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私たちはテックに使われ、THE MODELに呪われている

まるでそれがイケてる企業の名刺だと言わんばかりに、スタートアップがこぞってSalesforceを導入し始めて何年経つだろう? 広告運用もままならない状態でMAツールは海外製にするか、お安く国産から始めるか比較検討するのが普通になったのは、いつ頃からだっただろうか。

「うちはTHE MODEL型の組織なんです」と胸を張る企業の内情は、マーケティングチームとインサイドセールスの間でコールドリードが放置され、入力された事前情報と異なるインサイドセールスからのパスに、フィールドセールスは苛立っている。受注後に引き継いだカスタマーサクセスは、キックオフと称して組んだMTGで同じ質問を顧客に投げかける。

不幸なのは顧客だ。メルマガに記載されていた名前とは違う人間から突然電話がきて、アポイントを承諾すれば最後に「当日は◯◯という者が伺います」とまた違う名前が出てくる。登場人物が増えるのは顧客にとって不安と不利益しか生まない。

白状すると、私も「分業と言えば自分本位ですが、専任特化型と呼べば一気にカスタマーファーストになります」と説明したことは一度や二度ではない。

だが、専任特化型と呼べるようなチームなんて、日本にいくつあるだろうか。THE MODEL型組織としての練度は、チーム間の受け渡しのクオリティでのみ測れる。

自社のSalesforceを思い出してほしい。オブジェクト毎にテリトリー意識はないだろうか? キャンペーンオブジェクトはマーケティングチームのもの。商談オブジェクトはフィールドセールスのもの。ケースオブジェクトはカスタマーサクセスのもの。
なぜキャンペーンをナーチャリングが業務領域のインサイドセールスや、エンゲージメント向上をKPIに持つカスタマーサクセスが使用しないのか、説明できる人間はどれだけいるだろうか。

そもそも自社でSalesforceを使いこなせていると断言できる企業なんて、半分いれば良い方だろう。それもその内の9割は機能の全貌を知らずに使いこなせていると思い込んでいるだけだ。

「セールスメンバーが商談履歴をきちんと入力してくれない」と嘆く管理職者は、評価制度の中にSFAへの入力度合いを含めるよう役員に進言したのだろうか。着地見込みがギリギリ未達の月末に、メンバーからきた突然の受注報告を手放しに褒めていないか。
SFAは隠し球を防ぎ、未来の売上を予測するために細かくフェーズを分けているのを忘れていないだろうか。

MAツールはどうだ。PardotでもMarketoでもHubspotでも良いが、メールの発射台で終わっている企業は悲しいほどに多い。
スコアリングを神格化し、と思えば自社内にある資料はサービス資料だけだったりしないだろうか。メールや送付するドキュメント、Webサイトは完璧にトラッキングできるように設定が済んでいるだろうか。

自分はできていると思ったマーケティング担当者は、自社のインサイドセールスに同様の質問をしてみてほしい。インサイドセールスはマーケティング担当の数十倍メールを作っている。むしろ社内で一番MAツールの扱いに精通していなければいけないはずだ。

シナリオを組むと意気込んで、出来上がったツリーとは到底呼べない枝切れのような一本線のワークフローで満足していないか。ワークフローはタスクや抜け漏れの管理に使うものだと知ってほしい。
急激なスコアの変化が起きたリードをインサイドセールスに通知。
定時を過ぎて未対応状態のリードをインサイドセールスMGRに通知。
商談日が過ぎているのにフェーズ変更のない商談をセールスMGRに通知。
金額の大きな商談のフェーズが後退したとき、事業部長に通知。
直近でサイト訪問があったリードをインサイドセールスメンバーのリストに追加。
ドキュメントトラッキングで新しいアクセスが確認されたリードを同じくリストに追加。
これらを全部管理職者が終業後にチェックしている企業もあるだろう。どんなに優秀な人間でも、抜け漏れの確認で機械に勝てる者はいない。そもそも確認作業があえて管理職者に抱えさせるような業務だろうか。

オンライン商談やABM(アカウントベースドマーケティング)のサービスを導入したが、結句上手く使えない、あるいは導入前に出していた企業ターゲティングと差がなかったと解約した企業の声は方々から聞こえてくる。

次々と現れるテックはどれも魅力的だろう。Webサイトに掲載された事例を見ると、まるで魔法の杖のように思えてくる。SalesforceやMAツールは確かにセールスやマーケティングを劇的に好転させるだけの機能を持っている。最大限に活用すれば、魔法と呼んでも差し支えないぐらいであるのは間違いない。

だが、これらは車で言えばV12エンジンを積んだランボルギーニである。テクニックを持った人間が乗ればこの上ない名車だが、なんとかエンストなしで坂道発進できるような人間が乗っても持ち味は活かせない。真っ直ぐ走って安全でかつ簡単で安い車を選ぶ方がよほど良い。

街中を大量のランボルギーニがそろりそろりと走っている様を想像してみてほしい。今の界隈はまさにそんな様子だ。

誤解を恐れずに言うが、これだけ無用の長物であるテックとTHE MODEL風組織が世に蔓延したのは本家大元の責任が大きい。書籍は素晴らしい出来だった。わかりやすく、かつスマートな新しい営業組織の形が提示されていた。ゆえに書籍の内容だけで完結してしまい、まるで自分たちがSaaS界の巨人と同じ位置にいるのだと錯覚させてしまった。

この現状を正しく導くのは、先頭を走る者の義務だと私は思う。

以上、つらつらと悪辣な言葉を並べてきたが、斯く言う私もSFAやMAを活用したマーケティングを生業として生きている。この仕事は好きだし、携われるのは幸せだとも思う。
社会人4年目の春に転職したIT企業で、初めて触れたSalesforceとPardotに抱いた興奮は忘れられない。終業後にあらゆる機能を片っぱしから調べ、英語のヘルプページもGoogle翻訳でなんとか読み解こうとした。当時の私は役職も何もない一般職だったのでデータをエクスポートする権限を持っておらず、いちいちレポートを上から下まで選択、コピーし、スプレッドシートに貼り付け関数を使い数値を出した。
すると、受注率の高い企業の傾向が(ブレは多少あったが)見えた。
これだと思った。

だからこそ、もう一度全員で考え直すべきではないかと言いたい。

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