シェア
このところ、毎日のように、ふしぎな夢を見ている。 最初は見知らぬ女性が目の前に現れて、魅力的な笑顔で僕に話しかけてきたところで目が覚めた。それからは眠る度に彼女の夢を見るようになり、僕たちはこの現ならぬ世界で、二人きりの時間を過ごすようになった。 夢の舞台は決まって、今住んでいる場所の近所にある夜の公園だった。僕はブランコに乗っていて、隣を見るといつも彼女がいた。そして目が合い、「また今夜も会えたね」とほほ笑んでくれるのだ。 現実の世界で奥手な僕にとって、これは
作:元樹伸 本作の第1話はこちらです ↓↓↓↓↓↓ 第13話 怒り 「先輩、私の部屋に行きませんか?」 安西さんがスッと立ち上がって僕の目を見た。 「あれ、ごめんね。邪魔だったよね?」 直子先輩に見送られ、安西さんに続いて二階に上がると、丸い文字で《なこ》と書かれたプレートの下がったドアが視界に入った。つまり僕は今、ずっと好きだった安西さんの部屋の前に立っていた。 「急に来ちゃって本当にごめん」 「だったら何で来たんですか?」 安西さんは依然として冷た
作:元樹伸 第14話 衝突 学校に戻り、正門をくぐるとすでに放課後だった。その足で林原のクラスにむかったけど、奴は教室を出た後だった。 学内を探しても見つからず、電話で呼び出そうと考えた頃には少しずつ頭が冷えてきた。林原を殴って何になるのか。そんなことをしても安西さんに迷惑をかけるだけじゃないか。 何もする気が起きないまま、いつもの習慣で美術室に行くと手嶋さんがいた。彼女はキャンバスにむかって絵を描き続けていた。案の定、こちらには見向きもしてくれない。集中してい
作:元樹伸 本作の第1話はこちらです ↓↓↓↓↓↓ 第15話 転機 翌日、美術室に行くと手嶋さんと安西さんがいた。二人は隣同士で並んで座り、同じヘルメス像を描いていた。安西さんの絵はいつも通り繊細で、手嶋さんの絵は不器用だけど力強かった。 「その顔、どうしたんですか?」 安西さんが口元の絆創膏を見て驚いた。昨日、手嶋さんが貼ってくれたものだ。 「ヘンなのに絡まれちゃってさ」 本当はヘンな自分が林原に絡んだからだけど、事情を知る手嶋さんが口をはさむ様子はなか
作:元樹伸 本作の第1話はこちらです ↓↓↓↓↓↓ 第16話 恋愛の先輩 午後五時。僕たちは打ち上げ会場のファミレスに入ると、ひとつのテーブルを囲んで座った。僕のむかいには手嶋さん、そして隣には安西さんが腰を下ろす。いつもはひとりでいるテーブル席も、四人で座るとかなり手狭に感じた。 メニューを手にとり、簡単な料理と全員分のドリンクバーを注文した。 ドリンクコーナーにむかった寺山がすぐに戻ってきて、黒い液体入りのグラスをテーブルの上に置いた。グラスの中身はコーラか
作:元樹伸 本作の第1話はこちらです ↓↓↓↓↓↓ 第17話 暗雲 文化祭が二週間後に迫っていた。編集作業も佳境に入り、映画がちゃんと完成するかどうかは、僕の体力とやる気にかかっていた。 鞄を背負って教室から出ると、廊下に林原がいた。 「よお、元気か?」 どうやら彼は僕を待っていたみたいだった。 「何か用か?」 前にあんなことがあったので、つい刺々しい態度になった。 「そうだな、まずは謝るわ。この前は殴っちまってすまん」 林原が頭を下げた。周りの
作:元樹伸 本作の第1話はこちらです ↓↓↓↓↓↓ 第18話 悲劇 部活の名簿にあった住所を頼りに手嶋さんの家へむかった。彼女が住んでいるのは集合住宅の五階だけど、エレベーターがないので階段を使った。 林原がインターフォンを鳴らすと、少し間があってから声がした。 『誰ですか?』 「美術部の河野です。手嶋さんだよね?」 林原に急かされてマイクに話しかけた。 『トン先輩、何で?』 元気のない声だけど、手嶋さんに違いなかった。 「ずっと休んでるから心配に
作:元樹伸 第19話 覚悟 救急車が病院に到着し、手嶋さんは治療室に収容された。同乗していた僕は酷い頭痛と耳鳴りに襲われていて、廊下の椅子に座ったまま動けなくなっていた。 「君も少しベッドで休むか?」 当直の若い先生が来て僕を気遣ってくれた。羽織っている白衣には「研修医」と書かれたバッジが付いていた。 「……すみません、大丈夫です」 「これでおでこを冷やすといいよ」 研修医さんは横に座って小さな保冷材をくれた。 「手嶋さんは大丈夫ですか?」 「発見が早
作:元樹伸 第20話 新しいシカク あれから一週間が経ち、映画が完成した。でも試写会に安西さんと手嶋さんの姿はなく、会場には僕と寺山しかなかった。 「まあ、完成してよかったよな」 試写会が終わって席を立つ時、隣にいた寺山がねぎらってくれた。 「ここまでやってこれたのは、みんなのおかげだよ」 「その腕はまだ治らないのか?」 包帯で固定された僕の腕を見て寺山が聞いた。病院の屋上で手嶋さんを助けようとした時に痛めてしまい、医者には全治二週間だと言われていた。