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OEDO[3-5] 無理ゲーの攻略

「非武装による武装」──まったくトートロジカルに矛盾した理論を展開しているようですが、実はこれが王道。一種「裸の王さま」の寓話のようですが、毒だったものが薬になるパルマコンのごとく、世界の価値観は転換しています。誰かが「王様は裸だ」と叫べば、事態は打開できます。

今さら植民地主義を復活できますか。今さら共産主義革命を興せますか。ほんの半世紀前、一世紀前には常識だったことが覆る世の中です。戦争と軍備そのものも、そろそろ用済みになります。いや、実は先進国ではすでに過去の遺物となっていてもおかしくない、時代遅れの代物です。

今回のウクライナへの侵攻が「古いタイプの戦争」だと驚かれ、世界的な非難を浴びたように、もともと自国の一部だった国を取り戻そうとするだけで、これほどの困難を極める時代です。報道を信じるならば、戦況はロシアに不利に傾いているようですが、実は開戦当初からその勝負はついていました。

歴史学者のハラリ氏は開戦間もない頃に「プーチンはすでに負けたのです」と断言。『サピエンス全史』で見せた射程距離の長い洞察からこの結論を導きました。ウクライナとロシアの勝敗がどちらに転ぼうとも、彼の視線はさらにその先、戦後の後処理を捉えていたからです。

僕自身は彼の理論に全面的に賛同している訳ではありません。しかしこの一点については大いに頷けます。これまでも2章に渡って「非武装国家に対しては開戦も侵攻も不可能である」と説いてきましたが、たとえそれが可能になっても、その先の占領・統治が無理ゲー過ぎるのです。

話は変わるようですが、昨今はコンプラだのポリコレなどが加熱し過ぎているように感じませんか。NYではデパートで「メリークリスマス」が表示できなくなったり、フランスでは「お父さん・お母さん」という言葉が使えなくなったりしているそうです。民族やLGBTへの配慮だと説明されます。

その一つ一つの現象に対しては皆さん賛否の意見をお持ちでしょうが、否定できないのは、先進国がすでにこのマインドにあるという事実です。戦争や独裁とは程遠い、対極の価値観。一世紀前だったら何のためらいもなく虐殺、蹂躙してきた弱者にも、配慮と敬意が求められるのが先進国の民度なのです。

この波は後進国、ロシアや中国のような独裁国家にも少しばかり及んでいます。同じ独裁者も、ヒトラーやムッソリーニと比べると、今やすっかり貧祖で弱っちくなった感が拭えません。ただの白い紙に屈して政策転換した近平くんなんか、5000万人を虐殺した毛沢東先生からすれば叱責ものでしょう。

同様に、今回の東部4州でも、9年前のクリミアでも、律儀に「住民投票」なぞしてみせたプーチンくんの小さいこと小さいこと。師と仰ぐスターリン先生のように2000万人規模で大虐殺をしてしまえば、こんな長期化する戦争に手こずる必要もなかったのです。

でもできませんよね。戦後これだけ経っても非難され続けるドイツを目の当たりにしていれば。自分だってゼレンスキーをナチ呼ばわりしているぐらいです。日本も未だに慰安婦や徴用工で責め立てられています。ハラリ氏が指摘するのはこの点です。昔のように力でねじ伏せる訳にはいかないのです。

開戦から1年、ロシアがウクライナから買った恨み辛みは相当なものになるでしょう。この先何十年も消えることはありません。既に国際的な信用も失い、西側企業も次々と撤退。優秀な人材も海外へと流出しました。この先かろうじて戦争に勝てたとしても、ロシアには衰退と国内の反逆分子とが残されます。

これを我が国、日本に置き換えてみたら容易に想像がつくでしょう。最盛期には100近くあった植民地が自然消滅したのだって、結局はコストパフォーマンスが悪かったからだとする分析もあるぐらいです。独裁的に統治しようとすれば、こんなに割りの合わない国もないんじゃないでしょうか。

資源もなく、技術力も衰退。子どもや若者が減る一方で、口うるさい老人が増えるばかり。今や観光とアニメぐらいしか誇れる産業はありません。これといって搾取できるものも何もない。この先の希望と言ったら「地球防衛隊」の実現ぐらいしか残されていない国家です。

それでもGDP世界3位、人口11位の大国。周辺の島々に領土問題を抱えるものの、分かりやすく海で国境が確立している独立国家。こんな国に少しでも進撃しようものなら世界に悪目立ちしますし、「地球防衛隊」が実現されていたら、その世界貢献のおかげで、NATOやグローバルサウスも黙っていません。

ダメ出しのように国民は礼儀正しく、品行方正。教育により自由と平等の意識が涵養されています。民度も高く。治安も良くて、おもてなしの心遣いが暖かい──海外からの旅行者の評価もこんなところではないでしょうか。汚職と腐敗にまみれた独裁政権と合い入れるところは、何もありません。

そんな国を占領したって、永きに渡り統治なんて出来ないことはあちらも分かっています。向こうも自称「民主主義国」です。どんな不正が行われているのかは分かりませんが、曲がりなりにも選挙を行なう体裁だけは整えているのですから、日本国民からの清き一票なんて欲しくもないはずです。

よって、開戦も、侵攻も、統治も無理ゲーになるのです。それでもハラリ氏が「人間の愚かさを決して過小評価してはならない」と警告する通り、「地球防衛隊」という裸の勇者も愚か者には見えない可能性もあります。そのランキングを駆け上がれるかどうかは、皆さんのカゲからのお力添え次第です。


※最後までお読み頂きありがとうございます。この「地球防衛隊」全体の構想は最初の投稿「OEDO[0-0]地球防衛隊法案──概論」にまとめています。それ以降の章は、この章も含めて、その詳細を小分けして説明する内容になっております。

第一部[1-1]〜[1-9]では「戦争観のアップデート」について。第二部[2-1]〜[2-9]では「地球防衛隊の活動と効用」について。第三部[3-1]〜[3-9]では「予想される反論への返答」について。第四部[4-1]〜[4-9]では「地球防衛隊に至る思想的背景」についてを綴って行く予定です。

敢えて辛辣に、挑発的に書いている箇所もありますが、真剣に日本の未来を危惧し、明るいものに変えたいとの願いで執筆に励んでいます。「スキ♡」「フォロー」や拡散のほど、お願いいたします。批判、反論のコメントも大歓迎です。

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