「日本の食」を守るために、共に手を取り立ち上がる
株式会社安川電機 上席執行役員 浦川明典氏 ×
コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役ファウンダー・沢登哲也
「このままだと30年後には日本に食べるものがなくなるかもしれない。それにはロボティクスの力が必要」。そう話すのは、世界4大ロボットメーカーのひとつである株式会社安川電機 上席執行役員の浦川明典氏。
2023年2月、「食産業をロボティクスで革新する」を掲げるコネクテッドロボティクスは同社からの資本業務提携を受けることが決定しました。
世界で大きな影響力を持つ安川電機はなぜ、ロボティクスのスタートアップとタッグを組むことになったのか。そして、世界的なメーカーと最先端の技術を持つスタートアップが組むことで、食の未来はどのように変わっていくのか。
そこで、株式会社安川電機 上席執行役員の浦川明典氏(以下、安川電機・浦川氏)と、コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役ファウンダー・沢登哲也(以下CR・沢登)に、今回の提携の狙いを伺いました。
オートメーション化を共に加速させる
―安川電機さんはこれまで、産業用ロボットをはじめ革新的な製品を次々と世界に送り出されていますが、現在はどのようなお取り組みに力をいれているのか教えていただけますか。
安川電機・浦川氏:安川電機は1915年の創立以来「電動機(モータ)とその応用」を大きな柱として事業を拡大してきています。「事業の遂行を通じて広く社会の発展、人類の福祉に貢献する」という経営理念に基づき、“モータの安川”から“オートメーションの安川”を経て、“メカトロニクスの安川”へと、時代の主力となる事業を支え続けてきました。
中でも「モータ制御技術」は強みのひとつで、複数のサーボモータを同時に制御するコントローラ、それらを組み合わせた産業用ロボットの製造販売・事業領域の拡大に力を入れています。サーボモータを外販まで行っていることも特徴ですね。サーボモータが広がっていくことで、ロボットとその周辺機械が一台のコントローラで制御できるようになります。それを実現しようと、コントローラの開発に取り組んでいます。
そうやって我々の多様な技術・製品を社会に広げることで、機械の高度化やものづくりの自動化・省力化、労働力の不足、そして3K(きつい・汚い・危険)からの解放といった社会課題の解決に繋げていきたいと。「人々が安全で安心な人間らしい生活を送れる社会をつくること」、これこそが安川グループの存在意義でもあります。
そうした中で、我々はCRさんのようなスタートアップに対する投資を行っています。ちなみに、我々のスタンスはキャピタルゲインを目的としたものではなく、協業先を見つけたり、海外の現地法人のサポート、二次電池市場のグローバルマーケティングなど、企業成長やイノベーションに繋がる取り組みを行なっています。
―安川電機さんは、数年前から「安川イノベーションプログラム」という新規事業創出プログラムを実施され、スタートアップとの提携に力を入れていらっしゃるように思います。なぜこのタイミングで、CRさんに出資をされたのでしょうか。
安川電機・浦川氏:最近は少子高齢化ということで、労働力の確保が喫緊の課題になっていますよね。そうした背景もあって、オートメーション化が急がれているわけです。そのために将来性のあるスタートアップと組みたいと考え、沢登さんと出会いました。
沢登さんは以前、ソフトサーボシステムズ(現:モベンシス株式会社)という会社にいらっしゃったということですが、同社の創業者である梁(ヤン)さんは私もよく知っている方なんです。その梁さんの元で活躍されていた沢登さんなら信頼できるだろうと。
CR・沢登:浦川さん、改めてありがとうございます。お話いただいた通り、以前はソフトサーボシステムズで、産業用ロボット、いわゆるロボットアームのコントロールに携わっていました。その後創業したCRでは、ロボットコントロール・AIといったような、いわゆるソフトウェアを強みに取り組んでいます。
出会いはいつかというと2020年くらいでしょうか。安川電機さんがスタートアップへの投資を積極化されているということを聞いて、お話させていただいて。そこから2年くらい経ちますが、我々もようやく拡大フェーズに入ってきましたので、この半年くらいの間で資本業務提携を進めてきました。
―話が一気に進んだのですね。
CR・沢登:確か2022年秋頃に具体的にお声掛けさせていただいたかと思います。シリーズBもある程度進んでいたのですが、今回食産業に関わる企業様に加えて、ロボットメーカーさんにもぜひ1社入っていただきたいということで、その重要なキーとなるピースを、ぜひ安川電機さんにお願いできたらということでお話しさせていただきました。
日本の未来の食を守るために
―そうした中で両社の考えが一致して今回の資本業務提携に至ったと思いますが、タッグを組むことでどのようなことを期待されたのでしょうか。先程の「オートメーション化」はそのひとつだと思いますが。
CR・沢登:そうですね。我々はソフトウエアの会社なので、信頼のおけるロボットをつくられている安川電機さんとご一緒できることは、製品を安定供給していく上で非常に重要だと考えています。
我々の取り組んでいる食産業の中でいえば、ロボット化が進んでいる部分と、全然進んでいない部分があります。その全然進んでいないところをなんとかしようと取り組んでいるのですが、安川電機さんとのお取り組みを通じて、技術的なインパクトもそうですが、「どんどんロボット化をしよう」というような流れが食品業界全体で起こってほしいという思いがあります。
安川電機・浦川氏:先ほど申し上げた人手不足というのは、当然、食の分野だけではなくて、様々な業界で起こっていることなんですよ。そうした状況から、近い将来ロボットがものすごく活躍する時代になるだろうと予想しています。そこに対応できるようなソフトウェアの技術をCRさんがお持ちなので、我々のハードウェアとして組み合わせて新商品を生み出していきたいと、そういう構想があります。
―両社が組むことで様々な課題が解決されていくと思いますが、直近はどのようなソリューションを考えていらっしゃいますか。
CR・沢登:直近の課題解決という部分では、安川電機さんのロボットを活用して、外食の厨房や食品工場のラインにおける人手不足を解決するということですね。
これまでロボットにできることは限られていました。それだと多様な作業が必要になる食産業ではなかなか導入に繋がりませんので、様々なことに広く対応できる汎用性のある技術が必要になります。プロセスの標準化やお客様側の要望をすぐに組み込むなど、すぐに使ってもらえるようなサービスに仕上げていくことが、重要なステップになってくると考えています。
安川電機・浦川氏:安川電機のロボットはこれまで自動車産業がメインだったので、食という分野ではCRさんにリードしていただいて、まずは我々がそれに対応できるようにしていくといったところが最初の取り組みになると思います。
それから、食産業でいえば第1次産業である農業や漁業も人手不足がかなり深刻化していますよね。特に農業は高齢化が進んでしまい、逼迫している状況です。日本の自給率の低さも問題になっていますが、このままいくとさらに低下し、30年後は食べるものがなくなるかもしれない。
CRさんもそこをどうにかしたいと考えていらっしゃるとは思いますが、我々としても食品から始まって第1次産業の人手不足解消に取り組みたいですね。また、食業界だけではなく、人手不足で困っている他の業界にも提案をできるように広げていけたらいいんじゃないかと。そこがロボットの力で解決されることで、だいぶ世の中が変わっていきますし、大きなインパクトになるんじゃないかなと考えています。
CR・沢登:汎用性のあるロボットが課題を抱えている様々な現場で活躍することは当然必要なことだと思いますので、今手掛けている飲食店や食品工業以外でも幅広い食のシーンでロボットが活躍できるように、私たちが貢献できればと思っています。
―社会へのインパクトは当然のことながら、両社が混じり合うことで社内にもいい刺激になりそうですね。
安川電機・浦川氏:間違いないですね。CRさんとは全然社風が違いますから。我々のエンジニアとCRさんのエンジニアの方が交流することで、現場からも良い化学変化が起こればいいなと期待しています。
CR・沢登:私も両社の刺激になるといいなと思っていまして。まずは関係を育んでいきたいですね。
テクノロジーの力で変えるべきものを変えていく
―両社のお取り組みで、近い将来、人手不足が解消される未来が想像できます。そこにはどのような思いがあるのでしょうか。
CR・沢登:私たちのビジョンのひとつに、「つらい仕事をなくす」ということがあります。これは食産業に関わる方々のつらい仕事とかつまらない仕事をロボット任せることができるということです。食に関わる労働についていうと、先進国から発展途上国に仕事が移管されてきたということが歴史的に緩やかに続いています。今後はそうではなくて、人から技術に移管されて将来的には人が食を確保するために苦労して働くという概念がなくなる世界をイメージしています。
それからもうひとつは食べ物の質の向上ですね。生産性が高くて、安くすぐに手に入るだけではなくて、美味しくて健康的な食べ物が持続的に人類全体に享受される。そんな未来をつくれたらと思っています。
安川電機・浦川氏:子どもの頃の生活を思い返すと、当時は洗濯板で洗濯をしていたのが、自動で絞るという技術の進化によって洗濯機が生まれました。炊飯器も当初は単に炊飯するだけだったのがどんどん多機能になっていって。私たちが使う道具は時代に合わせて常に進化してきていますよね。
そうやって世の中が便利に変わっていく中で取り残されてきたのが「過酷な労働」と言われています。特に日本人は真面目なので、耐えるんですよ。たとえば外食などは、立ちっぱなしで仕事をしている人たちがとても多い。非常にきつい状況だと思いますね。そうしたところに我々のロボットが貢献できればと考えていますし、CRさんとも思いが一致するところではないでしょうか。
やはり世の中には「変えていいものと変えてはいけないもの」があります。文化などは変えてはいけないものだと思いますが、少しずつでも変えていかなければいけないものも、まだまだたくさんあるわけです。そういう部分をCRさんと一緒に、テクノロジーの力で少しずつ変えていけたらと思いますね。
CR・沢登:ありがとうございます。
―テクノロジーによって、必要な人に必要な変化を起こす。そんな未来が想像できました。ありがとうございました。
クレジット)
協力:株式会社安川電機:https://www.yaskawa.co.jp/
提供:コネクテッドロボティクス株式会社:https://connected-robotics.com/
※ 本記事は2023年1月の取材をもとにしています。