はぐれテングザルのビジネス
虫や木の実といった
かんたんな食事を終えたテングザルたちは
おたがいの毛づくろいをしたり
ノミをとったり
木の枝でつつきあったりして
それぞれ楽しくすごしていた
いつものとおりの jungle の昼下がり
群れからすこし離れたこところに若いテングザル一人
ごろんと横たわってつまらなさそうに肘枕
これもいつもの jungle の光景
(このとき
見えもしないし、聴こえもしない
そんなずっと遠くの方で
にんげんどもが
『やりがい』
を感じながら
満足げに
生き物を大量に殺していた)
しかしこの日は何かが違った
はぐれものの若いテングザルが
はたと身をおこしたのだ
長老これに気付き
こは若者、何かあるぞと
力みなぎる背を
うれしげに眺めた
(一方そのころにんげんどもは
『成長』
を感じながら
生き物を大量に殺していた)
しばらくするとパリパリと
枝ふみながら若者が
長老のもとにちかづいた
こっちにくると気づいていながら
わざとそっぽをむいた長老
足音がとまったのをたしかめてから
今気づいたというふうに顔をあげ
おや、どうした
という顔つきをしてみせた
(若者の一歩のあいだにも
にんげんどもは
『自己実現』
を感じながら
生き物を大量に殺していた)
おれはビジネスをしようと思う
とテングザルの若者の
みたことのない、雄々しい目付きに
長老は思わずうっとりとした
ほほお
ビジネスか
どういうものかはわからぬが
若々しい
力強い響きではある
口の中でなんども転がすと
おのずと縦のリズムがうまれて
踊りたくなる気持ちにさせた
(こうしているあいだも
にんげんどもは
『社会貢献』
を感じながら
生き物を大量に殺していた)
そうか
がんばれよ、と長老
若者はうなずいて
パリパリと歩み去り
ちょうどよい感じの木にのぼり
ころあいの枝のまたに腰かけて
ちょっと斜め上の方をみつめてみた
これはよい感じだ
ビジネスがどういうものかはわからぬが
たぶんおれはよいビジネスをしているだろう
若者はますます意気軒昂に
顎をつきだし
遠くの方を眺めた
群れの仲間がそれをみて
長老にたずねた
ああ、あれはな
ビジネスをしておるんだ
あいつめ、若いのになかなか立派なビジネスをするわい
(こうしているあいだも
にんげんどもは
さまざまな理由を考えて
飽きがこないように
生き物を大量に殺していた)
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