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「続けコミティア」存続の危機、クラファンから2年 コロナ禍での現在地を聞く

現代において、個人のクリエイターが創作物を発表する場はネットが中心となっています。

一方、今のようにネットが発展する以前から創作の文化を支えてきた“場”の意義は、クリエイターが活動する上で今なおとても大きいです。

今回の記事では、1984年から続く世界最大級の同人誌即売会「コミティア」にスポットを当てます。

東京にて年4回開催される同イベントですが、コロナ禍の煽りを大きく受け、2020年5月の回、同年9月の回が中止となり、存続の危機にさらされました。

その後、「続けコミティア」と題したクラウドファンディングが実施されると、3000万円の目標額に対して、約1万2000人から約1億5000万円が支援される結果となりました。

多くの人々に支えられ、開催が継続されているコミティアですが、クラウドファンディングから2年が経ち、現状はどうなっているのでしょうか。

11月27日(日)に開催されたCOMITIA142をもってコミティア実行委員会の代表を退き、会長に就任した中村公彦さんに話を伺いました。

コロナ前と比べて6割ほどの規模

ーーまず、今年11月に開催されたCOMITIA142を終えての所感や手応えについて教えてください。

中村:私にとっては代表としての最後の回となりましたが、おかげさまで盛況となり、無事終了できてホッとしました。

閉会アナウンスはいつも代表の私が行うのですが、さすがに感慨深いものがありました。

COMITIA142の告知ポスター

ーー代表交代について、突然の発表に驚いた方も多いのではないかと思います。どのような反応があったのか、またそういった反応をどう受け止めていらっしゃるか、教えてください。

中村:代表を37年間続けてきたので、ずっと辞めないと思われていたようで、驚かれた方が多かったです。

しかし、コミティアをこれからも続けるための代表交代という主旨のお知らせを書いたところ、皆さん納得してくれたようでした。

とくに私が元気なうちに代表をバトンタッチすることには好意的な反応が多かったです。

COMITIA142当日は顔を合わせた多くの方から労いの言葉をいただきましたが、次回以降も私は会場に居ることを説明すると皆さんも安心してくれたようです。

なお、閉会後にスタッフ有志よりの「代表お疲れ様でした本」という同人誌をもらい、それを持ち帰ってみんなのコメントを読んでいたら、しみじみと代表退任の実感がわいてきました。

ーーコミティアの継続が危ぶまれるなかで実施されたクラウドファンディングから、2年が経ちました。参加者数などの現状は、いかがでしょうか?

中村:コロナ禍で離れたサークル参加者数と一般参加者数は、ゆるやかではありますが戻りつつあります。

コロナ前だと、サークル参加の申し込み数は最大で6000ほどでした。

そこから開催中止が続き、半年ぶりに開催できた2020年11月のCOMITIA134の申し込み数は1800くらい。

今回のCOMITIA142では、約3300サークルが参加しました。みんな、よく帰ってきてくれたなと思います。

とはいえ、コロナ前の規模にまで戻すのはなかなか難しいです。現状ではコロナ前の6割くらいの参加者数になりますね。

ーー開催中止になった当時からはだいぶ人が戻ってきていつつ、コロナ前の数字には及ばないと。

中村:ぱっと見は、コロナ前と変わらない雰囲気になってきているんですけどね。

5月に開催したCOMITIA140からでしょうか、「人がいて盛り上がっていた」「コロナ前に戻ったみたい」という声を、参加者の方々から聞くようになりました。

感染対策をとりながらのイベント参加にも、皆さん慣れてきた印象があります。

COMITIA141の会場の様子

巣ごもりで創作を始めた層が増えている

ーーコロナ禍以降、コミティアに参加される方たちの属性も変化がありましたか?

中村:サークル参加者の傾向を見ると、サークル参加者の平均年齢がやや上がっています。

コロナ前の十数年間は、サークル参加者の平均年齢は31歳くらいでしたが、最近は33歳くらいです。

原因として考えられるのはコロナ禍で学校がリモートになり、サークルなどの活動の場が途絶えてしまった期間が1~2年あったことですね。

学校の友達や先輩が参加していることをきっかけにコミティアを知るパターンが多かったはずなので、そういった流れが生まれにくくなってしまったのは大きかったと思います。

平均年齢はゆっくりと戻りつつありますが、若い方は感染リスクの高いご家族と同居している場合も多く、まだ人が集まるイベントに参加しにくいという方もいるんじゃないでしょうか。

ーーコロナ禍によって、若い創作者の方たちが参加しづらい状況になってしまっているということですね。

中村:私たちとしては、来てくれる人たちを大事にするほかありません。どうすれば彼ら彼女らにとって居心地の良い場所にできるか、常に考えています。

また、コロナ禍をきっかけに創作活動を始めて、コミティアに参加するようになったという方も増えているんです。

最近、初めて参加するという方からの、こういったイベントに不慣れそうな問い合わせが増えました。

そういった人たちがより参加しやすく、分かりやすい案内をしていければ良いなと考えています。

ーー新しくコミティアに参加するようになったのは、どういった人たちなんでしょう?

中村:コロナで外出を控える間に、SNSなどで創作活動を始めた人たちですね。その次の段階として、コミティアという場を選んでいただけているのかと。

コロナ禍になり、自分のことを発信しようとする人が増えたように思います。

描いた漫画やイラストが溜まってきたら、それをまとめて作品にしたい。そのための場所を探したとき、コミティアを見つけてもらえるのかなと。

「引かれるんじゃないか」 不安だったクラウドファンディング

ーー約2年前のクラウドファンディングでは、3000万円の目標を大きく超える約1億5000万円の支援が集まりました。

中村:すごい金額ですよね。当時はコロナ禍がどこまで続くのか、全く先行きの見えない状況でしたが、1年先くらいの目処が立ちそうな額を目標にしました。

それでも3000万円という高額になりましたので、引かれてしまうんじゃないかとか、全く集まらなかったら参加者の方に心配されてしまうんじゃないか…といった不安がありました。

そうした中での実施でしたがクラウドファンディングのページを公開すると、多くの方に支援をしていただいて一晩で目標額を達成することができました。

皆さんの気持ちに感激しましたし、この場所を絶対に守らなくてはいけないと奮い立つ気持ちになりましたね。

ーーそれだけ多くの方から「続いてほしい」と願われる場所だったということですね。

中村:コロナ禍が始まったときは先が見えず、「もうイベントはできなくなっちゃうのかな」とすごく落ち込んだこともありました。

世の中では「不要不急」という言葉が広まり、こういうイベントを開催すること自体が責められているような空気感があったんです。

そのため、東京へ人を集めること、参加者の人たちに来てもらうことへの後ろめたさがありました。

コロナ禍での運営、慣れるのは無理

ーーコミティア実行委員会として、コロナ禍でのイベント運営には慣れましたか?

中村:正直、慣れるのは無理ですね。これがずっと続くのは本当に辛いです。

コロナの感染者数の影響で、どうしても運営が不安定になってしまう苦しさがあります。

サークル参加の締め切りはイベントの2〜3ヶ月前なんですが、その時期に感染者数が増えると、応募が減ってしまう。当日には落ち着いたりするんですけど。

また、当日近くになっていきなり感染者数が増えると、入場券代わりのカタログが売れ残ってしまったりとか。

カタログの部数はイベントの1ヶ月前に決めないといけないんですけど、結果的にこれが廃棄になってしまうと悲しいです。

イベントのカタログである「ティアズマガジン」は、一般参加者の入場券にもなっている。画像はCOMITIA142のもの。

中村:また、不慣れな仕事がものすごく増えました。感染対策の仕事に人手とお金がかかってしまって、それが運営上の負担になっています。

イベント当日は検温や消毒の用意をしないといけません。また、「連絡先カード」を用いて参加者の個人情報を集めておく必要があり、その管理も大変です。

それらの作業のための場所を取る必要もあります。そのためだけに、小さなホールを借りたりもしたくらい。

ーーコロナ前と比べて、参加者数は減っている一方で、開催のために必要なコストは増えているという状況なんですね。

中村:実は、国や会場から求められる感染対策の要件は少しずつ更新されていくので、毎回オペレーションを変えないといけないんです。

すごく大変なんですが、参加者に負担がかからないようにしつつ、滞りなく運営できる体制を準備できなければイベントを開けません。

新しいガイドラインが発表されるたび、「これを乗り越えないとコミティアを継続できない」という緊張感を持って、じっくり読み込んでいます。

こういった大きなイベントをやる上では、感染対策にお金をかけなければいけないのは、仕方のないことです。

クラウドファンディングでは目標額を大きく上回るお金を支援していただきましたが、私たちの当初の想定を遥かに超えてコロナ禍は長引いており、政府の補助金なども活用しつつ何とか開催を続けている状況です。

参加者は増えてきていますし、この規模でやるからこその魅力があるイベントだと思うので、実行委員会としてのがんばりどころだと捉えています。

ーーこの規模で運営することを大切にされていると。

中村:そうですね。たくさんの人が集まることで、ここにいたいと思ってもらえるような場所になれるといい。

ウィズコロナの苦労はありつつ、なんとか開催できているのは本当にありがたいことです。

今後もこうやってコミティアを継続していくことを前提に、私たちは動いています。

「創作意欲が湧く空気」 作家と読者の出会いの場

ーー先ほどもお話しされていたように、今はWebサービスやSNSの発展によって、作品を発表する選択肢がたくさんある時代です。コミティア実行委員会として、今のコミティアはどのような価値のある場所だと考えていらっしゃいますか。

中村:Googleで「コミティア」と検索すると、「売れない」というキーワードが一緒に提案されます。

アマチュアの描いたオリジナルの自主制作本って、普通は売れないものなんです。そういった現実を否定する気はありません。

こちらの媒体で、コミティアに出て一冊しか売れなかったという作家さんがインタビューを受けていらっしゃいましたよね。

ーーTwitterで絵日記漫画を発表している、福田ナオさんのインタビューですね。

中村:実際には、一冊も売れないという人もいっぱいいます。それでもあえて自分の作品を多くの人に読んでもらいたいという人が、参加する場所だと考えています。

サークル参加された方には見本誌を出してもらいますが、スタッフはもちろんそれを読むし、無料で読める見本誌読書会もやっているので、誰かには必ず読まれるんです。

ーー本を売るためだけに来る場所ではないというか。

中村:売上だけを目標に参加する場所なのかと問われれば、そうではないように思います。

本を買う側も売る側も、「この人が描いたんだ」「この人が読むんだ」と思いながら、直接やり取りができることに、何ものにも代えがたい価値がある。

みんな、その体験のためにコミティアに来ているんじゃないでしょうか。

特に作家からすれば、WebやSNSだと閲覧数などの数字は見えるかもしれないけど、手触りがあまり感じられない面もあると思うんです。

その点コミティアは、「自分の本を読んでくれる人がいた」という強烈な体験をできる場所なんじゃないかと。

「コミティアの空気を吸うと創作意欲が湧く」「この美味しい空気を吸いに来ている」と言ってくださる方が、よくいらっしゃいます。

そういうふうに、「やるぞ」という気持ちになってもらえる場なのかなと思います。

ーー最後に、代表交代の背景について、中村さんは「継続のためには変化を怖れてはいけない」と書かれていました。今後コミティアを続けていく上での取り組みについてや、次回コミティアに向けての意気込みについて教えてください。

中村:元より自分の年齢(61歳)もあり、代表交代については1年半ほど前から準備してきました。

あいにくタイミングがコロナ禍と重なってしまい、この難局にもかかわらず新たな代表となることを引き受けてくれた吉田雄平には感謝しています。

ほとんど代表交代の挨拶に書いたことですが、コロナ禍を乗り越えウィズコロナ・アフターコロナの時代に対応するには、新しい感覚とノウハウが必要であり、これまでのやり方に囚われず新しいコミティアを作っていってもらいたいと考えています。

私自身はイベントの運営実務から離れて、対外的な折衝や発信を増やしていくつもりです。そうした形でコミティアの存在をより広く深く世間にアピールしてゆきたいと考えています。

なお、次回2023年2月19日のCOMITIA143では、私・中村公彦の会長就任イベントとして、「コミティアの創り方 ティアズマガジンのごあいさつ完全版」という同人誌を刊行し、会場で販売します。

私自身も時間を決めて販売ブースに入りますので、ぜひお声がけください。

これまで本媒体では、「クリエイターエコノミー」をテーマに、クリエイターのためのお金やキャリア、テクノロジーの事例を紹介してきました。

今、クリエイターを取り巻く経済圏は拡大している最中です。

Webサービスの発展によって、作品の提供のされ方やお金の支払われ方は、大きく変化し始めています。

一方、作り手と受け手がいて、作品を通してコミュニケーションするという関係性は不変のものであり、受け手の存在があってこそ作り手はその歩みを進めることができるのです。

液晶画面を通して誰にでも気軽に話しかけられる時代だからこそ、作り手と受け手がより強くつながり、互いの理解を深められるコミティアのようなイベントには、ことさら大きな価値を感じます。

他にもクリエイターさんのインタビュー記事などを更新しているので、今回の記事を楽しんでいただけたという方は、ぜひTwitterとnoteでフォローしていただけると嬉しいです。

▼COMITIA143について

コミティアの一般参加については、下記のページをご覧ください。

・一般参加の手引き - コミティア
https://www.comitia.co.jp/attention/

・カタログ販売情報 - コミティア
https://www.comitia.co.jp/html/tias.html

・コミティア公式サイト
https://www.comitia.co.jp/

話を伺った人

中村公彦
コミティア実行委員会・会長。1961年東京都生まれ。1984年、自主制作漫画誌展示即売会コミティアの設立に参画し、翌年より実行委員会代表を務める。2013年に第17回文化庁メディア芸術祭功労賞を受賞。COMITIA142をもって代表を引退し会長に就任した。

さいごに

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