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この世で一番楽しい学問は「地学」である!

 ここ最近フォローしてくださる方が増えており,大変嬉しいです.少しでも植物化石の面白さが伝わればこの上なく感激です!
 さて,今回はこれまでの記事とはかなり毛色が異なり,私の“副業”である高校地学の授業を通して感じる地学の魅力を述べたいと思います.せっかくの機会ですので,高校地学の問題点についても付記します.是非最後まで読んでいただければ幸いです.

<地学の魅力>

① 地学では,他の理科の分野(物理・化学・生物)に比べ,身近な自然についてミクロレベルからマクロレベルまで幅広く学びます.ミクロレベルのものでは宇宙誕生時の素粒子のことや鉱物の分子構造を学びますし,最もマクロレベルでは宇宙の大規模構造や宇宙の膨張まで扱います.空間スケールが多岐にわたり,自分の身の回りのものがどんなものからできているのか,自分の身の周りのものが広い宇宙においてどのような位置づけなのかがよくわかります.すると落ちている“石ころ”や川沿いに見られる地層,天気や星空など,身の回りの自然の見え方が変わってきます.ひいては人生が楽しく感じられます.

② 地学では,他の理科の分野とは大きく異なり,歴史性があり,四次元(縦×横×高さ×時間)で自然を捉えます.ビッグバンによる宇宙の始まり,太陽系の形成,地球の形成,地球環境の変化と古生物の変遷,大陸移動など,過去から現代までの歴史の流れを意識する学習内容が多いです.地学で扱う現象のほぼすべてに何かしらの時間変化の考えが盛り込まれています.
 近代地質学の父として知られるスコットランドの地質学者チャールズ・ライエルの著書「地質学原理」で触れられている考え方に「斉一説」があります.これは現在認められる自然現象は過去にも同じように起こっていたはずだ,とする考え方で,「現在は過去のカギである」という有名な言葉にその考えが集約されています.過去に何があったのかを解き明かすためには,現代起きている現象を理解すればよいのは間違いありませんが,過去と現代が分かれば,今後こうなるであろうという未来も予測することができるはずです.私は講演会などでお話をさせていただくときには「過去と現在は未来のカギである」と語ることが多いです.過去-現代-未来と時間の流れの中で私たち人類はどこからきてどこへ行くのか,今後どうすべきか,どうなっていくのか,という学問の本質に直接的に迫れます.そのような点も地学の魅力であると考えています.

③ 地学は,総合理科の側面があります.宇宙,気象・海洋,地球の測定,プレートテクトニクス,地震,土砂の運搬・堆積,地層の形成などは「物理」ですし,岩石・鉱物,海水などは「化学」,古生物,物質循環は「生物」とそれぞれ関連があります.特に高校地学では学習内容の比重からしますと「物理」との親和性が強いです.そのような点ではやや意外な印象を受ける方もいるかもしれませんが,地学を通して科学の基本的な原理や考えを学ぶことができます。

④ 地学の魅力は他にもたくさんありますが,とにかく単純に化石や岩石を手に取り,「この化石から昔いた生物の姿や生態がわかるんだ!」とか,「この岩石と化石がここから採集できるということは,現在は山奥でも昔のここは海の底だったんだ!」みたいなことがわかるのは本当に楽しいです!単純にロマンがあります.このような感覚はまさに地学ならでは,であると思います.この感覚がつかめてくると,物の捉え方や見え方が広がりますし,子どもたちも笑顔になります.ですから私は生徒たちにこの世で一番楽しい学問は地学だ!と豪語し続けているのです.

さて,そんな素晴らしい地学ですが,高校地学の現場,いや,高校に限らず日本の学校現場の地学では多くの問題を孕んでいるのが現状です.

<日本の地学教育の問題点>   

① 日本では地学を専門的に教えられる教員の数が少ないです.この問題はそもそも小学校の先生は理科や算数が苦手な人が多いことに端を発しています.日本の高等教育の教育課程にも問題があるのですが,小学校教諭の免許を取るためには大学で教育系の学部を卒業することが必須条件です.教育系学部に入学するためには,いわゆる文系科目さえ得意であれば入学できる大学が多いのです.そうすると,数学や理科を満足に勉強しない高校生が大学に入り,何となく数学や理科に苦手意識を持ったまま教職に就いてしまうことになります.そのような先生に教わった子どもたちは果たして理科を好きになってくれるでしょうか?仮に理科好きの子どもたちが育ったとしても,中学校理科の先生の多くが地学を苦手としていたり,高校では後述するように,そもそも地学に関する科目が教育課程に含まれていなかったりと,満足に地学を学ばないまま理系に進むことになります.地学を満足に学ばないままで中学校や高校の教員となった先生は当然地学を満足に教えられず・・・と悪循環に陥っているのです.ですから,私のような地学専門の教員は日本ではかなり希少な存在になっているのだろうと思います.とてもまずい状況であると言わざるをえません.

② 高校地学は2022年現在,「地学基礎」と「地学」に分かれています.このような区分は物理・化学・生物でも同様です.高校では「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」のうち3科目か,あるいはそれら基礎科目のうちの1科目+「科学と人間生活」という科目を履修すれば卒業要件を満たすことになります.いわゆる進学校とされる高校では「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」を全員に履修させるか,「化学基礎」「生物基礎」を全員に履修させ,「物理基礎」または「地学基礎」を選択させます.
 高校の教育課程は大学入試にも大きく振り回されます.大学受験では,共通テストにおいて「理科基礎」と「基礎なし理科」に分かれます.「理科基礎」はいわゆる文系志望(そもそも「文系」「理系」の区分は国際的には後進的でとてもよくないことですが・・・)の高校生が選択しますが,4つの「●●基礎」から2科目をセットで受験しなければなりません.大多数の文系高校生は「数式が嫌」とか「暗記で済ませられればそれに越したことはない」という安易な考えで「物理基礎」を敬遠します.すると,看護系の進路志望の高校生は「生物基礎」+「化学基礎」を,それ以外の文系生徒は「生物基礎」+「地学基礎」を選ぶことが多いです.そのため,文系生徒の多くは「地学基礎」を選択してくれますので,昔の教育課程の時よりは地学を学ぶ高校生が増えており,それ自体は喜ばしいことです.しかし,先ほど述べたように,地学専門の教員が少ないため,物理・化学・生物が専門の教員がいやいやながら「地学基礎」を教える場面も少なくないようです.それでは地学の魅力が十分に伝わりませんよね・・・.

③ 一方,理系高校生は大学受験では,共通テスト・個別テストともに「基礎なし理科」2科目を選択します.理系生徒の大多数は「物理」+「化学」選択で,医学・医療系や農学系,生物学系志望生徒は「化学」+「生物」選択であることが多いです.実は工学系の一部や専門的に地学を学ぶ学部学科であれば「物理」+「地学」が理想的なのですが,そもそも基礎なしの「地学」を入試で課しているor共通テストでの選択を許可している大学がほとんどありません.「大学受験で基礎なし「地学」を選択できないなら高校の教育課程でも「地学」は設置しなくてもいいよね.そもそも地学専門の先生は少ないし」というのが圧倒的大多数の高校において取られているスタンスなのです.このままでは地震災害や火山災害,気象災害,土砂災害への防災の専門家や,原発問題の本質を理解する専門家が育つわけがないのです.日本ではこれほど地学に関する問題が多いにも関わらず,です.危うし日本,という状況がお判りでしょうか.

「この世で一番楽しい学問は地学である」

私は数少ない地学専門の高校教諭として,また数少ない古植物学の専門家として,少しでも生徒たちが地学に興味を持ってくれるように,と奮闘しています.それでも時間も予算も限られ,教育課程の制限もあります.実際,私もいわゆる文系志望の生徒対象の「地学基礎」の授業は受け持っていたとしても,理系「地学」の授業は体系立ててまともに教える機会に恵まれませんでした.それでも生徒が地学を通して笑顔になり,その子たちがさらに多くの人に地学の魅力を語ってくれるようになれば,と思い日々頑張っております.このnoteで記事をアップしていることもその想いを広めるためでもあります.その想いに少しでも賛同してくださる方が一人でも増えてくれることを願ってやみません.

「この世で一番楽しい学問は地学である」の想いがもっともっと多くの人に伝わりますように!

#地学がすき

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