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それでは醤油は油ではないというのか?

油。広ーい意味で。


1 「油」

油ってのは、もともとは多分なんか濃い目の液体のことを言っていたのだろう。

現代の定義で言うとこんな感じになる。全然ざっとで見て大丈夫。みんな油わかってるだろうからね。

あぶら【油/脂/×膏】の解説

水に溶けず、水よりも軽い可燃性物質の総称。動物性・植物性・鉱物性があり、食用・灯火用・燃料用・化学工業の原料など用途が広い。
動物の肉についている脂肪分。脂身 (あぶらみ) 。「—の多い切り身」
皮膚から分泌する脂肪。「汗と—の結晶
㋒植物の種子などからとれる液体菜種油ごま油など。「—で揚げる」
㋓植物の花や葉などからとれる、芳香のある揮発性の液体薄荷 (はっか) 油など。精油
原油精製したもの。重油軽油灯油など。
髪油ポマードチック類もいう。「—でなでつける」

活力のみなもと。特に酒をさすことが多い。「疲れたから—を補給しよう」

《火に油を注ぐとよく燃えるところから》おせじ。へつらい。うれしがらせ。
「えらい—言ひなます」〈滑・膝栗毛・八〉


[補説]一般に、常温液体のもの(主に植物・鉱物性)を「油」、固体のもの(主に動物性)または皮膚から分泌されるものを「脂」、肉のあぶらを「膏」と書き分ける。

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%B2%B9/


それじゃ「醤油」は油じゃないのかって話になるわけだが、俺は醤油に「油」がついてて本当に良かったと思ってる。現代的な定義だと油じゃないんだけど文字に油が入ってくれてるのがいい。身近で、豆腐とかにかけられるし。

「油」が現代的な定義よりより広い意味を有していたであろうことを、醤油は教えてくれているのではないか。

2 「虫」

虫も考えると面白くて、現在コアになる存在としては昆虫がいる。けれども、クモとかミミズとかサソリも虫だ。古くは小動物の象徴だったと考えられているからトカゲやヘビも虫だった。この辺りは「蟲」字と「虫」字の字義の問題と関わって複雑だけれども、とにかく広い認識があった。

トカゲやヘビから発展してか、龍も虫と捉えられる。虹が虫編だったりする。トールキンの中つ国をめぐる物語の中には、長虫スカサと訳される竜が登場する。

こんな連中がいるから、私たちは今よりも「虫」がずっと広い意味を持っていたことを想像できる。

3 「梶」

梶と呼ばれる植物は、おそらく古くは、現在生物学的に区別されるカジノキ以外を含んでいた。例えばヒメコウゾやコウゾと厳密な区別はされず、製紙や製糸のためなど、ある特定の生産や生活に使いうる植物を広く梶と呼んでいたのだろう。

徳島の山奥に伝わるコウゾを使った糸づくり、布づくりがある。それは現在阿波太布と呼ばれる。コウゾからつくられる布は、木綿普及以前の生活を知る手がかりとなる。

1月の寒い時期にコウゾの木を剥いで、蒸して川にさらして柔らかくする。布づくりはここからはじまる。もう少しでまたこの営みがはじまる。来年もきっと技術の伝承がなされていくことだろう。

その蒸す作業を「カジ蒸し」という。コウゾだが「カジ蒸し」だ。

カジ蒸しという古くから行われる営みがあるおかげで、「梶」がより広い意味を持っていたことを想像することができる。

現代は定義がはっきりした時代だが

現代の言葉はかつてなくはっきりと厳密に運用されている。まるで法律や条例や取扱説明書のように言葉の意味がはっきりしているケースが多い。これは現代社会が(少なくとも日本では)そうしたはっきりくっきりが必要な社会だからに違いない。

ところが、ちょっと振り返ればその言葉の定義に当てはまらない、やや広めの意味が眼前に広がっていたりする。現代では「油」や「虫」や「梶」は狭めに運用されることだってかなりあるだろう。でも、歴史を見ればそれらの漢字やその意味は、広ーい懐を見せてくれる。

大切なことは、これらの意味・認識は両取りできるところだ。現代の厳密な定義で使うこともできるし、古くからの柔い範囲で用いることもできる。

現代社会が厳密に言葉を運用しがちだからと言って、そちらだけを採用するのはもったいない。うまいこと、もっとゆったりした言葉を使ったっていいだろう。

つまりグーとパーを同時に出せる奴は強いってわけだ。

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