OEDO[1-3]戦争のインセンティブ
領土、植民地を奪い合うための戦争が終わり、経済効果のための戦争へのシフトが起きた転換点は1929年「世界恐慌」に端を発していたのではないかと僕は睨んでいます。政治学者のE・H・カーが『危機の二十年』と呼んだ第一次大戦と第二次大戦との合間になります。
「恐慌」と言えばインフレのイメージを抱く人が多いかもしれませんが、NYの株価大暴落から始まった世界恐慌は、典型的なデフレ圧力による不況でした。物が売れないので物価の下落が止まらず、当時のF・ルーズベルト大統領は有名なニューデイール政策を打ち出すことになりました。
財政出動──税金を無理にでも国家事業に投じれば、眠っていた通貨が労働者に流れ、景気が持ち直すだろうという政策。アベノミクスの2番目の矢でしたね。予告したトリクルダウンが起こらず、格差拡大に終わったとの批判を受けていますが、ニューディールの効果も学者たちからは疑問視されています。
結局はそのまま第二次世界大戦になだれ込み、大量の軍事費を出動させて米国の景気は回復したのだという分析です。提唱者のケインズ自身が「公共投資は穴を掘って埋めるだけの事業でも経済効果がある」と書き残したくらいですから、無数の墓穴を掘る戦争の経済効果はそれなりにあったのでしょう。
そうとなれば資本家たちがお行儀よくしているはずもありません。アイゼンハワー大統領退任時に警鐘が鳴らされたミリタリーコンプレックス──軍産複合体は、当時でさえ米国の雇用の10%を支えていたと言われます。物余りの時代に物を破壊する軍事力は、経済活性化において実に有用なのです。
これはE・H・カーとの同時代人、ロジェ・カイヨワの『戦争論』でも指摘された戦争の効用です。理想よりも軍事力が国際政治を動かすと主張するカー。リアリズムの旗手と称されてはいますが、カイヨワの分析も同様、いやそれ以上にリアリスティックな現実を論じていると思います。
僕個人はその効果に懐疑的ではあるのですが、世の学者や大統領がそう論じれば、世界はそのベクトルに突き進みます。戦争は儲かる。植民地を争奪し合っていた帝国主義の時代に比べ、民衆にははるかに分かりにくく、システムとしては構築しやすい戦争へのインセンティブ、動機が生まれたのです。
科学や技術が発展すれば必ず、モノの生産力はどうしても上がるのです。たとえそれが農作物であっても、工業製品であっても、武器であっても──。するとまた必ず、市場にはモノが余るようになります。企業は生産する能力はあっても、売り切ることができません。賢い庶民はいつも慎重で、財布の紐は硬いからです。
民に売れなければ国に売るしかありません。市場には神の見えざる手による限界がありますが、国家財政は増税や国債でいくらでも引き出せます。震災の復興費や社会保障費を転用しても良いですし、それでも足りなければ国民の皆様に「痛みをともなう増税」をお願いすれば済むのです。
不況時の企業にとってこれほど好都合なことはありません。官僚も政治家も、賢くもなければ慎重でもありません。自分の金じゃないから財布の紐はガバガバです。後は時を待ち、今回のウクライナ侵攻のように、国民の不安が昂じるタイミングを見計らっていれば良いのです。
ミリタリーコンプレックス(軍産複合体)とは、かつて重工業や電子産業で栄えたゾンビ企業と、そこから献金を引き出すことで票を集める政治家とのコンプレックスの塊りなのです。
同じ公共投資でも、不要なダムや豪華すぎる市庁舎、イカのオブジェなどを作れば批判が出ます。しかし軍事費は国民不安を煽るだけでいくらでも引き出すことができます。兵隊の頭である政治家に「足らんわっ……まるで!!」「搔きあつめるんじゃ!!」と命じるだけで無限に引き出せるATM──。
人間の不安は無限です。戦争に対する恐怖は、逆に戦争を招き入れてしまうパラドックス。軍備を増大すれば国家間の緊張も増大するという安全保障のジレンマです。その歯止めとなるのは「地球防衛隊」法案しかありません。懸念される災害だけでなく、戦争への不安をも解消するエスポワールに。
※最後までお読み頂きありがとうございます。この「地球防衛隊」全体の構想は最初の投稿「OEDO[0-0]地球防衛隊法案──概論」にまとめています。それ以降の章は、この章も含めて、その詳細を小分けして説明する内容になっております。
第一部[1-1]〜[1-9]では「戦争観のアップデート」について。第二部[2-1]〜[2-9]では「地球防衛隊の活動と効用」について。第三部[3-1]〜[3-9]では「予想される反論への返答」について。第四部[4-1]〜[4-9]では「地球防衛隊に至る思想的背景」についてを綴って行く予定です。
敢えて辛辣に、挑発的に書いている箇所もありますが、真剣に日本の未来を危惧し、明るいものに変えて行きたいとの願いで執筆に励んでいます。「スキ♡」「フォロー」や拡散のほど、お願いいたします。