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新春一発目の公演
今日は、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールでの「新春顔見世コンサート」でした。
はじめはご覧の通り、わたしたちクレモナの基本フォーメーション「木管四重奏」で臨む予定だったのですが、メンバーの職場でコロナが発生し、出演を見合わせ、急遽12月31日にピアノ・トリオでステージに立つことが決まりました。
編成も違えば、楽器も変わる、楽譜も変わる。そんなことで、年末年始ののんびりはどこへ行ったか、ずっとピアソラに向き合ったお正月となりました。
他の出演者は自分たちのベストなコンディションで、一番よさが伝わる選曲で登場してくる…2000人のお客さまの前で、とにかく今年1年の活動の大きな布石になるような演奏をしなくちゃいけない。しかも暗譜で!プレッシャーと、いや、わたしたちにはできる、という気持ちの間で押し合いへし合いしながらも今日の日を迎えました。
阪急西宮北口の改札を出ると、目の前にポスターがどーんっと貼ってある。
今日のお客さまはこれを見てワクワクしながらホールに来られるんだろうな…と思うと、もう終演するまで家には帰られへん、と半ばあきらめた状態になりました。
楽屋にて
楽屋につくとフルートゆきとホルンあやめちゃんは音出しをせっせと始めました。クレモナ楽屋の目の前が男子トイレで、ホールの分半周ぐるっと回って女子トイレに行かないといけないのがいささか億劫な気がしましたが、下手(出入りする方の舞台袖)に近い楽屋だったのでまあいっか、と思ったわけです。
わたしたちクレモナは出演者のトップバッターだったので、リハーサルもトップ。管楽器二本とピアノという編成だったので、ピアノの蓋は半開にしてもらい、リハに臨みました。
リハーサルにて
ステージに上がったとたん「すっげ」と声が出るくらい立派なホール。4階席まであり、ここにお客さまが入るとなると、もの凄くアツい会場になるだろうなと思い、ここで心拍数が上がりました。そして、目の前に美しいスタインウェイのグランドピアノ。監督から「スタインウェイは厚みのある深い響きのする楽器だけれど、その分重いぞ、そして機嫌がすぐに悪くなる」と言われており、どきどきしていたのですが、いざ弾いてみると、なんと端正な楽器なんだろう!っとこの楽器のファンになりました。もうおそらく弾くことなんてないんだから、今日は思う存分弾かせてもらいたいと、覚悟を決めました。
リベルタンゴから始めたのですが、予想通りものすごくライブな会場で、残響とアンサンブルしかねない箇所が多々あることに気が付きました。会場ももちろん温まっていないのですが、自分の演奏は音が回ってダイナミックに演奏出来ているという幻想を抱いてしまうくらい、ホールが素晴らしい。
しかしそれはホールのマジックであり、実力ではないんです。
聴いていたスタッフの方から「ピアノ少し大きいような気が」と言われて、いや、ゆきもあやめもそこまでまだがつがつ演奏していないのに、大きい小さいなんかあるのかよ、なんて思ったりもして、とにかくほかの出演者のリハーサルを聴いて判断しようと決めました。
ソプラノ、アルトサックス、ヴァイオリンとリハーサルを聴いているうちに、このホールのマジックにみんな騙されかけているように感じました。ステージ上で思っているより、客席には届いていない。だから音楽がどんどんとコンパクトになっていく。ピアノが主演者を食う。こんな現象が起きかねない状況でした。
ずっと調律師さんが聴いておられたので、リハ終了後、ピアノの蓋のことについて相談に行きました。「ピアノの蓋の全開・半開は、ボリュームではなくて、響きの調整です。半開だったから音がシャープになりすぎて、他の楽器から浮いて聴こえていたのかもしれません。僕は全開でコントロールするほうが上手くいくと思う。」
この言葉に、ピアノの蓋を全開にすることを決めました。
芸文の楽屋には食堂があり、今日のどんぶり定食は「牛スジ丼」でした。ななかしっかりとした味付けで、ご飯もういっぱいあってもよかったんですが、本番前なので控えることにしました。
リハーサル室にて
昼ご飯の後はリハーサル室にこもり、ピアノの練習を始めました。リハーサル室のピアノはカワイのアップライト。かなり重めでわたしの打鍵には合わない気がしながらも、おさらいをしました。そのあと、ゆきとあやめも合流して、最後の調整をしました。
開演、和太鼓の演奏が始まり、舞台袖に移動しました。移動前にみーこのいない分、わたしがみーこの手の役割をして、三人で四本の手でえいえいおーっをしました。とにかく、前を向いて、目を開けて、そして、でかい音で思いっきり演奏しようと話しをしました。
本番にて
ステージに上がり、ほぼ満席のお客さまに心震えました。久しぶりすぎて。もちろんみんなマスクしてるんだけれど、ぎゅうぎゅうに入っている。文句言う人は言うんだろうけれど、みんな黙って前向いているだけのクラシックの演奏会でクラスターが起こることなんてある?なんて思ったりもして。
演奏はあっという間でした。リベルタンゴではわたしのパワーしかないピアノにどんどんとスタインウェイの機嫌が悪くなっていくのを直に感じながらどやどやと演奏しました。
オブリビオンでは、あゆみは決して止めないように、しかし食いつきの良い心地の良いグルーブをもったミロンガを弾こうと意識しました。
演奏が終わると、大ホール一杯分の拍手を全身で受けました。お客さまの中の緊張と緩和。わたしたちの演奏をこのすべての耳で聴かれているという感覚、それに対して、湧き上がる大きな拍手。やっぱり、コンサートは絶対に人前でやるもんですよ。無観客なんてできっこない。音に対して拍手やため息などの音で帰ってくるからライブは面白いんですよ。
そんなことで、昨日から準備をしていた、司会者のひぐちさんとのやり取りもなんとかうまくいきました。
やり取りの内容はこちらです。
おかげさまでこちらの動画は視聴回数が明日には1000回になります。
たった10分の本番でしたが、年末年始の疲れがどっときました。
ホールの皆さんに心から感謝。
演奏の後、スタッフの皆さんから「良かった。ありがとうございました」と言っていただき、本当にうれしかったです。ベストの編成でなくなった時点で、出演辞退も頭をよぎったのですが、こうしてこのトリオでも出させていただけた懐の深さに感謝しております。とにかく話しかけて下さった関係者の方にただただお礼を言うことしかできませんでした。
2021年の好スタートだった
そんなことで、何はともあれこの一年の素晴らしいスタートが切れたように思います。コロナの時代のわたしたちピアソラ生誕100周年。100年の孤独にぴったりだなと思うくらいで、わたしたちも含めた人々は、孤独に向き合いながらも、音楽というひとつの炎を絶やさないことが、また誰かの心を温めるきっかけになるのだと信じて、この炎を守っていかないといけないと思いました。
壁と卵。音楽と聴衆。
最後に、MCでピアソラの話をするときに、村上春樹のこんな言葉を思い出していました。
壁に投げつけられる卵があるなら、僕は常に卵の側に立ちたい。
芸術音楽にダイレクトに触れる聴衆がいたなら、わたしは常に聴衆の側に立ちたい。
こんな感じで2021年も大好きな音楽と、お客さまと一緒に歩んでいきたいなと思った次第です。次の第10回定期公演は素晴らしいものにしますよ!
チケット全席指定です。良い席はお早めにお決めください。