連載小説|恋するシカク 第13話『怒り』
作:元樹伸
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第13話 怒り
「先輩、私の部屋に行きませんか?」
安西さんがスッと立ち上がって僕の目を見た。
「あれ、ごめんね。邪魔だったよね?」
直子先輩に見送られ、安西さんに続いて二階に上がると、丸い文字で《なこ》と書かれたプレートの下がったドアが視界に入った。つまり僕は今、ずっと好きだった安西さんの部屋の前に立っていた。
「急に来ちゃって本当にごめん」
「だったら何で来たんですか?」
安西さんは依然として冷たい態度のままだったけど、ドアを開けて僕を部屋に通してくれた。
彼女の部屋はピンクを基調とした可愛らしい内装で、ベッドには人気アニメ映画に登場する、大きくて可愛いお化けのぬいぐるみが乗っていた。彼女の髪と同じいい香りがして、生まれて初めて女の子の部屋に入った僕の緊張は、極限状態に達していた。
「適当に座ってください」
「え、どこに?」
「床でもベッドでもどこでもいいです」
彼女はイライラした調子で答えた。ベッドは気が引けたので、そそくさと丸いテーブルの前に座った。
「こんなの、お姉ちゃんが勘違いするのも当然ですよ」
安西さんはベッドに座るとこっちを睨みつけた。
「僕もそう思って帰ろうとしたんだけど」
「もし私が通報していたら、どうするつもりだったんですか?」
返す言葉が見つからない。それも安西さんの口から出た言葉だから、威力は絶大だった。
「人生……終わってたかな」
ショックを隠しきれなくて、僕はしょんぼりとうつむいた。
「ごめんなさい、言い過ぎました。私のメールも言葉足らずだったんだと思います」
安西さんはそのままベッドに倒れ込んで、自分のおでこに手を当てた。
「大丈夫?」
「ずる休みなので気にしないでください」
「そうじゃなくて……昨日、林原と会って話したんだ」
天井を見上げていた安西さんが、ガバッと起き上がった。
「それで?」
「安西さんとのことを聞いたよ」
「あの人、先輩に話したんですか?」
「ごめん」
「先輩に謝られても」
「……だよね」
さっきの話からすると、安西さんが直子先輩たちの関係を知ったのは最近だ。だとすれば、安西さんたちが別れたのは、彼女が林原にそれを問い正したのが原因だったのではないか。
「私はきっと、お姉ちゃんの代わりだったんです」
「まさか。林原が前に直子先輩と付き合っていたとしても、それと安西さんは関係ないよ」
「先輩に何がわかるんですか?」
見ると安西さんの目に涙が浮かんでいた。
「私……お姉ちゃんよりブスですか?」
「林原がそう言ったの?」
一気に怒りがこみ上げた。今ここに林原がいたら間違いなく殴っていただろう。
「あんなヤツの言うこと、気にすんなよ」
「もう帰ってください、お願いします……」
彼女の傷を癒すどころか辛い出来事を思い出させてしまった。あいつを一発殴ってやらないと気が済まない。僕は悶々とした気持ちのまま、安西さんの家を後にした。
つづく