130年の歴史を正解にするのが、アトツギの使命「Starke-R」が値上げをしないその理由
リングスターは奈良県でおよそ130年にわたり、工具箱からさまざまなプラスチックケースまで作り続けてきた老舗の"箱"メーカーです。今まで職人のためのものという「道具箱」をより多くの人に手に取ってもらうべく、アウトドアブランド『Starke-R(スタークアール)』を立ち上げました。
ブランドの立ち上げ期に活用したMakuakeでは、累計2,500万円以上の応援購入を集めています。今回は『Starke-R(スタークアール)』の生みの親、株式会社リングスター取締役・唐金祐太さんにお話を伺いました。
(聞き手:CRAFT STORE広報 木山)
考える癖をつける。下積みあってこそのイマ
ーー唐金さんは高校を卒業されてからすぐ家業に入られたそうですが、取締役に至るまで、どのようなキャリアだったのでしょうか?
奈良の自社工場で6年間モノづくりを学んだ後に、物流と営業を経て、現在は取締役として新規事業の立ち上げや営業など幅広く業務を行っています。会社に関わるすべての工程を経験できたといっても過言ではありません。
ーー工場で6年って長いですね。ものづくりの現場を間近で見てきたからこそ語れるものはありますよね。営業時代はかなり積極的なIPコラボ企画もされていたとか。
法人営業をしているときは、販路であるホームセンターさんはもちろん、「スターバックス コーヒー ジャパン」さんや「BEAMS(ビームス)」さんとのコラボなど積極的に新しいことをしていました。アウトドアや釣具をSNSにあげていたら面白がって見てくれる人が増えて、そのご縁から企画に繋がりました。
ーーMakuakeを始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
『Starke-R(スタークアール)』は、始めからMakuakeをやる前提でプロダクトを作っていたわけではないんですね。
『アトツギファースト』事務局の人とごはんに行った時に、新規事業のことを話したら「Makuakeやった方がいいよ!」と言われて、Makuakeの方を紹介してもらったのがスタートでした。
裏起毛衣類のパイオニア「ワシオ株式会社」さんの事例を知ってリスクないならやってみようと思ったんです。なのですでに販売が決まっていたアウトドア専門店さんにちょっと待ってもらってMakuakeに挑戦しました。
専門性×ブランド力で未来の利益を守る
これまでリングスターの製品はホームセンターでの販売がメインでした。しかし専門性が高い『Starke-R(スタークアール)』は、アウトドア専門店で取り扱いが新たな販路になったのです。定価販売が基本なアウトドア専門店なので、ブランドを守ることと利益を守ることにつながっています。
スタークアールが値上げをしなかった理由
関わる人すべてのために
ホームセンターなどはEDLP(Everyday Low Price)戦略で、どんどん値下げをしていく分、ブランドや利益を守ることが難しい業界でもあります。今回プロダクトに専門性を持たせ利益を守れたことで、会社が成長できて、代理店さんも販売店も潤い長期的な信頼関係をつくることができる。円安や原材料高騰でも『Starke-R(スタークアール)』は値上げをしなかったんです。そこに頭を使いたい。赤字を出していていては長期的な選択を取りにくいですが、先代が積み上げてきてくれた歴史があるから長期的な戦略が取れるわけです。
ーーリングスターのロゴも「お客様、仕入先様、従業員、リングスターに関わるすべての人々が手を取り合い 星を眺めている」の意味が込められているとおっしゃっているように、関わる人すべてのためを考えてという思想が伺えます。イマだけではなく次の世代を見越したものづくりは、林業のような思想さえ感じます。将来的に目指したいものづくりの理想はあるんでしょうか?
20年後にキャンプ業界の収納は、結局『Starke-R(スタークアール)』がいいよね。といわれるものづくりを目指しています。また箱には未来があると思っていて、医療の現場からおもちゃ箱まであらゆる収納ボックスを、リングスターで変えていきたいです。箱に入るものってじつは世の中たくさんあるんですよ。
Makuakeの制作を通して言語化してもらった
ーーこれまで3回にわたるMakuakeはすべてニューワールドに制作をご依頼いただいていますが、その決め手はなんだったのでしょうか?
初めてMakuakeをした際に、清水さん(ニューワールド・クリエイティブディレクター)に、いつも思っているけれどうまく言えないことを言語化してもらってそれがすごくよかったんですよね。僕らはものづくりをする、だから写真を撮ったりクリエイティブは内製化せず、ニューワールドにおまかせしました。適材適所ってあるかと思います。何より一緒に仕事していて楽しいからですね。
親がやってきたことを正解にすることが子のつとめ
ーーものづくりの哲学や会社の理念など一貫したものを感じあるのですが、唐金さんのオリジンってどこにあるのでしょうか?
母方の祖父がお寺のお坊さんで、困っている人を助けなさいと言われて育ったんですね。世界平和の実現は1人では難しい、だからコツコツとつなぎ合わせていくように、普段から身近な家族や、社員、仲間に全力で愛を持って接していく。それをひたすら繰り返していくだけ。事業に関しても先代が守ってきてくれたものがあるから、しっかりブランドを守りながらじっくり育てることができる。親が今までしてきたことを正解にするのが子の努めだと思っています。
今までの歴史があるけれど、努力はしないといけない。まず努力をする環境を作るようにしています。たとえば「朝4時に筋トレする」って周りに言うとか。
ーー公表することで行動できる仕組みですね。公表にポイントがあるように感じます。ずっと公表されていますよね。
とりあえずやる癖をつけるようにしています。あとは人に会うこと、やったことないことをやる、本を読むことは意識しています。高校卒業後に家業に入ったので、あまりやりたい事をやれてないというか。もっと色んな事を見て、経験する事で仕事にも良い影響が出ると思うので、色々な物事に挑戦しております!最近は日本一高い岐阜バンジー(215m)を飛んできました!笑
老舗プラスチック工具箱メーカーと対馬の海洋問題
ーー最近新たに取り組んでいることなどあるのでしょうか?
リングスターは100年以上一貫して工具箱を作り続け、木製・鉄製・樹脂(プラスチック)製と時代に沿った素材を選び、今日まで現場でも20年以上使えるプラスチック製の工具箱をつくっています。30年前からプラスチックを使って工具箱を制作している背景もあって、世界的に問題になっている「海洋プラスチック問題」にパタゴニアさんと協働で取り組んでいこうと考えています。
ーー損得で物事を考えず長期的によりよい世界を目指していく姿は、長く使えるものづくりを続けているリングスターさんだからこそできる経営理念ではないでしょうか。
いち消費者としてモノを選ぶ際に、何を買って何を見に纏うかによって思考が変わると思っています。モノに品性が宿るのか、モノが品性を宿してくれるのかよく考えるのですが、まさにリングスターは会社として唐金さんの人生として、そんな品性とモノの関係性を体現してくれている存在だなと感じました。今後もリングスターの挑戦に目が離せません。