀越もやってくる。
堀越「警察を呼んだ。潤男はすぐに姿を隠せ」
潤男「わかった」
   素早く走り去る潤男。ヨロヨロと立ち上がる灰。
灰「化け物どもめ! 全部俺がバラしてやる!」
千尋「そんなの誰も信じるものですか!」
灰「マスコミも使って絶対にお前らを追いつめてやるからな!」
千尋「くっ……」
   灰の前に歩み出るアスラ。
アスラ「あ、あの……」
灰「あ?」
千尋「アスラさん?」
アスラ「ちょっと失礼します」
   牙をむき、灰の首に噛み付くアスラ。
   悲鳴を上げる灰。
千尋「あ、あれって……」
堀越「アスラは生粋なる吸血鬼の末裔じゃ」
   アスラの胸の中で意識を失う灰。

○港(夜)
   警察に証拠写真を渡している撫子。
   警察に連行される阿漕と灰。
   灰と阿漕の首すじには噛まれた跡。二人とも目は赤くうつろである。
   千尋の元に来るアスラ。
アスラ「もはや彼らは私の下僕です。これで潤男くんのことを口にすることは二度とないでしょう」
千尋「ありがとう、アスラ」
アスラ「こちらこそ。私たちを救ってくれて本当にありがとうございました」
   遠くで潤男の遠吠えが聴こえる。

○同・モンスターカフェ内
   アスラとフランクがコンビでショーを展開している。
   盛り上がる観客。笑顔で応えるアスラとフランク。

○同・モンスターハウス前
   再開しているモンスターハウス。

○同・中
   盛大に客を脅かしている潤男。
   その先でお面を被って、同じように客を脅かしているネコ娘。
ネコ娘「ニャニャニャー!」
   客が悲鳴を上げて去った後、お面をとるネコ娘。正体は千尋。
千尋「脅かす方なら結構アリかもね。これなら怖くないし」
   親指を立てて狼潤男に向ける千尋。
潤男「意外に似合ってんじゃん」
   潤男も千尋に親指を向ける。

○同・コーヒーカップ
   千尋と潤男が乗っている。カップの縁にしがみついている潤男。
千尋「信じらんない。ずっとここにいるのに乗った事ないなんて」
潤男「こういうの苦手なんだよ」
千尋「私は大好き!」
   台を回す千尋。悲鳴を上げる潤男。
   二人はクルクルと回り続ける。



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