書評:科学の発見 スティーブン・ワインバーグ著
著者 スティーブン・ワインバーグ
スティーブン・ワインバーグは1933年、アメリカ生まれの理論物理学者。「ワインバーグ‐サラム理論」を1967年に発表、79年にノーベル物理学賞を受賞した人物。
なぜこの本に興味を持ったのか
科学者なら自分の研究が少しでも自然現象の理解につながってほしいと思うのは当然のこと。そのためには確かな研究方法が必要なのですが、生命現象のメカニズムを明らかにするために必要な方法論とはどのようなものなのか。それを見つけるヒントを物理学の歴史から学べるのではないかと考えこの本を読むことにしました。残念ながら現在のところ、物理学のような精度で生命現象を理解するのは今のところできていません。例えば次のような精度です。「電子の磁気能率の大きさを1.3兆分の1の精度で理論的に決定し、3.6兆分の1の精度で求められている実験値と不確かさの範囲内で一致することを確認、この精度まで量子電磁気学が正しいことを検証した」
そもそも生命現象は確率的という問題はあると思いますが、このような精度で現象を説明できる物理学から学ぶことがあるのではと考えたのです。また、この本でワインバーグが述べているように、科学史を学ぶことの意義は科学が累積的であることに由来します。例えば、ニュートンよりアインシュタインの方が世界をよりよく理解していたといわれても異議はない。従って、現在の基準で過去(各時代の科学者)を裁けば、科学の進歩に貢献した思考法が何で、妨げた思考法は何であったのか、明らかになることになります。
本書で印象に残ったのは、ワインバーグの博識さ。こんなことまで知っているのかと思わせる記述が出てくる。さらに、本書を読んだ理由とも重なるのですが、哲学の教科書に出てくるアリストテレスが考えたことが、人々の自然観に長い間影響力を持っていたこと。そこにガリレオが実験を導入し科学的方法論の確立に貢献していく当たりが読み応えがありました。
生物学と物理学の比較
実際に研究をする上で考えなければならないところは生物学と物理学の比較です。ワインバーグが述べているように、自然現象を「歴史的偶然に左右される部分」と「法則」に分けて考えてみましょう。すると太陽系の惑星の動き、生命、生命現象は前者。ニュートンの運動法則、メンデルの遺伝の法則、DNAの二重らせんモデルは後者に分類される。こう考えると生物学の研究対象の多くは前者になる。そうするとそんなに生命現象に法則性を期待してはいけないのかとなってしまう。まあ、そこは現在分からないだけかも知れないので、歴史的偶然の結果を明らかにする過程で、その中に生命現象の法則性を常に追い求める態度が実際の研究では必要ではないかという方針に落ち着いたのでした。