「喧嘩するほど仲が悪い」はいかに成り立つか? 夫婦仲の悪い中華料理屋を事例に考える
喧嘩するのは仲がいい証拠なのかもしれない
「喧嘩するほど仲が良い」という逆説的な言葉がある。普通は、喧嘩しているのであれば仲が悪いと考える。ところが、喧嘩するほど二人の仲が良い場合がある。
すなわち、しっかりと言いたいことを言い鬱憤をため込まずにガス抜きする状態こそが、二人の良好な関係を保ちうる、という考え方だ。かなり説得的なものと思う。
私は綺麗な逆張りで意味をしっかり通してくるこの言葉が好きだ。
この美しい逆説的な言葉は、あまりに美しすぎることでしっかり人口に膾炙し、こちらの方がむしろ正しい状態であるかのようにすら感じさせる。
仲が悪いからこそ喧嘩が発生するという基本的な構造を前提としながら、発展系が広く可能性として認知されているということになるだろう。
さて、その前提となっている「仲が悪いから喧嘩する」ってのは本当だろうか? 喧嘩するほど仲が良いの前提になる「仲が悪いと喧嘩する」は真だろうか。
今回は、私の馴染みの中華料理屋を具体例に考えてみたい。
そもそも、仲が悪いと本当に喧嘩するのか?
私は仲が悪いと喧嘩はしなくなるのではないかと思っている。
本当に仲が悪いと互いを避けて交流を断つので、喧嘩しない。
一度や二度は衝突はあるだろう。ただその後は、お互いに距離を取り要らぬ衝突を避けるようにすることが、実際の場合は多いのではないか。あるいは周囲が気を揉み、二人を遠ざける措置を講ずることが多いのではないか。
要するに、極めて仲が悪いと互いを避けて、喧嘩は起こらないということだ。
それでも、仲が悪くて喧嘩が起こるケース
それでも起こってしまう喧嘩は、たしかにある。
仲が悪いにもかかわらず互いを避けずに喧嘩が起こりつづける事例について一つ知っている。
それは私のよくいく中華料理屋だ。
ここは焼きそば各種がめちゃくちゃうまいのだが、経営している夫婦の仲がめちゃくちゃわるい。
観察していると、夫も妻も、店のメニューはそれぞれだいたいできる。部分的に旦那さんが行わない調理過程があるが、ほぼメニューは夫婦双方こなせる。
しかし、店の規模からしてワンオペは難しいようだ。どちらかが注文を聞き適切に客先に配膳し、会計をしなくてはならない。
それでいっつも、注文をちゃんと料理作る側に伝えたかどうかで揉める。多分、わざと聞こえないフリを互いにしている。注文がちゃんと通っていないことについて客に迷惑をかけることを理由として、相手にキレる。
この二人のうまいところは、客に迷惑をかけないギリギリのところで相手にイラついているところだ。注文を伝えた際、相手をハメるためにわざと聞こえないフリをするのだが、それで客の注文した料理を間違えたり、配膳先を間違えたり、会計を間違えたりは絶対にしない。
正しくうまい焼きそば各種などをつくり、正しく配膳し、正確に会計をするルールの範疇で、めちゃくちゃいっつも喧嘩している。
さて、彼らはなぜここまで仲が悪いのに、二人で焼きそばを作っているのか。
それは端的に言えば生活して行かなくてはならないからだ。焼きそばを売って生計を立てなければならないからだ。それは一人ではできない。そのため、喧嘩をしても、二人で焼きそばを作り続けなくてはならない。
ここからわかることは、喧嘩するほど仲が悪い場合、何かその二人を分かち難い状況があるということだ。
今回の場合は、焼きそばがうまいためそれで生計を立てることを否が応でもそれをしなくてはならない。
こうしたケースでは、「喧嘩するほど仲が悪い」という状況は成り立つ。
喧嘩は仲の良さと悪さはあまり関係がない
喧嘩をするかどうかに、おそらく仲の悪さや良さはあまり関係がない。
仲が良くても喧嘩をすることもあるし、仲が悪くても喧嘩をすることがある。
仲がいい場合と、仲が悪い場合の共通点は、つながりの強さだ。その人とその人との結びつきが強い場合、喧嘩が起こりうる。
仲がいい人同士は、人と人とのつながりで近くにいる。人格でつながっている。
仲が悪い人は、中華料理屋の例ではお金でつながっている。他にも、仲が悪くても家族で一緒に暮らさなくてはならないとか、一緒のクラスで過ごさなければならないとか、人格で回避できても他の強い要素でつながりを回避できないケースがある。
ということで、私が独裁者だったらことわざを変える。
何らかのつながりが強い場合、喧嘩するほど仲がいいこともあるし悪いこともある。
独裁政権が短期政権で終わりそうな感じがする才覚を感じさせない評言になってしまったけれども、本稿で言いたいことは尽くされている。
ある相手とどうしても喧嘩してしまうことに悩んでいる人がいたら、もしかしたら相手と自分とに、どんな強固なつながりがあるのか? それを解消する方法はないか? を考えることで何か解決の糸口を見つけられるかもしれない。